報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「成田空港のホテル」

2022-04-22 20:37:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月26日15:00.天候:晴 千葉県成田市成田国際空港内 成田エアポートレストハウス]
(※2022年3月31日時点において、このホテルは企業借り上げの為、一般客は宿泊できないもよう)

 送迎バスに乗って、宿泊先のホテルに向かった。
 往々にして高級ホテルが林立する成田空港周辺のホテルであるが、このホテルはビジネスホテルの部類だろう。

 愛原:「それじゃ、夕食はこのホテルのレストランで取るから、それまで部屋でゆっくりしてていいよ。但し、ホテルの外からは出ないように」
 リサ:「分かった」
 絵恋:「分かりました」

 フロントに行ってチェックインすると、鍵を2つもらった。

 愛原:「こっちがリサ達の部屋ね」
 リサ:「分かった」
 愛原:「俺と高橋は一緒の部屋だ」
 高橋:「当然ですね」

 鍵を持ってエレベーターに乗る。
 それで客室フロアまで上がると、廊下の窓からもう空港が見える。

 愛原:「俺達はこっちだ。それじゃ、夕食は18時からにしよう。行く時になったら電話するから」
 リサ:「分かった」

 私と高橋は、自分達の部屋に入った。
 室内はオーソドックスなツインルームである。
 窓の外には、滑走路が広がっていた。
 鉄道沿線にあるホテルの場合、客室の窓から列車がよく見えるのを売りにする『トレインビュー』なるものがあるが、ここは『エアプレーンビュー』とでも言うか。
 いや、そもそも沿線どころか、まんま空港内なのだが(ターミナル内にホテルがあるわけではない)。
 尚、ホテルによっては高速道路(特にジャンクションやインター)の沿道にあって、夜は街灯などの夜景がきれいに見える客室を売りにする『ハイウェイビュー』などもあるのだとか。

 愛原:「航空ヲタ垂涎の景色だな」
 高橋:「騒音とか大丈夫なんスかね?」
 愛原:「うーん……飛行機の音がしないでもない……といったところだな」

 私はそう言って、手持ちのノートPCをライティングデスクの上に設置した。

 愛原:「まだ、時間あるから、少し仕事しよう」
 高橋:「あ、じゃ俺、お茶入れますね」

 高橋は室内にある電磁サーバーに水を入れて、お湯を沸かした。

 愛原:「俺がちょっと事務作業するだけだから、テレビとか観ていいぞ」

 私がテレビを点けると、週末だからか、バラエティ関係の番組が多かった。
 正直、あんまりバラエティは観ないんだよなぁ……。
 すると、何か速報のアラームが聞こえて来た。

 愛原:「何だ?」

 テレビを観ると、こういうテロップが流れた。

 愛原:「『斉藤秀樹容疑者、ロシアのサハリン州に逃亡か。間宮海峡近辺にて、元日本船籍の病院船発見』か」
 高橋:「こりゃ、家にいられるわけないっスね。今頃、塀の壁は嫌がらせの落書きだらけ、家には投石されてますよ」
 愛原:「そんなことが……」
 高橋:「ありますって。特に、金持ちが没落する様を見るのは、庶民の娯楽ですから」
 愛原:「ということは、絵恋さんだけでも先に空港に行かせたことは正解だったわけか」

 電車で行くのはベタ過ぎるルートではあるが、あえての鈍行に近いJR快速で行くのは、ある意味で盲点だっただろう。
 しかも……。

 愛原:「明日、絵恋さん達が乗るのはLCCだ」
 高橋:「LCC。格安航空会社っスね」
 愛原:「そうだ。これがJALやANAのビジネスクラスで行こうものなら、更に叩かれるだろうな」
 高橋:「『親父がサツから逃げ回っとんのに、なにゼータクしとんねん!』って感じですね」
 愛原:「残念だが、そういうことだよ」

 絵恋さんの母親は明日、直接空港へ来る。
 聞いた話では、空港定額タクシーを使うようだ。
 これとて贅沢なルートではあるだろうが、マスコミの目から避ける為には致し方無いところもあるか。
 K室Kなんかタクシー代ケチって国に車出させたのと比べれば、かなり潔い方だと思うが。
 ハイヤーではなく、タクシーという辺りが……。

 愛原:「おや?」

 そこへ、私のスマホに電話が掛かって来た。
 画面を見ると、善場主任。

 愛原:「はい、もしもし?」
 善場:「善場です」
 愛原:「お疲れ様です。何か新しい情報ですか?」
 善場:「今、ホテルの中ですか?」
 愛原:「はい。予定通り、宿泊先のホテルにチェックインしています。宿泊先のホテルも、予定通りです」
 善場:「分かりました。明日のチェックアウトまでは、ホテルからは出ませんね?」
 愛原:「そのつもりです。リサ達にも、そう言ってあります」
 善場:「分かりました。実は、BSAAが動いたんです」
 愛原:「えっ!?」
 善場:「ロシア政府をどう説得したのかは不明ですが、BSAAが“青いアンブレラ”が保有していると見られる病院船の捜索を開始しました」
 愛原:「どこの部隊ですかね?今、欧州本部は造反部隊とのイザコザが起きているわけでしょう?」
 善場:「恐らく、極東支部ですね。本部よりはそこからの方が近いですから」
 愛原:「なるほど」

 極東支部は2013年にバイオテロに見舞われた中国・香港にある。
 武漢ウィルス発生時も、緊急出動したくらいだ。
 日本に地区本部があり、もしかしたら中国国内の他の場所や、ロシア国内でも東部には地区本部隊があるのかもしれない。

 愛原:「それで、どうだったんですか?」
 善場:「病院船には確かに医療スタッフがいたのですが、あくまでもサハリン州近辺の僻地医療を行っていただけだと。斉藤容疑者の事は知らないとの1点張りだったそうです」
 愛原:「逃げた後でしたか……」
 善場:「しかし、その病院船には船首甲板にヘリポートがありまして、そこからヘリが離着陸した形跡があったそうです。これもスタッフ達は、『ドクターヘリが離着陸しだけだ』との1点張りです」
 愛原:「BSAAが狸なら、“青いアンブレラ”は狐ですかな?」
 善場:「狐と狸の化かし合いに見えなくもないですが、容疑者逃亡に手を貸している時点で、“青いアンブレラ”もテロ組織認定しなくてはならなくなりますね」
 愛原:「でも、その証拠は無いわけでしょう?」
 善場:「だから歯がゆいのです」
 愛原:「狐の化け術に、狸が翻弄されたというわけですね」
 善場:「それと、気をつけて頂きたいことがあるのですが……」
 愛原:「何ですか?」
 善場:「マスコミが愛原所長の話を聞こうと、事務所やマンションを訪れたみたいですよ?ホテルが嗅ぎつけられないといいですね」
 愛原:「はあ?何でマスコミが?」
 善場:「日本政府機関がバイオテロ支援組織に認定しようとしている“青いアンブレラ”の構成員に、元愛原学探偵事務所の従業員がいるとの情報を手にしたので、話を聞きたいのでしょうね」

 何気に善場主任、私に何がしかの圧掛けてきてないか。

 善場:「高野の情報を手にした場合は、すぐにこちらに流してくださいね?」
 愛原:「分かった。分かりました」

 私は電話を切った。

 高橋:「何ですって?」
 愛原:「“青いアンブレラ”が何考えているのか分からんせいで、こっちにまで火の粉が飛んで来やがったという話さ」
 高橋:「は?」
 愛原:「とにかく、明日まで絶対にこのホテルを出てはならんぞ?分かったな?」
 高橋:「先生の御命令とあらば……」

 私は窓に近づき、レースのカーテンを閉めた。
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“私立探偵 愛原学” 「成田空港への旅」 2

2022-04-22 15:43:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月26日13:23.天候:晴 千葉県千葉市中央区 JR総武快速線1259F列車5号車内→千葉駅・成田線ホーム]

〔「まもなく千葉、千葉です。到着ホームは9番線。お出口は、左側です。この電車は成田線直通、快速、成田空港行きです。千葉駅で、後から参ります特急列車の待ち合わせを行います。8分停車致します。空港第2ビル、成田空港へお急ぎのお客様は、この後参ります特急にお乗り換えください。今度の特急“成田エクスプレス”27号、成田空港行きはお隣10番線から、13時27分の発車です」〕

 私達を乗せた快速電車は、順調に千葉県内を走行していた。
 そしてまもなく、千葉県の中心駅へと到着する。

 愛原:「8分も停車するのか。それじゃ、ちょっとゴミ捨てて来るか」
 高橋:「あ、俺が行きますよ」
 愛原:「そうかい。悪いねー」
 高橋:「弟子として、当然です」

 11両編成の電車は、千葉駅のホームに停車した。

〔ちば~、千葉~。ご乗車、ありがとうございます。次は、都賀に止まります〕
〔「成田線直通、快速の成田空港行きです。発車は13時31分です。当駅で、後から参ります特急“成田エクスプレス”27号の待ち合わせを行います。……」〕

 

 高橋は私達が食べた駅弁の空き箱などを手にホームに降りた。
 千葉県でも屈指のターミナル駅ということもあり、この駅での乗降客も多い。

 リサ:「わたしもジュース買って来る」
 絵恋:「私も行く!」
 愛原:「ああ、行ってらっしゃい。席は取っておくから」

 グリーン車とはいえ、首都圏普通列車のそれは自由席である。
 一応頭上のランプは使用中のランプが点灯しているが、確保しておくに越したことはない。
 そうだ。
 私も後で善場主任に連絡しておこう。
 高橋達が戻ってきたらな。

 リサ:「ただいま」

 リサ達はすぐに戻って来た。
 ホームの自販機で事足りたらしい。

 愛原:「お帰り。今度は俺が外に出るよ」
 リサ:「何するの?」
 愛原:「善場主任へ電話」
 リサ:「行ってらっしゃい」

 電車を降りようとすると、高橋とすれ違った。

 高橋:「どうしたんスか、先生?」
 愛原:「ちょっと電話だ。席に戻ってて」
 高橋:「分かりました」

 私はホームに降り立つと、善場主任に電話を掛けた。

 善場:「愛原所長、お疲れさまです」
 愛原:「善場主任、お疲れさまです。今、千葉駅です。お陰様で、順調です」
 善場:「そうですか」
 愛原:「何か、新しい情報は入りましたか?」
 善場:「“青いアンブレラ”から電報が来ましたよ」
 愛原:「デンポー……電報?!」
 善場:「はい。送信元を見ると、どうやらサハリン州近辺のようですね」
 愛原:「やっぱり高野君達はロシア領内に……」
 善場:「そのようです」

 北方領土も取り戻せない日本政府。
 ましてや更に非友好国認定されたロシア領内にいるとなると、善場主任達は手を出せまい。
 凶悪犯が逃げるなら韓国、ロシア、北朝鮮とはよく言ったものだ。

 善場:「BSAAもそうですが、“青いアンブレラ”もロシアにはコネクションがあるので、ある程度自由に活動できるようです。ましてや今、彼らは……あっ、ちょっとすいません。また、電報が来たようです」
 愛原:「今度は何ですかね?」
 善場:「近日中に斉藤秀樹容疑者を日本に帰すとのことです」
 愛原:「どうやって!?」

 ただでさえ、他の日本人乗客達の帰国の目途は立っていないというのに?!

 善場:「それは書いていませんが……とにかく、私達もナメられたままではいられませんので……!」

 最後、善場主任が怒気を孕んで言った。
 後で知ったことだが、2通目の電報には最後に、『愚鈍で根暗な元リサ・トレヴァーさん、私を捕まえてみなさいw 高野』という文が入っていたそうである。
 高野くーん、そんな善場主任にケンカを売るようなことは……。

 高橋:「姉ちゃん、どうでした?」
 愛原:「高野君からケンカ売られて、激おこぷんぷん丸だよ」
 高橋:「マジっスか!?アネゴもやりますねぇ……」

 高橋も笑いを堪えきれないでいた。

 愛原:「近日中に大きな動きがあるかもしれないから、よく注意しておこう」
 高橋:「了解です」

 その後、発車時間になり、電車は定刻通りに発車した。
 JR千葉駅では発車メロディは導入されていないので、放送と車掌の笛だけでの発車であった。

[同日14:20.天候:晴 千葉県成田市三里塚御陵牧場 JR成田空港駅]

〔まもなく終点、成田空港、成田空港。お出口は、左側です。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 電車は地下トンネルを走行した。
 地下トンネルから始まって、地下トンネルで終わる空港快速の旅も、まもなく終わりである。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。成田空港、成田空港、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 電車がホームに到着すると、向かい側には“成田エクスプレス”が発車待ちをしていた。
 千葉駅でこの電車を追い抜いた電車だろう。
 もうすぐ発車するようだ。
 JR成田空港駅では原則として特急が1番線、普通や快速が2番線を使用する。

 リサ:「すぐホテルに行くの?」
 愛原:「ああ、そうだよ」

 

 愛原:「駅からも近いんだけど、送迎バスもあるらしいから、それで行こう。荷物もあるし」

 私達は鉄道の旅を終えると、宿泊先のホテルに向かった。
 “青いアンブレラ”は少なくとも高野君がいる以上、私達に敵対はしてこないだろうが、変な動きをされて振り回されるのもアレなので、さっさと移動を終えた方がいいだろう。
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