[11月6日23時12分 天候:曇 東京都千代田区丸の内 JR東北新幹線9250B列車1号車内→JR東京駅]
東北新幹線最速列車“はやぶさ”は、深夜の都心を走行していた。
車窓にはそんな都心の夜景が広がっている。
しかしリサはそれを楽しむ余裕は無く、むしろ座席にもたれてウトウトしていた。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
深夜帯に入っていることもあり、自動放送による乗換案内は省略されてしまっている。
実際、もう東海道新幹線は東京駅発の列車は無い。
〔「到着ホーム20番線。お出口は、左側です。JR各在来線にお乗り換えのお客様、最終列車の時間にご注意ください。……」〕
愛原「リサ、そろそろ降りるぞ」
リサ「ん……」
リサは眠い目を擦った。
窓の外に目をやると、リサの目が変わっている。
白目が赤黒く、黒目が白の三白眼だ。
しかしそれは一瞬で、また元の目に戻る。
牙は戻らないが、角は引っ込めることができる。
私は網棚に置いた荷物を下ろした。
降りる準備をしているうちに、列車はホームに進入した。
〔ドアが開きます〕
停車するとドアチャイムではなく、自動アナウンスが流れてドアが開く。
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、お降りください。20番線の電車は、回送電車です。ご乗車にはなれませんので、ご注意ください」〕
私とリサは、東京駅にホームに降り立った。
愛原「やっと帰ってきたな」
リサ「無事に帰れて良かった」
愛原「そうだな。もう夜も遅いし、タクシーで帰るか」
リサ「うん」
リサはマスク越しに大欠伸をした。
愛原「疲れたな。早く帰って寝よう」
リサ「うん」
新幹線改札口を出て、今度は八重洲南口の在来線改札口を出る。
日曜日の夜ということもあり、そこの高速バス乗り場から出る夜行バスの乗客達が賑わっていた。
私達はそれを尻目に、タクシー乗り場に向かう。
そして、タクシー乗り場に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
[同日23時45分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]
帰宅してからリサには、すぐ寝る準備をさせた。
リサ「夜、眠くなるだけ、まだ人間に近い感じがしていいね」
と、リサは言った。
私がどういうことかと聞くと、
リサ「だって、完全に人間を辞めてる『鬼』って、昼は外に出られないでしょ?」
とのことだ。
リサ「昼に活動できなくなったら、わたしも終わりだよ……」
そう言いながら、洗面所に向かった。
私は何とも言えなかった。
愛原「明日は善場主任の所に報告に行かないとな……」
午前中は報告書をまとめ、午後、報告に行く予定である。
もしかしたら、そこでまた新たな仕事の依頼を受けられるかもしれない。
リサ「先生……」
リサは丸首Tシャツ型の体操服に、臙脂色のブルマに着替えていた。
学校指定のものではなく、リサが私の気を引く為に購入したものである。
ただ、エンジ色のブルマは、来年の絵のモデルの衣装として購入したと聞いている。
リサ「おやすみ」
愛原「ああ、寝坊するなよ?」
リサ「先生も気をつけて」
愛原「お互いにな」
リサ「おやすみ」
リサは自分の部屋に戻って行った。
私も、そろそろ寝るとしよう。
[11月7日14時00分 天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]
翌日の午後になり、私は新橋のデイライト事務所に行き、善場主任を訪ねた。
元々デイライトという名前は『日光』から取っており、アンブレラを潰す為に設立されたからである。
アンブレラとは雨傘のことであるが、社是として、『病気の雨から世界の人々を守る傘でありたい』というのがあったが、実際は生物兵器を陰で売り捌く悪の製薬企業であった。
そこで、『日の光が差すほどの好天であれば、雨傘なんか要らないよね?』というタップリの嫌味が込められている。
もっとも、そんなデイライトに対し、逮捕された日本法人の五十嵐社長は、『日本の夏はどんなに好天であっても、ゲリラ豪雨が降るのだ!』と、裁判で反論している。
善場「愛原所長、お疲れ様です。今回もありがとうございました」
事務所内にある応接会議室に通された私は、そこで善場主任と面会した。
愛原「恐れ入ります。昨日送った新聞記事のコピーは届きましたでしょうか?」
私は報告書を提出した。
善場「はい、拝見しました。あそこで白井の名前が出てくるとは、思いもしませんでした」
愛原「私もです」
今まで白井伝三郎の兄2人、伝一郎氏や伝二郎氏にも話を聞きに行ったことはあったが、仙台の家のことは全く出てこなかった。
2人とも開業医や歯科医師を務める医療従事者であったが、いずれも伝三郎とは疎遠であった為、詳しい話を聞くことができなかった。
3兄弟で医療三師になるはずが、薬剤師になるはずだった末弟が、まさかのマッドサイエンティストになってしまった為。
愛原「問題は、どこで桧枝岐村の話が出たかなんですよね……」
善場「それはまだ、今後の調査ということになりますね」
愛原「私の予想では、斉藤玲子の実家……福島県郡山市の方で、何か桧枝岐村と繋がるものがあったのではないかと思っております」
善場「素晴らしい推理です。……私共の方でも、独自に調査してみました」
愛原「えっ、そうなんですか?」
善場「もちろん、愛原所長方を信用していないというわけではありませんので、そこは誤解なさらないでください。ただ、私にも微かな記憶がありまして……」
愛原「えっ?」
善場「私の祖父もまた、福島県出身でして……。もっとも、桧枝岐村とは何の関係もありません。福島県も広いですしね。祖父はいわき市に住んでいましたから」
愛原「それは初耳ですね。いわき市というと、福島県沿岸部の町です。震災の被害とかは、大丈夫でしたか?」
善場「はい。いわき市も広いのですよ。で、祖父の家は内陸の方にありまして……。その……愛原所長は、磐越東線の小川郷駅は御存知ですか?」
愛原「聞いたことがあります。もちろん、乗り降りしたことはありませんが。磐越東線もまた福島県のJR線では屈指のローカル線で、全線走り通す列車は、1日に数本しか無いような路線ですね」
善場「さすがは愛原所長です。その祖父なのですが、今から50年ほど前、所用で郡山市に行った帰り、磐越東線の車内で急病を起こしまして……」
愛原「あらま!」
善場「所長は御存知かもしれませんが、あの路線は途中に大きな駅はありません」
愛原「小野新町駅くらいですかねぇ……」
もっとも、あくまで磐越東線内の途中駅では最も大きい駅というだけだ。
有人駅で上下線離合の設備があるだけに過ぎない。
善場「よくドラマとかである『お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか!?』レベルですよ」
愛原「そんなに!?」
善場「その時、ちょうど運良く医師が乗り合わせており、その医師が救命措置をしてくれたおかげで助かったそうです」
愛原「そ、その医師って……?」
善場「名前は名乗っておりませんでしたが、『中学生くらいの娘を連れていた』と言ってましたから……」
愛原「うあー……」
恐らく、上野医師と斉藤玲子だろう。
まさか、善場主任とも繋がっていたとは……。
愛原「すると、上野医師と斉藤玲子は、磐越東線経由でいわきに行ったと?」
善場「もしも若かりし頃の祖父を助けてくれたのがそうだとしたら、そうなります」
愛原「平泉からだと、常磐線経由の方が早いのに?」
善場「そう、ですね……。郡山を経由する、何か理由があったのかもしれません」
やはり、郡山の家を調査する必要がありそうだと思った。
東北新幹線最速列車“はやぶさ”は、深夜の都心を走行していた。
車窓にはそんな都心の夜景が広がっている。
しかしリサはそれを楽しむ余裕は無く、むしろ座席にもたれてウトウトしていた。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
深夜帯に入っていることもあり、自動放送による乗換案内は省略されてしまっている。
実際、もう東海道新幹線は東京駅発の列車は無い。
〔「到着ホーム20番線。お出口は、左側です。JR各在来線にお乗り換えのお客様、最終列車の時間にご注意ください。……」〕
愛原「リサ、そろそろ降りるぞ」
リサ「ん……」
リサは眠い目を擦った。
窓の外に目をやると、リサの目が変わっている。
白目が赤黒く、黒目が白の三白眼だ。
しかしそれは一瞬で、また元の目に戻る。
牙は戻らないが、角は引っ込めることができる。
私は網棚に置いた荷物を下ろした。
降りる準備をしているうちに、列車はホームに進入した。
〔ドアが開きます〕
停車するとドアチャイムではなく、自動アナウンスが流れてドアが開く。
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、お降りください。20番線の電車は、回送電車です。ご乗車にはなれませんので、ご注意ください」〕
私とリサは、東京駅にホームに降り立った。
愛原「やっと帰ってきたな」
リサ「無事に帰れて良かった」
愛原「そうだな。もう夜も遅いし、タクシーで帰るか」
リサ「うん」
リサはマスク越しに大欠伸をした。
愛原「疲れたな。早く帰って寝よう」
リサ「うん」
新幹線改札口を出て、今度は八重洲南口の在来線改札口を出る。
日曜日の夜ということもあり、そこの高速バス乗り場から出る夜行バスの乗客達が賑わっていた。
私達はそれを尻目に、タクシー乗り場に向かう。
そして、タクシー乗り場に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
[同日23時45分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]
帰宅してからリサには、すぐ寝る準備をさせた。
リサ「夜、眠くなるだけ、まだ人間に近い感じがしていいね」
と、リサは言った。
私がどういうことかと聞くと、
リサ「だって、完全に人間を辞めてる『鬼』って、昼は外に出られないでしょ?」
とのことだ。
リサ「昼に活動できなくなったら、わたしも終わりだよ……」
そう言いながら、洗面所に向かった。
私は何とも言えなかった。
愛原「明日は善場主任の所に報告に行かないとな……」
午前中は報告書をまとめ、午後、報告に行く予定である。
もしかしたら、そこでまた新たな仕事の依頼を受けられるかもしれない。
リサ「先生……」
リサは丸首Tシャツ型の体操服に、臙脂色のブルマに着替えていた。
学校指定のものではなく、リサが私の気を引く為に購入したものである。
ただ、エンジ色のブルマは、来年の絵のモデルの衣装として購入したと聞いている。
リサ「おやすみ」
愛原「ああ、寝坊するなよ?」
リサ「先生も気をつけて」
愛原「お互いにな」
リサ「おやすみ」
リサは自分の部屋に戻って行った。
私も、そろそろ寝るとしよう。
[11月7日14時00分 天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]
翌日の午後になり、私は新橋のデイライト事務所に行き、善場主任を訪ねた。
元々デイライトという名前は『日光』から取っており、アンブレラを潰す為に設立されたからである。
アンブレラとは雨傘のことであるが、社是として、『病気の雨から世界の人々を守る傘でありたい』というのがあったが、実際は生物兵器を陰で売り捌く悪の製薬企業であった。
そこで、『日の光が差すほどの好天であれば、雨傘なんか要らないよね?』というタップリの嫌味が込められている。
もっとも、そんなデイライトに対し、逮捕された日本法人の五十嵐社長は、『日本の夏はどんなに好天であっても、ゲリラ豪雨が降るのだ!』と、裁判で反論している。
善場「愛原所長、お疲れ様です。今回もありがとうございました」
事務所内にある応接会議室に通された私は、そこで善場主任と面会した。
愛原「恐れ入ります。昨日送った新聞記事のコピーは届きましたでしょうか?」
私は報告書を提出した。
善場「はい、拝見しました。あそこで白井の名前が出てくるとは、思いもしませんでした」
愛原「私もです」
今まで白井伝三郎の兄2人、伝一郎氏や伝二郎氏にも話を聞きに行ったことはあったが、仙台の家のことは全く出てこなかった。
2人とも開業医や歯科医師を務める医療従事者であったが、いずれも伝三郎とは疎遠であった為、詳しい話を聞くことができなかった。
3兄弟で医療三師になるはずが、薬剤師になるはずだった末弟が、まさかのマッドサイエンティストになってしまった為。
愛原「問題は、どこで桧枝岐村の話が出たかなんですよね……」
善場「それはまだ、今後の調査ということになりますね」
愛原「私の予想では、斉藤玲子の実家……福島県郡山市の方で、何か桧枝岐村と繋がるものがあったのではないかと思っております」
善場「素晴らしい推理です。……私共の方でも、独自に調査してみました」
愛原「えっ、そうなんですか?」
善場「もちろん、愛原所長方を信用していないというわけではありませんので、そこは誤解なさらないでください。ただ、私にも微かな記憶がありまして……」
愛原「えっ?」
善場「私の祖父もまた、福島県出身でして……。もっとも、桧枝岐村とは何の関係もありません。福島県も広いですしね。祖父はいわき市に住んでいましたから」
愛原「それは初耳ですね。いわき市というと、福島県沿岸部の町です。震災の被害とかは、大丈夫でしたか?」
善場「はい。いわき市も広いのですよ。で、祖父の家は内陸の方にありまして……。その……愛原所長は、磐越東線の小川郷駅は御存知ですか?」
愛原「聞いたことがあります。もちろん、乗り降りしたことはありませんが。磐越東線もまた福島県のJR線では屈指のローカル線で、全線走り通す列車は、1日に数本しか無いような路線ですね」
善場「さすがは愛原所長です。その祖父なのですが、今から50年ほど前、所用で郡山市に行った帰り、磐越東線の車内で急病を起こしまして……」
愛原「あらま!」
善場「所長は御存知かもしれませんが、あの路線は途中に大きな駅はありません」
愛原「小野新町駅くらいですかねぇ……」
もっとも、あくまで磐越東線内の途中駅では最も大きい駅というだけだ。
有人駅で上下線離合の設備があるだけに過ぎない。
善場「よくドラマとかである『お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか!?』レベルですよ」
愛原「そんなに!?」
善場「その時、ちょうど運良く医師が乗り合わせており、その医師が救命措置をしてくれたおかげで助かったそうです」
愛原「そ、その医師って……?」
善場「名前は名乗っておりませんでしたが、『中学生くらいの娘を連れていた』と言ってましたから……」
愛原「うあー……」
恐らく、上野医師と斉藤玲子だろう。
まさか、善場主任とも繋がっていたとは……。
愛原「すると、上野医師と斉藤玲子は、磐越東線経由でいわきに行ったと?」
善場「もしも若かりし頃の祖父を助けてくれたのがそうだとしたら、そうなります」
愛原「平泉からだと、常磐線経由の方が早いのに?」
善場「そう、ですね……。郡山を経由する、何か理由があったのかもしれません」
やはり、郡山の家を調査する必要がありそうだと思った。