報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ネクロファンタジア」

2018-04-26 19:30:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日20:35.天候:晴 JR大宮駅西口→京浜急行バス車内]

 大宮駅西口そごう前のバス停でバスを待っていると、赤と白の塗装が特徴の京浜急行バスがやってきた。
 既に何人か乗っているのは、ここより1つ前の西武バス大宮営業所が始発だからだろう。
 メインはこの大宮駅西口である。
 高速バスタイプであり、バス車内の後方にトイレが付いているタイプだ。
 予約なしでも乗れるが、稲生達のように先に予約した者から優先して乗れる方式である。
 羽田空港国際線ターミナル直行バスである為、必然的に客層は外国人が多い。

 稲生:「ここにしますか」
 マリア:「そうだな」

 2人はあえて運転席のすぐ後ろの席に腰掛けた。
 いつもは後ろの席に座る2人だが、今日に限って運転席のすぐ後ろにしたのは、どことなく河合有紗が何を仕掛けて来るか分からなかったからかもしれない。
 ……例え、マリアの契約悪魔や稲生が今後契約するであろう悪魔が一緒に乗っているとはいえ。
 事故が起きた際、1番安全だとされる運転席のすぐ後ろを陣取ったのは偏に不安があったからと言える。
 客層は外国人が多いといっても、その中でアジア系が1番多いようだ。
 白人や黒人も少しは混じっていたが、カップルでいることが多く、稲生達のように日本人と白人の組み合わせは無かった。

 半分ほどの座席が埋まり、バスは2〜3分遅れで大宮駅西口を発車した。
 昼間の便だと、いつもは首都高さいたま新都心線の新都心西出入口から高速に乗るだが、この便はさいたま新都心駅西口にも止まるので、国道17号線(中山道)を南下することになる。

 稲生:「有紗、何か仕掛けて来ますかね?」
 マリア:「大丈夫さ。ヤツに、バスごと何かする力までは持ち合わせていなさそうだ。勇太や私をピンポイントで攻撃するしか能は無いだろう」
 稲生:「そうですね」
 マリア:「1つ、お願いがある」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「河合氏の件が済むということは、もうそいつは勇太の前に現れないということだ。そうなったら……もうそいつのことは忘れて、私だけを……」
 稲生:「え?何ですか?」

 マリアが言い終わらぬうちに、バスのすぐ隣を改造バイクが轟音を立てて通過していったので、よく聞き取れなかった。
 運転手が運転席の窓を開けていたというのもあった。

 稲生:「マリアさん?」
 マリア:「……いや、何でもない。とにかく……亡霊なんかに、勇太を渡すつもりはない。それだけ」
 稲生:「マリアさん……」

 少し離れた後ろの席に座っている悪魔2体は……。

 ベルフェゴール:「んー、惜しい!あともうちょっとで告白完了だったのに!」
 アスモデウス:「ていうかさ、稲生氏がコクりゃ早い話なんじゃないの?全く、意気地無しなんだから」
 ベルフェゴール:「だが、そこがいい」
 アスモデウス:「どうせマリアンナは非処女なんだから、この際押し倒して……」
 ベルフェゴール:「ハハハハ……。それはキミの今後の計画だろう?赤子の魂は多ければ多いほど良い」
 アスモデウス:「まあね」
 ベルフェゴール:「おや、マモンからのLINEだ」

 悪魔がスマホを持っている……。
 しかもLINEやってる悪魔って……。

 ベルフェゴール:「なるほど。マモンの契約者は、『非処女でありながら処女』であるようだ」
 アスモデウス:「でもそれって、見ようによっては『処女でありながら非処女』とも言うよね」
 ベルフェゴール:「なるほど。それが世に言う“処女ビッチ”というものか」
 アスモデウス:「ちょっと違うね」

 キリスト教における七つの大罪の有名悪魔がこんな能天気な会話をしているくらいだから、まあ危険は無いものと思って良いだろう。

[同日21:50.天候:晴 東京都大田区羽田空港 羽田空港国際線ターミナル]

 ところで空港連絡バスなど、首都高を走ったことのある人なら気づくことがあるだろう。
 いや、高い確率で渋滞に巻き込まれるとか、そういうネガティブな話ではない。
 防音壁とかがウザい部分もあるが、それが無い区間においては、結構夜景がきれいだということを。
 今回の場合、バスはレインボーブリッジを渡った。
 ライトアップされたレインボーブリッジ自体もそうなのだが、その橋の上から見える夜景に、外国人旅行者達が感嘆の声を上げていた。

 マリア:「きれい……」

 レインボーブリッジは二層構造になっていて、上層部分は首都高となっており、下層部分の一般道や並行して走る“ゆりかもめ”よりも眺望に優れている。
 走行中はこれ(https://www.youtube.com/watch?v=HPFHnU2qF0w)を聴きながら走ると、ムードが出るかも。
 一時は悪霊からの危険に晒されていることなど、忘れてしまいそうな感じであった。

 東京の夜景を楽しんだ後、バスはほぼ時刻表通りに羽田空港国際線ターミナルに到着した。

 稲生:「安全の為に乗った最前列席でしたけど、眺望は良かったですね」
 マリア:「うん。“魔の者”から逃げる為とはいえ、日本を拠点にして良かったかも……」

 そんなことを言いながらバスを降りる。

 稲生:「まだ少し時間がありますね」
 マリア:「ヘタに動かず、到着ロビーで待とう」
 稲生:「はい」

 イリーナの到着予定時刻は22時30分から40分ほどである。
 稲生はスマホで、ここからワンスターホテルまでのルートを検索した。

 稲生:「何とか電車があるうちに移動できそうだな……」
 マリア:「勇太。大師匠様も御一緒なのに、電車移動は無いだろう。リムジンでも予約しないと」
 稲生:「はあ……まだバスあるかな……」
 マリア:「エアポートリムジンじゃない!」
 稲生:「ああ、ハイヤーのことですか。そうですねぇ……」

 昼間よりは人も少ないターミナル。

 マリア:「私から離れないで。きっとどこかで見てるから」
 稲生:「地縛霊だったら、その場から離れればそれで終了なんですけどねぇ……」

 もっとも、稲生とて知っている。
 東京中央学園の怖い話には、例え地縛霊でも、たまに気に入った人間に憑いて行く者もいることを。
 それに、有紗自身は元々地縛霊などではなかったはずだ。
 それが、どうして悪霊になんかなってしまったのか。
 顕正会で積んだ害毒だと言ってしまえばそれまでだが、それにしたって稲生が日蓮正宗で塔婆供養くらいはしていたのだから、少しは効果があっても良かったはずだ。
 で、普通なら効果はあるのだろう。
 だがそこで誰かが墓暴きをし、遺骨を持ち去ってしまった。
 それが悪霊化となった原因だとしたら……。

 稲生:「あ、あの……すいません」
 マリア:「なに?」
 稲生:「ちょっと……トイレ行ってきていいですか?」
 マリア:「男子トイレなら大丈夫だろう」
 稲生:「そ、そうですか?」
 マリア:「河合有紗は女だ。女が男子トイレには入れない。幽霊になっても、それは同じのはず」
 稲生:「そ、そうか。確かに“トイレの花子さん”も、男子トイレには出ませんもんね」

 稲生はそう言うと、トイレに向かった。
 はてさて……。

 1:やっぱり河合有紗の幽霊が出た。
 2:別の幽霊が現れた。
 3:何も起こらなかった。
 4:見当もつかない。
コメント (3)
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“大魔道師の弟子” 「夜のさいたまを往く」

2018-04-26 14:08:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日20:14.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、20時14分発、各駅停車、大宮行きです〕

 稲生とマリアはホームで電車を待っていた。
 夕食は稲生の家で取り、それから出発という形である。
 これから中東から来日するイリーナを迎えに、羽田空港まで行くところだ。
 中東のドバイに何とか逃げ込んだイリーナは、そこから羽田行きのカタール航空に乗ることができたらしい。

〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 時々強い風が吹く中、電車がやってくる。
 JRの車両ではなく、りんかい線の車両だった。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 1番後ろの車両に乗り込んだ。
 日曜日の夜の電車ということもあって、車内はとても空いている。
 JRのは緑色のモケットだが、りんかい線のはブルー。
 そこに座った。
 シートはJRのものよりも硬め。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 発車メロディもそこそこに、電車は2点チャイムを3回鳴らしてドアを閉めた。
 駆け込み乗車による再開閉は無かった。

 『発車します。ご注意ください』

 電車が走り出す。

〔「次は終点、大宮、大宮です。東北、上越、山形、秋田、北陸新幹線、宇都宮線、高崎線、京浜東北線、川越線、東武アーバンパークラインと埼玉新都市交通ニューシャトルはお乗り換えです」〕

 稲生:「有紗は……何もしてきませんでしたね」
 マリア:「……そうだな。でも、どこかで見張ってる」
 稲生:「分かりますか?」

 稲生は恐る恐る周囲の窓ガラスを見た。
 外が暗いだけに、ガラスはまるで鏡のように車内を映し出している。
 マリアは普段のブレザーの上からローブを羽織り、魔法の杖を手にしていた。
 いつでも臨戦態勢のつもりだが、窓ガラスには有紗の姿は映っていない。

 マリア:「分かる。私にも霊感はあるから」
 稲生:「……ですよね」

 そもそも、そうでないと魔道師にはなれない。

[同日20:18.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→大宮駅西口バス乗り場]

〔「まもなく終点、大宮、大宮です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側に変わります。大宮より先、日進、西大宮、指扇、南古屋、川越方面ご利用のお客様、今度の川越行きは、21番線から20時28分の発車です。ホーム進入の際、電車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください。今日もJR埼京線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 電車の窓から見えたさいたまスーパーアリーナの人だかりを見ると、顕正会の大会を思い出す。
 稲生が河合有紗と知り合ったのは、そこであった。
 京浜東北線が人身事故でストップし、帰りの足を奪われた顕正会員達でごったがえしていた中、稲生は地元の知識を駆使して、有紗と共にバスで脱出したのだった。

 マリア:「……勇太?勇太!」
 稲生:「あっ、はい!」
 マリア:「もうすぐ着くよ?」
 稲生:「そ、そうですね。お、降りましょう」

 稲生はバネ仕掛けの人形のようにいきなり立ち上がった。
 と、同時に電車がポイント通過で大きく揺れる。

 稲生:「わったたっ!!」

 稲生はバランスを崩し、ドアの前に立っていたマリアに壁ドンならぬ、ドアドン。

 マリア:「だ、大丈夫……?」
 稲生:「す、すいません……」

 互いに顔を赤めていると……。

 稲生:「わっ!?」

 マリアの背後のドアの窓。
 そこに、恨めしそうな顔をした有紗の顔が浮かび上がった。
 稲生が慌てて離れる。
 と、電車がホームに停車してドアが開いた。

〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 マリア:「またいたの?」
 稲生:「……はい」
 マリア:「ちっ!嫉妬深いヤツめ!」

 そこ!マリアがブーメラン投げたとか言わない!

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。19番線に停車中の電車は……〕

 マリア:「とにかく降りよう」
 稲生:「……はい」

 すぐ近くの階段には階段しか無い。
 そこをトントンと上がって行くのだが……。

 マリア:「このっ!」

 普通の人間には、マリアが階段を足でドンドン踏み鳴らしたようにしか見えなかっただろう。
 だが、稲生には見えていた。
 階段から青白い手が伸びてきて、マリアの足を掴もうとしたことを。
 そして、その手が誰のものなのかも……。

 稲生:「マリアさん……」

 最後には魔法の杖で、ドンと叩いた。

 マリア:「私の足を引っ張って、階段から落とそうとしたんだろうけど、そうはいかないから」
 稲生:「さすがですね。(きっと普通の人間だった頃のマリアさんも、似たようなことをしたんだろうなぁ……)」

 途中からはエスカレーターに乗ったということもあって、青白い手に引っ張られるということはなかった。

 稲生:「羽田空港行きのバスは西口から出ます。行きましょう」
 マリア:「そうだな。階段を下りる時も気をつけて。突き落とされる恐れがある」
 稲生:「は、はい」

 とはいえ、大宮駅は人が多い。
 さすがの幽霊も、そういう所では悪さはしにくいようだ。
 何とか2人は、羽田空港行きのバス乗り場に行くことができた。

 稲生:「これがバスの乗車券です」
 マリア:「ありがとう」

 いつの間にかコンビニで購入していた稲生。
 そこは抜かりない。

 稲生:「まさか、バスが襲われるなんてことは……?」
 マリア:「その心配は無い」
 稲生:「何か秘策でも?」
 マリア:「大したことはしないけど、そもそも師匠が何も言ってこない所を見ると、多分大丈夫なんだと思う。それに……」
 稲生:「?」
 マリア:「あいつらも乗るみたいだから、大丈夫だろう」

 羽田空港行きのバスを待つ乗客達は列を作っている。
 稲生達もその列に並んでいるのだが、その後ろに並んだ者達がいた。
 マリアの契約悪魔ベルフェゴールと、稲生と契約することがほぼ内定している悪魔アスモデウスである。
 キリスト教の七つの大罪の大悪魔が2柱も乗り込んでくれば、さすがに幽霊と言えども何もできないだろう。
 尚、ベルフェゴールにあっては相変わらずの英国紳士スタイルだし、アスモデウスにあってはAVにおけるJKモノの女優みたいな感じになっていた。明らかに稲生との契約を重視した姿である。

 稲生:「最強ですね……」
 マリア:「……勇太の方が最強じゃないかな」
 稲生:「は?」

 強大な悪魔が、契約相手の好みに合わせて自分から姿を変えるのは珍しいとのこと。
コメント
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