報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「善場の調査」

2022-04-01 20:02:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月10日14:32.天候:曇 北海道虻田郡某所 廃ペンション地下]

 善場:「こんな所に、白井の秘密研究施設があったとはね……」

 善場は同僚達やBSAA隊員と共に、白井の秘密研究施設に突入した。
 案の定、セキュリティシステムは生きていて、カプセルなどに入っていたハンターが放たれ、襲って来たが、歴戦の強者であるBSAA隊員の敵ではなかった。
 そうして、ついに研究室へと辿り着く。
 そこでは白井の研究内容について、資料などが押収された。
 だが、ここが突き止められることは、白井にとっては想定内だったのだろう。
 最近の研究成果については、見つけることができなかった。
 代わりに見つかったのは、斉藤秀樹の秘密。
 わざと見えるように、これ見よがしに机の上に置かれていた。
 この研究施設には、至る所に隠しカメラが仕掛けられているようで、それに写った白井と斉藤秀樹の写真が何枚も置かれていた。

 善場:「どうやら白井は、斉藤社長を売ったようですね。どこまでも、卑劣な男です。ですが、こうして証拠が見つかった以上、斉藤社長も共犯として刑事告訴しなくてはならなくなりました。問題は、どうして斉藤社長が白井に協力していたかですが……」

 それについても、白井はちゃんと用意していた。
 それを見ると……。

 善場:「はぁー、なるほど……。そういうことだったのですね……」
 部下:「主任、どういうことでしょう?」
 善場:「まあ、斉藤社長は根っからの悪人ではないということですね。そこを、根っからの悪人である白井に利用されたということでしょうか。どうして娘さんが、一時BOWに成り掛けたのか、その理由が分かりましたよ」
 部下:「リサ・トレヴァー『2番』に感染させられたからでは?」
 善場:「それは単なる引き金です。感染させられたら、ゾンビになるはずが、彼女はそうではなかった。もちろんあの時は別の理由に落ち着きましたが、それでもどこか腑に落ちなかったのです。ですが、これのおかげでストンと腑に落ちましたよ」

[同日15:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 斉藤絵恋:「はぁ……」
 リサ:「サイトー、一緒に帰ろう」
 絵恋:「リサさん。……ええ、帰りましょう」
 リサ:「サイトー、まだ、お父さんのことが心配?」
 絵恋:「ええ」
 リサ:「お父さんは事故でも生き残ったみたいだし、生き残った人達は病院に運ばれたってニュースで言ってた。だから、大丈夫なんじゃない?」
 絵恋:「でも、ロシアが非友好国認定した日本の人達をちゃんと帰してくれるかどうか……」

 尚、テロリスト達にあっては国際指名手配を受けていたこともあり、これはロシア当局に連行されたという。
 テロリスト達もケガをしていたが、さすがに普通の病院に運ばれるようなことはなかったとのこと。

 リサ:「まあ、戦争が終われば、もしかしたら……ね」
 絵恋:「いつ終わるの?そんな、いつ終わるかも分からないのに……」
 リサ:「うん、まあ……」

 リサはそれ以上は何も言えなかった。

 リサ:「とにかく、帰ろう」

 学校を出て、駅までの道を歩く。

 リサ:「そういえば愛原先生が、またサイトーのお父さんから仕事の依頼が来たって言ってた」
 絵恋:「お父さんから?」
 リサ:「手紙で来たらしい。前は、ボスに化けて電話で依頼してきたのにね」
 絵恋:「また、私を旅行に連れて行けってヤツ?」
 リサ:「そう。先生は北海道に行きたかったらしいけど、お父さんがダメだって」
 絵恋:「私はリサさんと行けるのなら、どこでもいいって言ったのにね」
 リサ:「多分きっと、本州のどこか。新幹線か電車で行ける所」
 絵恋:「何か、曖昧ね。お父さんせいで、愛原先生に迷惑が掛かったら申し訳無いわ」
 リサ:「まあ、先生はそんな風には思ってないみたいだから安心して」
 絵恋:「う、うん。でも、一体どこに連れて行ってくれるのかな?」
 リサ:「後で先生に聞いてみる」

[同日15:40.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 リサと絵恋は、事務所に立ち寄ってみた。

 愛原:「おっ、リサ……と、絵恋さんか」
 リサ:「ただいま」
 絵恋:「お邪魔します」
 愛原:「今のところ、まだ日本人乗客達が帰国できる見込みは立ってないみたいだな。だけど、殺されるわけではないだろうから、もうしばらく待ってた方がいい。何しろ、ケガはしているわけだしな。まずは、ケガを治さないことにはどうにもならん」
 絵恋:「はい……」
 愛原:「冷蔵庫にジュースがあるから、それでも飲んで」
 リサ:「分かった」
 愛原:「春休みはいつからだい?」
 リサ:「19日から」
 愛原:「三連休が始まるタイミングか。……少し早くないかい?中等部もこれくらいだったっけ?」
 リサ:「もう期末テストは終わったし、赤点の補習や追試があるだけだから。で、わたし達は別に赤点は取ってないから」
 愛原:「そうか」
 リサ:「それに、逆に終わるのも早い。4月の上旬には、新学期が始まる」
 愛原:「なるほどな」
 リサ:「ねえ。サイトーのお父さんから、仕事の依頼があったんでしょう?サイトーを旅行に連れて行けってヤツ」
 愛原:「ああ、そうだ」
 リサ:「今度はどこに行くの?」
 愛原:「内緒。春休みが始まったら、教えてやるよ」
 リサ:「えー。でも国内で、しかも北海道でもないんでしょう?」
 愛原:「そうだな」
 リサ:「温泉とか?」
 愛原:「それは鉄板だろう」

 愛原は大きく頷いた。

 愛原:「心配するな。ちゃんと遊ぶ所もあるからさ」
 リサ:「ふーん……」
 愛原:「それより、段々と白井のことが分かって来たよ」
 リサ:「そうなの?」
 愛原:「ああ。どうやら白井のヤツ……生まれ変わろうとしたらしいぞ」
 リサ:「生まれ変わる?誰に?」
 愛原:「オマエと旧校舎で仲良くしていた、あの“トイレの花子さん”だよ」
 リサ:「ええっ!?」
 愛原:「不思議な話だろ?だけど、白井は本気で生まれ変わろうとしたんだよ。その実験が成功したかどうかは不明だ。何しろ、どこで実験したのかも分からないんだからな」
 絵恋:「白井って、もうお爺さんなんですよね?」
 愛原:「まあ、60代の……会社や役所ならとっくに定年は迎えている歳かな」
 絵恋:「“トイレの花子さん”って、見た目、私達と同じ歳だよね?」
 リサ:「うん。そりゃそうだ」
 愛原:「今から50年くらい前の1970年代の話だから、実年齢は白井と同じ、60代半ばから後半って所だろうがな」
 リサ:「そんなお爺さんが、私達と同じ歳の女の子に生まれ変わるなんて気持ち悪い!」
 愛原:「その通りだ。ただ、本当に『白井伝三郎』として生まれ変わるのかは不明だがな。仮に生き返ったとしても、生前の『斉藤早苗』さんかもしれないぞ」
 リサ:「斉藤?サイトーの知り合い?」
 絵恋:「知らないわ」
 愛原:「まあ、斉藤という名字はごく普通にあるからな。たまたま偶然、同じ名字なんだろう」
 絵恋:「先生はもう捜査しないの?」
 愛原:「今のところ、五十嵐元社長に面会して話を聞いているところだ。リサにとっては憎い研究所の責任者の上司かもしれないが、一応は逮捕されて収監という罰は受けているから、余計なことするんじゃないぞ」
 絵恋:「分かってる」

 もっとも、斉藤社長が無罪判決を受けて釈放される確率は限りなくゼロに近いそうである。
 弁護士の作戦としては、責任はあったものの、その度合いは低いので量刑は軽めに、できれば執行猶予付きでといったところだ。
 実際、愛原が五十嵐元社長と話をした限りでは、けして元社長と白井は頗る仲が悪く、口すらも聞かないわけではなく、一応は上司と部下として、それなりのコミュニケーションは取れていたようだと分かった。
 だから、やはり白井の狂気の実験などについて全く知らないというのはさすがに通らないと、裁判の素人でも分かるだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「バイオハザード・リベレーションズ2」

2022-04-01 16:43:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月8日13:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 午前中の五十嵐皓貴元社長との面会を終えた私達は、事務所に戻って来た。
 そして、善場主任に面会の事を報告した。
 善場主任は今、北海道に行っている。
 斉藤秀樹社長の足跡を調査する為だ。

 善場:「……つまり、白井は生きているということを言いたかったのですね」

 と、善場主任は電話で言った。

 愛原:「で、でも、白井の遺体は警察が回収して、その後、ちゃんと死亡を確認したんですよね?」
 善場:「はい。一応、遺族が引き取りました。白井伝三郎本人には家族はいませんでしたが、兄弟はいますので。その兄弟が引き取ったそうです」

 知っている。
 医療関係兄弟だ。
 長男が医者で、次男は歯医者だったか。
 三男の伝三郎は薬剤師になろうとしていた。
 だが、ただの薬剤師として働くのではなく、製薬会社に入って薬の研究開発に携わることを選んだ。

 愛原:「それなのに、『生きている』とは?」
 善場:「白井伝三郎の肉体は死にましたが、天長会では『魂は生き続ける』という教えがあるそうです。そして、『肉体さえあれば、魂は永遠だ』とも」
 愛原:「よ、よく分かりませんが、要は輪廻転生ということですよね?」
 善場:「どうやら、天長会では違う考えのようですね。いえ、そこは私もよく分からないのですが……。そして、アレックス・ウェスカーは、この輪廻転生を『科学的且つ人工的に』行おうとしました。BSAAの報告によれば、実験は失敗したそうですが。しかし、白井はそれを素に成功させる糸口を見つけたのかもしれません。五十嵐被告は、それを知っていたのでしょう。だから、愛原所長には、『白井は生きている』と言いたかったのですね」
 愛原:「生きているとして、どこに?ていうか、魂の状態で?」
 善場:「そこで出てくるのが、“トイレの花子さん”……本名は斉藤早苗です。今のところ斉藤社長との接点は見受けられないので、たまたま名字が同じなだけと思われますが、彼女の遺骨と、愛原公一博士の発明した化学肥料ですね。これが使われたのでしょう」
 愛原:「骨だけの状態で、生き返れるんですか?」
 善場:「私も信じられない話ですが、生き返られる自信があったのでしょうね。とにかく、また五十嵐被告と面会してみてください。『白井は生きている』という答えを持って行けば、もっと何か話してくれるかもしれません」
 愛原:「わ、分かりました。斉藤社長については、どうでしょう?」
 善場:「今はロシアですか。容疑が固まり次第、斉藤社長も指名手配ですね。ハイジャックという形で、物の見事に国外逃亡されたわけですが」
 愛原:「あの斉藤社長が……」
 善場:「北海道で何か見つかったらの話ですよ」
 愛原:「そうですね……」

[3月9日09:00.天候:曇 東京都葛飾区小菅 東京拘置所・面会室]

 愛原:「昨日の質問の答えを持ってきました。答えは、『白井は生きている』ですね?」
 五十嵐:「さすがは愛原さん。名探偵ですな」
 愛原:「いや、別に大したことじゃ……。アレックス・ウェスカーは、島に取り残された少女に成り替わろうとしていました。それが成功したのか、失敗したのかは不明ですが……」
 五十嵐:「BSAAに殺処分されてなければ、多分失敗ですな」
 愛原:「しかしアレックス・ウェスカーは、生きている少女に自分の魂を移し替えようとしていたわけですが、白井の場合は遺骨ですよ?そんなことが可能なんですか?」
 五十嵐:「可能だと思ったのでしょうな。そして、それが可能だとされるエビデンスを見つけた。そういうことでしょう」
 愛原:「しかも遺骨は当時16歳の少女のものですよ?」
 五十嵐:「恐らく……だからなのでしょうな」
 愛原:「は?」
 五十嵐:「白井は、『天長会では、巫女は神に最も近い存在なのですよ。私の憧れでもあります』と言っていました。『かつて学校の同級生に、その巫女となるに相応しい女の子がいましてな、是非ともと誘ったのですが、けんもほろろに断られましたよ』ともね」

 その少女は後にイジメを苦にして自殺し、地縛霊として“トイレの花子さん”となり、私やリサの前に現れることとなる。

 愛原:「60代のオッサンが、10代の女の子に転生する……。最近のラノベか!」
 五十嵐:「アメリカの本社も奇人変人揃いでしたが、うちの白井も違うベクトルで危険人物でしたな」
 愛原:「少なくとも、霧生市にバイオハザードが起きたこと自体は立場上の責任は免れないと思いますけどね」

 今回の面会はここで終了した。

[同日11:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 事務所に戻って来ると、意外な人物がいた。

 パール:「お帰りなさいませ、愛原先生」
 愛原:「パール!?」

 そこにはメイド服姿のパールがいた。
 悪い目つきを隠すように微笑んでいる。

 愛原:「な、何の用だ?」
 パール:「愛原先生宛てに、旦那様から荷物が届きましたので、お届けに参りました」
 愛原:「荷物ぅ?」

 パールが差し出したのは、レターパックだった。
 しかも差出人を見ると、斉藤家のメイドの1人であるダイヤモンドからだった。
 ダイヤモンドからパールに宛てている。
 だが、中身が私宛てなのだそうだ。

 パール:「ダイヤによれば、旦那様から預かっていたものがあったそうです。『もしも私に万が一のことがあったら、これを愛原さんに』ということだったそうです」
 愛原:「そうなのか?まあ、斉藤社長はロシアにいるからな……。で、しばらく帰って来れそうにない……」

 私はレターパックを受け取った。
 その中に入っていたのは……。

 愛原:「旅行券?」
 パール:「『最後の依頼』だそうです。それで、御嬢様を春休みの旅行に連れて行って頂きたいと……」

 他にも色々と入っている。
 小切手が入っていたが、これがその依頼に対する報酬らしい。

 愛原:「ふーん……。さすがに、海外なんてことはないか」

 しかし、こんなものを用意していたということは、やはり斉藤社長は逃亡するつもりであったのだろうか?
 それとも、警察に捕まることを想定していたか……。
 
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“私立探偵 愛原学” 「五十嵐皓貴」

2022-04-01 15:22:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月8日09:00.天候:晴 東京都葛飾区小菅 東京拘置所]

 私は東京拘置所の面会室で、五十嵐皓貴と面会した。
 宮城県で遭遇した時も、それなりの年配者であったが、今は更に老けているように見えた。
 まだ、70歳は迎えていないはずだが……。
 白井伝三郎と大して歳は変わらないはずだ。

 五十嵐:「これはこれは秤田先生。先生の御計らい、有り難く存じます」
 秤田:「御礼は私よりも、こちらの愛原さんに。わざわざここまで御足労頂いたわけですから」
 五十嵐:「初めまして……というわけではありませんな。御無沙汰……とも、また違いますか」
 愛原:「まあ、そんなことどうでもいいでしょう。それより、私に話とは何でしょうか?」
 五十嵐:「あなたは、うちの研究部門の最高責任者であった白井伝三郎を追っておられたというのは本当ですね?」
 愛原:「もちろん、とあるクライアントに依頼されて、ですよ。あくまで私は民間の探偵ですので、できることは限られていますが」
 五十嵐:「その白井が交通事故で死んだというのは、御存知ですか?」
 愛原:「もちろんです。彼が乗った車を誰がぶつけたのかも知っています」
 五十嵐:「そのことについてもお話ししたいのですが、それはまあ、後にしましょう」
 愛原:「えっ?」
 五十嵐:「今日愛原さんに来て頂いたのは、白井に関することです」
 愛原:「いいんですか?白井のことを話しても。裁判に影響とかは……」
 五十嵐:「確かに私は立場上、白井の上司ではあります。上司として、一応死んだ部下のことに関して、知っていることだけはお話しできます」
 愛原:「それで、何をお話しして下さるのですか?」
 五十嵐:「その前に、いくつか質問させてください。まず……あなたは白井が事故で死んだことを信じますか?」
 愛原:「は?」
 五十嵐:「それともう1つ。あなたは、アレックス・ウェスカーという人物を御存知ですか?」
 愛原:「アレックス・ウェスカー……。確か、ロシアに近い海に浮かぶ孤島で、バイオザードを引き起こした人物ですね」
 五十嵐:「そのアレックスが何を目的にバイオハザードを起こしたと思いますか?」
 愛原:「何を……」
 五十嵐:「そしてもう1つ……。白井が私に内緒で、アレックス・ウェスカーの研究を行っていたことは御存知ですか?……今回私が言いたいことはそれだけです。あとは愛原さんが私の言った意味をよく精査し、その答えを持ってきてください。その答えが合っていれば、私はその続きをお話しします」
 愛原:「それでは五十嵐……さん。私もあなたに質問があります」
 五十嵐:「何でしょう?」
 愛原:「白井はかつての同級生女子の遺骨を盗み出しました。そして、私の伯父の発明品を買い取りました。その発明品とは、どんなに枯れた苗もたちどころに復活させる薬です。これが何を意味していると思いますか?」
 五十嵐:「私には分かりません。……が、あくまでも想像として、私が今言った質問の答えと一致するような気がします」

 私は手帳にメモをした。
 録音や撮影は禁止されているが、やり取りをメモすることは禁止されていない。

 愛原:「他に白井について、何か知っていることはないですか?一応、上司だったわけでしょう?」
 五十嵐:「いや、ホントあいつのことについては、私も計り知れなかったんですよ。ただ、毎日研究に没頭する割には、日曜日は必ず休んでいましたね。私がそのことについて言った時、奴は、『こう見えても信心深いもので』と言ってました」
 愛原:「天長会か……」

 白井の目的は、天長会の言う『最も危険な12人の巫女たち』を具現化させること。
 キリスト教で言えば、七大天使を科学的に具現化させようというようなものだ。
 仏教で言えば、諸天善神を科学の力で具現化させようといったところか。
 宗教団体によっては、『何と恐れ多い!』として、破門や除名に処しそうなものだ。
 だが、天長会は歓迎したのだろう。
 天長会の教えは、どうも新興宗教のせいか分かりにくい。
 栃木でさわりだけ見聞きしたが、そもそも教祖様の立ち位置すら理解できなかった。
 神仏と同じなのか、イスラム教の創始者ムハンマドみたいに、『ただの預言者』なのか……。
 新興宗教にはたまにあるパターンだ(日蓮大聖人が御本仏のはずなのに、何故か神格化されている顕正会の浅井会長とか)。

 愛原:「五十嵐さんは白井から、天長会についての話を聞いたことがありますか?」
 五十嵐:「一度だけ。今思えば、勧誘だったんでしょうな。栃木に研修所と聖堂があるが、保養所も兼ねているのでどうですかと誘われたことがあります。さすがに断りましたけどね」
 愛原:「天長園だ!」
 五十嵐:「他にも富士山の麓に本部があるだとか、中高生くらいの女の子は誰でも巫女になれるとか、そんなことを言っていましたね。まさか、本当に浚って来るとは思いもしませんでしたが」
 愛原:「後でそれを知ったということですか?」
 五十嵐:「そうですよ。私は一度も指示していませんし、白井がそんな非道な実験をしていたことを知ったのは後になってからです」

 あくまでも五十嵐元社長は、無罪を主張するようである。

 愛原:「天長会を調べれば、分かるのかもしれないな……」
 五十嵐:「そうかもしれませんよ。それともう1つ……」
 愛原:「何ですか?」
 五十嵐:「斉藤秀樹という男を知っていますか?大日本製薬という、大きな製薬会社の社長ですが……」
 愛原:「ええ。斉藤社長も、私の事務所の大口顧客です」
 五十嵐:「そうですか。その大口顧客を悪く言うのは申し訳ないが、あの男にも気をつけた方が良い」
 愛原:「何故ですか?」
 五十嵐:「うちの財務部門統括が、前に白井とトラブルになったことがあったんですよ。要は、経費を無駄使いするなということでね」
 愛原:「経費を無駄使い?それは研究費や開発費を無駄使いってことですか?」
 五十嵐:「いや、交際費ですよ。あの研究一辺倒の白井が、何故か交際費を無駄使いしているということで、財務部門統括に怒られましてね」
 愛原:「交際費を宗教活動に使いましたか?」
 五十嵐:「それだったら、とっくにクビですよ。そうではなくて、何故か斉藤社長と会うのに使っていたんですよ。私も社長として、その書類を見てみたんですけどね。最初はダイニチに研究成果を横流ししていたのではと思い、強く詰問しましたよ。そしたら、そんなことは一切無いと。むしろ、ダイニチから金を毟り取るチャンスだと言っていました」
 愛原:「何ですって!?」
 五十嵐:「ライバル企業からは金が取れて、しかもこちらの実験の成果が得られて一石二鳥だと喜んでいました。私はもう唖然とするしかありませんでしたがね」

 斉藤社長が……これはマズいことになったぞ。
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