[4月1日10:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
オーナー:「はい、それじゃエレーナ。交替するよ」
エレーナ:「はい。今日チェックアウトのお客様は全員退館されました。それから……」
エレーナは住み込みで格安ビジネスホテルで働いている。
バックパッカーも多く利用するこのホテルにおいて、マルチリンガルのエレーナはとても重宝されていた。
エレーナ自身も世界各国からやってくるバックパッカーの情報を手に入れることができ、一石二鳥であった。
エレーナ:「……以上です」
オーナー:「ご苦労さま。今日は一日オフだね。久しぶりの日曜日休みだ。ゆっくりしておいで」
エレーナ:「はい。ありがとうございます」
エレーナは丁寧に挨拶したが……。
エレーナ:(ここ最近、“魔女の宅急便”の仕事が無いのよねぇ……)
というボヤきを心の中でした。
と、そこへ……。
エレーナ:「ん?」
鈴木:「こんにちはー」
元顕正会男子部組長にして、今は日蓮正宗第3布教区の大化山正証寺の信徒になった鈴木弘明がやってきた。
エレーナ:「な、なに?また予約しないで来たの?チェックインは16時からだよ?」
鈴木:「違いますよ。この度、近くのマンションに引っ越して来ましたんで、その挨拶です」
オーナー:「ほお……」
エレーナ:「え?……え?……ええーっ!?」
鈴木:「といっても、一駅変わっちゃうけど……。最寄り駅は菊川です。でも、同じ新大橋通り沿いなんですよ」
オーナー:「森下駅も菊川駅もそんなに離れていないからね。区が違うけれども……」
森下は江東区、菊川は墨田区である。
途中に区境があるわけだ。
鈴木:「これから毎日遊びに行けるね。あ、もちろん、俺のマンションに遊びに来てもいいよ」
それを聞いてエレーナはげんなりした。
エレーナ:「あの時、思い知らなかった?魔道師に深く関わると、痛い目に遭うって」
鈴木:「俺も“協力者”になるよ」
エレーナ:「誰から聞いたんだ、アンタ……」
オーナー:「鈴木君……だっけ?私はキミの言う“協力者”に当たるんだけど、正直言って生半可な気持ちではできないよ?日本ではまだ少ないけど、海外には魔女狩りが未だ存在するからね。それに“協力者”というだけで、危険な目に遭うこともある。例えば“魔女の宅急便”というアニメではかなり好意的に描かれているが、しかし魔女狩りを行う側からすれば、あの主人公を住まわせたパン屋さんだって襲撃の対象となるだろう。つまり、そういうことなんだ」
鈴木:「魔女狩りを行う……邪教キリスト教の集団ですか……」
鈴木は俯いたが、すぐに眼鏡をキラーンと輝かせた。
鈴木:「ご安心ください。その為の法華講です」
オーナー:「な、なに!?」
鈴木:「邪教キリスト教の集団など、我ら青嵐法華講が塵芥に処して差し上げましょう!『流血の惨を見る事、必至であります』!」
オーナー:「怖い怖い!」
エレーナ:(こいつ絶対アメブロやらせちゃいけないヤツだ)
鈴木:「それはともかく、キミにちょっとした情報があるんだ。後で時間いいかな?」
エレーナ:「夜勤明けだから、寝かせてもらうよ?」
鈴木:「午後でいい。むしろ、時間は遅めの方がいいな」
エレーナ:「遅めって……」
鈴木:「夕食、一緒に食べない?俺が奢るよ」
エレーナ:「えっ、ホント!?行く行く!」
オーナー:(タダ飯とタダ酒には目の無いコだからなぁ……)
鈴木:「じゃ、決まりだね。今日の夕方6時……18時に迎えに来るよ」
鈴木は再び眼鏡をキラーンと光らせ、ニヤッと笑った。
[同日18:00.天候:晴 同ホテル地下1階 エレーナの自室]
エレーナ:「Per me si va tra la perduta gente.Per me si va ne citta dolente,Lasciate ogne speranza,voi ch’intrate.」(訳:我を通らば、滅びの人々の中へ。我を通らば、苦悩の街の道へ。我が門に入らんとする汝、一切の望みを捨てよ)
エレーナは薄暗い部屋で魔道書を呼んでいた。
新しい魔法を覚えようとしているのだろうか。
エレーナ:「Pape Satan,pape Satan alepe!Lasciate ogne speranza,voi ch’intrate.O vendtta di Dio.」(訳:パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!我が門に入らんとする汝、一切の望みを捨てよ。嗚呼、神の復讐よ)
『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ』は何かの掛け声らしい。
その為、ダンテ一門では実際に魔法を使用する際の詠唱として使用されている。
『南無妙法蓮華経』と意味合いは同じかもしれない。
プー!
エレーナ:「おっと!」
その時、室内の内線電話が鳴った。
エレーナ:「はい!」
エレーナは急いで電話を取った。
オーナー:「鈴木君が来たよ」
エレーナ:「あ、そうだった。今行きます!」
鈴木との約束をすっかり忘れていたエレーナだった。
で、すぐに1階に向かった。
[同日18:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 ジョナサン菊川店]
鈴木:「いやあ、嬉しいなぁ。本当に俺と一緒に来てくれるなんて。功徳だね」
エレーナ:「仏に感謝するのは勝手だけど、神には感謝しないでよ」
鈴木:「もちろん!俺は日蓮正宗の信徒だ!」
エレーナ:「で、食事と酒を奢ってくれる約束でしょ?」
鈴木:「もちろん!金ならある!」
鈴木、親からの仕送りだけで溜め込んだ札束の入った長財布を見せる。
エレーナ:「OK.それじゃ、食べましょう」
鈴木:「遠慮しないで、好きなもん頼んじゃってよ。俺はとんかつだな」
エレーナ:「あら?意外と和風」
鈴木:「そうだろそうだろ。あとはドリンクバーを……」
エレーナ:「酒は頼まないの?」
鈴木:「俺は飲めないんだ。特盛や稲生先輩と違って。あ、だけどキミはガンガン頼んじゃっていいからね。むしろ、酔い潰れるほどに……」
エレーナ:「酔い潰れても、アンタの世話にはならないわ。ワイン頼もうかな。あと、ステーキ」
鈴木:「あいよ!」
鈴木はコールボタンを押した。
エレーナ:(特段プレイボーイって感じでも無さそうだけど、単なるスケベ野郎ってところか?前回の話しぶりからして、マリアンナに最初目を付けたけど、諦めて今度は私に目を付けたって感じっぽいけど……)
エレーナは鈴木が注文している間、水の入ったグラスを口に運んだ。
オーナー:「はい、それじゃエレーナ。交替するよ」
エレーナ:「はい。今日チェックアウトのお客様は全員退館されました。それから……」
エレーナは住み込みで格安ビジネスホテルで働いている。
バックパッカーも多く利用するこのホテルにおいて、マルチリンガルのエレーナはとても重宝されていた。
エレーナ自身も世界各国からやってくるバックパッカーの情報を手に入れることができ、一石二鳥であった。
エレーナ:「……以上です」
オーナー:「ご苦労さま。今日は一日オフだね。久しぶりの日曜日休みだ。ゆっくりしておいで」
エレーナ:「はい。ありがとうございます」
エレーナは丁寧に挨拶したが……。
エレーナ:(ここ最近、“魔女の宅急便”の仕事が無いのよねぇ……)
というボヤきを心の中でした。
と、そこへ……。
エレーナ:「ん?」
鈴木:「こんにちはー」
元顕正会男子部組長にして、今は日蓮正宗第3布教区の大化山正証寺の信徒になった鈴木弘明がやってきた。
エレーナ:「な、なに?また予約しないで来たの?チェックインは16時からだよ?」
鈴木:「違いますよ。この度、近くのマンションに引っ越して来ましたんで、その挨拶です」
オーナー:「ほお……」
エレーナ:「え?……え?……ええーっ!?」
鈴木:「といっても、一駅変わっちゃうけど……。最寄り駅は菊川です。でも、同じ新大橋通り沿いなんですよ」
オーナー:「森下駅も菊川駅もそんなに離れていないからね。区が違うけれども……」
森下は江東区、菊川は墨田区である。
途中に区境があるわけだ。
鈴木:「これから毎日遊びに行けるね。あ、もちろん、俺のマンションに遊びに来てもいいよ」
それを聞いてエレーナはげんなりした。
エレーナ:「あの時、思い知らなかった?魔道師に深く関わると、痛い目に遭うって」
鈴木:「俺も“協力者”になるよ」
エレーナ:「誰から聞いたんだ、アンタ……」
オーナー:「鈴木君……だっけ?私はキミの言う“協力者”に当たるんだけど、正直言って生半可な気持ちではできないよ?日本ではまだ少ないけど、海外には魔女狩りが未だ存在するからね。それに“協力者”というだけで、危険な目に遭うこともある。例えば“魔女の宅急便”というアニメではかなり好意的に描かれているが、しかし魔女狩りを行う側からすれば、あの主人公を住まわせたパン屋さんだって襲撃の対象となるだろう。つまり、そういうことなんだ」
鈴木:「魔女狩りを行う……邪教キリスト教の集団ですか……」
鈴木は俯いたが、すぐに眼鏡をキラーンと輝かせた。
鈴木:「ご安心ください。その為の法華講です」
オーナー:「な、なに!?」
鈴木:「邪教キリスト教の集団など、我ら青嵐法華講が塵芥に処して差し上げましょう!『流血の惨を見る事、必至であります』!」
オーナー:「怖い怖い!」
エレーナ:(こいつ絶対アメブロやらせちゃいけないヤツだ)
鈴木:「それはともかく、キミにちょっとした情報があるんだ。後で時間いいかな?」
エレーナ:「夜勤明けだから、寝かせてもらうよ?」
鈴木:「午後でいい。むしろ、時間は遅めの方がいいな」
エレーナ:「遅めって……」
鈴木:「夕食、一緒に食べない?俺が奢るよ」
エレーナ:「えっ、ホント!?行く行く!」
オーナー:(タダ飯とタダ酒には目の無いコだからなぁ……)
鈴木:「じゃ、決まりだね。今日の夕方6時……18時に迎えに来るよ」
鈴木は再び眼鏡をキラーンと光らせ、ニヤッと笑った。
[同日18:00.天候:晴 同ホテル地下1階 エレーナの自室]
エレーナ:「Per me si va tra la perduta gente.Per me si va ne citta dolente,Lasciate ogne speranza,voi ch’intrate.」(訳:我を通らば、滅びの人々の中へ。我を通らば、苦悩の街の道へ。我が門に入らんとする汝、一切の望みを捨てよ)
エレーナは薄暗い部屋で魔道書を呼んでいた。
新しい魔法を覚えようとしているのだろうか。
エレーナ:「Pape Satan,pape Satan alepe!Lasciate ogne speranza,voi ch’intrate.O vendtta di Dio.」(訳:パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!我が門に入らんとする汝、一切の望みを捨てよ。嗚呼、神の復讐よ)
『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ』は何かの掛け声らしい。
その為、ダンテ一門では実際に魔法を使用する際の詠唱として使用されている。
『南無妙法蓮華経』と意味合いは同じかもしれない。
プー!
エレーナ:「おっと!」
その時、室内の内線電話が鳴った。
エレーナ:「はい!」
エレーナは急いで電話を取った。
オーナー:「鈴木君が来たよ」
エレーナ:「あ、そうだった。今行きます!」
鈴木との約束をすっかり忘れていたエレーナだった。
で、すぐに1階に向かった。
[同日18:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 ジョナサン菊川店]
鈴木:「いやあ、嬉しいなぁ。本当に俺と一緒に来てくれるなんて。功徳だね」
エレーナ:「仏に感謝するのは勝手だけど、神には感謝しないでよ」
鈴木:「もちろん!俺は日蓮正宗の信徒だ!」
エレーナ:「で、食事と酒を奢ってくれる約束でしょ?」
鈴木:「もちろん!金ならある!」
鈴木、親からの仕送りだけで溜め込んだ札束の入った長財布を見せる。
エレーナ:「OK.それじゃ、食べましょう」
鈴木:「遠慮しないで、好きなもん頼んじゃってよ。俺はとんかつだな」
エレーナ:「あら?意外と和風」
鈴木:「そうだろそうだろ。あとはドリンクバーを……」
エレーナ:「酒は頼まないの?」
鈴木:「俺は飲めないんだ。特盛や稲生先輩と違って。あ、だけどキミはガンガン頼んじゃっていいからね。むしろ、酔い潰れるほどに……」
エレーナ:「酔い潰れても、アンタの世話にはならないわ。ワイン頼もうかな。あと、ステーキ」
鈴木:「あいよ!」
鈴木はコールボタンを押した。
エレーナ:(特段プレイボーイって感じでも無さそうだけど、単なるスケベ野郎ってところか?前回の話しぶりからして、マリアンナに最初目を付けたけど、諦めて今度は私に目を付けたって感じっぽいけど……)
エレーナは鈴木が注文している間、水の入ったグラスを口に運んだ。