[11月6日11時30分 天候:晴 宮城県仙台市青葉区愛子中央 小松家1F応接間]
シェリー「キャン!キャン!(おしっこ!おしっこしたいワン!)」
リサ「あ、ダメ、シェリー!どこ行くの?逃げちゃダメ!」
リサに抱っこされているチワックスのシェリー。
名前からして雌であろう。
リサから逃げるように体をよじった。
しかし、リサの体から逃げるが、リサの素早い動きに尻尾を掴まれてしまう。
シェリー「キャンキャン!キャワン!」
愛原「おい、リサ。放してやれよ」
リサ「はーい」
リサがパッと手を放すと、ドアの下の小さなスペースを潜って応接間を出て行った。
小松「ふーむ……。その顔……!」
門伝先生や斉藤玲子が中学3年生の時の担任だった小松先生が、リサの顔と当時の卒業アルバムの写真を見比べる。
小松「そのコ……。斉藤君に似てますな?」
愛原「他人とは思えませんでしょう?もしかしたらこのコは、斉藤玲子さんの実の娘かもしれないのです」
小松「何ですと!?」
愛原「卒業アルバムには住所録がありますでしょう?そこには岩手県平泉町の住所が書かれていました」
小松「思い出した……!確かに私が一教員だった頃、そのようなコを受け持ったことがあります」
愛原「教え子に、音楽教師の道に進んだ門伝涼子先生もいらっしゃいます」
小松「うむうむ。門伝君と同じクラスだったな」
愛原「中学3年生の夏休みに入る直前、仙台の家が不審火で全焼したそうです。それで、平泉の親戚の家に行ったとか……」
小松「うむ、そのコで間違いない。確か家が火事になったことで、そこの家族も全員死んでるはずです」
愛原「ええっ!?」
小松「もし生きているのなら、一緒に避難したはずでしょう。それなのに彼女1人だけ平泉に避難したというのは、おかしいと思いませんか?」
愛原「た、確かに……。じゃ、じゃあ、その火事では斉藤玲子さんだけ生き残ったのですか?」
小松「うむ。それも無傷でね。ですが、煙を少し吸ったのか、持病の喘息が悪化したので、その療養の為にと空気の良い岩手県に滞在するということでした」
愛原「当時まだ現役だった国道4号線沿いで、食堂や民宿を経営していた家ですね?」
小松「ドライブインと聞いていたが、まあ、似たようなものでしょう。探偵の愛原さんが捜しておられるということは、斉藤君は行方不明ということですか」
愛原「というか、もう見つかっているも同然ですが」
小松「! どこにいるのです!?」
愛原「あの世ですよ」
小松「あの世!?もう、亡くなったと!?」
愛原「そうです。そこでお聞きしたいのですが、小松先生は福島県の桧枝岐村を御存知ですか?」
小松「桧枝岐?確か、南会津にある山奥の村ですな。平家の落人伝説があって、村民の苗字はそれら落人伝説に由来するものばかりだそうで……」
愛原「さすがは中学校の先生だったお方です」
小松「こう見えても、社会科の教員でしたので」
愛原「そうだったんですか!」
小松「その桧枝岐がどうかしましたか?」
愛原「村内を通る林道の、更に脇道に入った先に、2人の白骨死体が見つかりました。そのうち1人が、斉藤玲子さんである可能性が出てきました」
小松「何ですと?」
愛原「そしてもう1人は、上野という名前の医者である可能性があります。東京の総合病院で外科医をしていたそうですが、このお医者さんに心当たりは?」
小松「いや、全く無いですが……。斉藤君はどうして、その医師と一緒に亡くなっていたのですか?」
愛原「話せば長くなるのですが、愛の逃避行を続けていたようです」
小松「な、何ですと……!?」
私は2人のなりそめを小松先生に話した。
小松「そんなことが……」
愛原「2人は平泉の民宿を出た後、海に向かったそうです。私は一瞬、気仙沼辺りの海を想像したのですが、小松先生は心当たりがありますか?」
小松「行き先を決定したのは、斉藤君なのですか?」
愛原「それは分かりません。上野医師かもしれませんし」
小松「上野医師がヤクザに追われて、東京からなるべく離れようとしているのであれば、北の海に向かったとは思いますが……」
愛原「あー、なるほど……。しかし、彼女らは最終的には桧枝岐村に隠れ住んでいました。実は私達、現地を調査してきました。今でも交通不便な山村ですが、今から50年前はロクに国道すら無かった時代だったでしょう」
今は国道がいくつかあるし、会津田島からのアクセスなら、取りあえず村の中心部までなら、冬期間であったとしても車でアクセスできるようにはなった。
しかし、今から50年も前の時代はどうだっただろう?
小松「ふむ。人間心理的にはなるべく遠くへというのが人情ですが、『灯台下暗し』とも言いますからな。また、閉鎖的な村へ上手く潜り込むことができたなら、例えヤクザ者であっても、余所者の侵入は村人達が何としてでも食い止めようとするでしょう。今はどうだか分かりませんが、昭和時代の田舎はそういう所が多々ありました」
愛原「はい。上野医師は医師の立場を利用し、村人の病気を治すことで、上手く村に潜り込むことができたようです」
小松「それでもヤクザ者の侵入を拒むことはできず、殺されてしまったのですか?」
愛原「それは分かりません」
私は否定しようとしたが、さすがに白井達に殺されたとは言えないので、分からないとしておいた。
……のだが。
あくまでもあれは、私やリサがたまたま見た夢である。
もしかしたら、本当に暴力団員の索敵能力を阻止できず、ついに見つかって殺され、そのまま山中に埋められた可能性も否定できなくはない。
もっとも、そういう捜査は警察がやることだ。
今は私達の夢の内容が信用されて、BSAAが捜査しているが。
愛原「分からないのは、確かに隠れるなら、先生の仰る通り、閉鎖的な田舎の村に上手く入り込むことだと思います。しかし、それだけなら、日本中にあったでしょう。その中から、2人がどうして桧枝岐村を選んだのかが分からないのです」
小松「その2人のうち、どちらかが縁があったのでしょうかな」
愛原「分かりません。先生は心当たりはありませんか?」
小松「いやあ……。桧枝岐という地名を斉藤君から聞いたことはありません。私が知っているのは、元々は郡山に実家があって……あっ!」
愛原「あっ!」
私と小松先生、同時に気が付いた。
愛原「元々、福島県が実家なんですね!」
小松「うむ。ということは、その実家が何か繋がりがあったのかもしれませんな。それに……」
愛原「それに?」
小松「今は野外活動という名前になって、県内の『自然の家』に泊まるそうですが、当時は臨海学校がありました」
愛原「臨海学校?」
小松「はい。実は私、斉藤君が2年生の時も担任をやっていました。その時、臨海学校があったんですよ。今は野外活動で山の方に行くようですが、当時は海に行ってました」
愛原「具体的には、どこら辺の?」
小松「いわき市です」
愛原「いわき!?」
小松「今は震災による大津波でだいぶ地形も変わったようですが、当時……四ツ倉だったかなぁ……。あの辺に合宿所がありましてね。で、海水浴場もあるので、あそこで臨海学校が行われていたんですよ。もちろん、斉藤君も参加してましたね」
愛原「あっ!」
その時、私は卒アルに臨海学校の写真があったことを思い出した。
愛原「上野医師が、『療養の為に海に行こう』と誘った時、斉藤玲子さんが、『それなら前に臨海学校に行った、いわきの方に行きたい』と言ったら……」
そういう話になったとしよう。
それなら療養をやめて、いわきから正反対の桧枝岐に向かった理由は、やはり不明だ。
しかし……。
小松「ヤクザに見つかってしまったのではないかね?」
愛原「ああ!」
あくまで可能性の1つだ。
小松「海は危険だということで、今度は山に逃げ込もうとした可能性も考えられる」
愛原「そしてその時、実家と何がしかの縁があったかもしれない桧枝岐にしたと!?」
すると、郡山の実家を調べる必要があるか……。
シェリー「キャン!キャン!(おしっこ!おしっこしたいワン!)」
リサ「あ、ダメ、シェリー!どこ行くの?逃げちゃダメ!」
リサに抱っこされているチワックスのシェリー。
名前からして雌であろう。
リサから逃げるように体をよじった。
しかし、リサの体から逃げるが、リサの素早い動きに尻尾を掴まれてしまう。
シェリー「キャンキャン!キャワン!」
愛原「おい、リサ。放してやれよ」
リサ「はーい」
リサがパッと手を放すと、ドアの下の小さなスペースを潜って応接間を出て行った。
小松「ふーむ……。その顔……!」
門伝先生や斉藤玲子が中学3年生の時の担任だった小松先生が、リサの顔と当時の卒業アルバムの写真を見比べる。
小松「そのコ……。斉藤君に似てますな?」
愛原「他人とは思えませんでしょう?もしかしたらこのコは、斉藤玲子さんの実の娘かもしれないのです」
小松「何ですと!?」
愛原「卒業アルバムには住所録がありますでしょう?そこには岩手県平泉町の住所が書かれていました」
小松「思い出した……!確かに私が一教員だった頃、そのようなコを受け持ったことがあります」
愛原「教え子に、音楽教師の道に進んだ門伝涼子先生もいらっしゃいます」
小松「うむうむ。門伝君と同じクラスだったな」
愛原「中学3年生の夏休みに入る直前、仙台の家が不審火で全焼したそうです。それで、平泉の親戚の家に行ったとか……」
小松「うむ、そのコで間違いない。確か家が火事になったことで、そこの家族も全員死んでるはずです」
愛原「ええっ!?」
小松「もし生きているのなら、一緒に避難したはずでしょう。それなのに彼女1人だけ平泉に避難したというのは、おかしいと思いませんか?」
愛原「た、確かに……。じゃ、じゃあ、その火事では斉藤玲子さんだけ生き残ったのですか?」
小松「うむ。それも無傷でね。ですが、煙を少し吸ったのか、持病の喘息が悪化したので、その療養の為にと空気の良い岩手県に滞在するということでした」
愛原「当時まだ現役だった国道4号線沿いで、食堂や民宿を経営していた家ですね?」
小松「ドライブインと聞いていたが、まあ、似たようなものでしょう。探偵の愛原さんが捜しておられるということは、斉藤君は行方不明ということですか」
愛原「というか、もう見つかっているも同然ですが」
小松「! どこにいるのです!?」
愛原「あの世ですよ」
小松「あの世!?もう、亡くなったと!?」
愛原「そうです。そこでお聞きしたいのですが、小松先生は福島県の桧枝岐村を御存知ですか?」
小松「桧枝岐?確か、南会津にある山奥の村ですな。平家の落人伝説があって、村民の苗字はそれら落人伝説に由来するものばかりだそうで……」
愛原「さすがは中学校の先生だったお方です」
小松「こう見えても、社会科の教員でしたので」
愛原「そうだったんですか!」
小松「その桧枝岐がどうかしましたか?」
愛原「村内を通る林道の、更に脇道に入った先に、2人の白骨死体が見つかりました。そのうち1人が、斉藤玲子さんである可能性が出てきました」
小松「何ですと?」
愛原「そしてもう1人は、上野という名前の医者である可能性があります。東京の総合病院で外科医をしていたそうですが、このお医者さんに心当たりは?」
小松「いや、全く無いですが……。斉藤君はどうして、その医師と一緒に亡くなっていたのですか?」
愛原「話せば長くなるのですが、愛の逃避行を続けていたようです」
小松「な、何ですと……!?」
私は2人のなりそめを小松先生に話した。
小松「そんなことが……」
愛原「2人は平泉の民宿を出た後、海に向かったそうです。私は一瞬、気仙沼辺りの海を想像したのですが、小松先生は心当たりがありますか?」
小松「行き先を決定したのは、斉藤君なのですか?」
愛原「それは分かりません。上野医師かもしれませんし」
小松「上野医師がヤクザに追われて、東京からなるべく離れようとしているのであれば、北の海に向かったとは思いますが……」
愛原「あー、なるほど……。しかし、彼女らは最終的には桧枝岐村に隠れ住んでいました。実は私達、現地を調査してきました。今でも交通不便な山村ですが、今から50年前はロクに国道すら無かった時代だったでしょう」
今は国道がいくつかあるし、会津田島からのアクセスなら、取りあえず村の中心部までなら、冬期間であったとしても車でアクセスできるようにはなった。
しかし、今から50年も前の時代はどうだっただろう?
小松「ふむ。人間心理的にはなるべく遠くへというのが人情ですが、『灯台下暗し』とも言いますからな。また、閉鎖的な村へ上手く潜り込むことができたなら、例えヤクザ者であっても、余所者の侵入は村人達が何としてでも食い止めようとするでしょう。今はどうだか分かりませんが、昭和時代の田舎はそういう所が多々ありました」
愛原「はい。上野医師は医師の立場を利用し、村人の病気を治すことで、上手く村に潜り込むことができたようです」
小松「それでもヤクザ者の侵入を拒むことはできず、殺されてしまったのですか?」
愛原「それは分かりません」
私は否定しようとしたが、さすがに白井達に殺されたとは言えないので、分からないとしておいた。
……のだが。
あくまでもあれは、私やリサがたまたま見た夢である。
もしかしたら、本当に暴力団員の索敵能力を阻止できず、ついに見つかって殺され、そのまま山中に埋められた可能性も否定できなくはない。
もっとも、そういう捜査は警察がやることだ。
今は私達の夢の内容が信用されて、BSAAが捜査しているが。
愛原「分からないのは、確かに隠れるなら、先生の仰る通り、閉鎖的な田舎の村に上手く入り込むことだと思います。しかし、それだけなら、日本中にあったでしょう。その中から、2人がどうして桧枝岐村を選んだのかが分からないのです」
小松「その2人のうち、どちらかが縁があったのでしょうかな」
愛原「分かりません。先生は心当たりはありませんか?」
小松「いやあ……。桧枝岐という地名を斉藤君から聞いたことはありません。私が知っているのは、元々は郡山に実家があって……あっ!」
愛原「あっ!」
私と小松先生、同時に気が付いた。
愛原「元々、福島県が実家なんですね!」
小松「うむ。ということは、その実家が何か繋がりがあったのかもしれませんな。それに……」
愛原「それに?」
小松「今は野外活動という名前になって、県内の『自然の家』に泊まるそうですが、当時は臨海学校がありました」
愛原「臨海学校?」
小松「はい。実は私、斉藤君が2年生の時も担任をやっていました。その時、臨海学校があったんですよ。今は野外活動で山の方に行くようですが、当時は海に行ってました」
愛原「具体的には、どこら辺の?」
小松「いわき市です」
愛原「いわき!?」
小松「今は震災による大津波でだいぶ地形も変わったようですが、当時……四ツ倉だったかなぁ……。あの辺に合宿所がありましてね。で、海水浴場もあるので、あそこで臨海学校が行われていたんですよ。もちろん、斉藤君も参加してましたね」
愛原「あっ!」
その時、私は卒アルに臨海学校の写真があったことを思い出した。
愛原「上野医師が、『療養の為に海に行こう』と誘った時、斉藤玲子さんが、『それなら前に臨海学校に行った、いわきの方に行きたい』と言ったら……」
そういう話になったとしよう。
それなら療養をやめて、いわきから正反対の桧枝岐に向かった理由は、やはり不明だ。
しかし……。
小松「ヤクザに見つかってしまったのではないかね?」
愛原「ああ!」
あくまで可能性の1つだ。
小松「海は危険だということで、今度は山に逃げ込もうとした可能性も考えられる」
愛原「そしてその時、実家と何がしかの縁があったかもしれない桧枝岐にしたと!?」
すると、郡山の実家を調べる必要があるか……。