報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「ペンション『いたち草』」

2025-01-21 20:34:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日15時40分 天候:曇 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』]

 

 建物全体は洋館といって良い佇まい。
 重厚な正面玄関のドアを開けて出て来たのは、タキシード姿の執事と言って良い老人。
 黒いタキシードなのに、目を凝らしてみると血のような赤黒い染みが付いているように見えるその老人に、私は見覚えがあった。
 最初に会った時は、もう少し髪も黒かったのに、今では全部白髪だ。
 頭頂部は剥げているのに、総髪にしている河童のような頭の執事だ。

 執事「いらっしゃいませ。御予約のお客様でございますか?」

 長野県の洋館に行った時、私はこのような暗号を言った。

 愛原「『パンツ穿かせてください』」
 リサ「ファッ!?先生!?」

 リサがビックリして私の方を見る。
 まさか私がそんなことをいきなり言うとは思わなかったのだろう。
 だが、執事の方は目を丸くして、私の顔を覗き込んで来た。

 執事「……おお!あなたは……!十余年ぶりですね!どうぞ。中で御主人様がお待ちでございます」
 愛原「ありがとう。……2人で予約したので、このコもいいですか?」
 執事「もちろんですとも。どうぞ、中へ……」
 愛原「お邪魔します」

 

 中に入ると高級ホテルのロビーのような空間が広がっていた。
 高級ホテルのロビーをコンパクトにした感じ。
 長野県の洋館の時はもう少し暗く、こぢんまりとしたロビーだったのだが、ここは明るく解放感はある。
 ペンションとして再スタートしているからだろうか。
 しかし、アンティークな家具や調度品が飾ってあるところは長野時代と変わらない。
 えーと……ここでは、何て言うんだっけな……。

 愛原「『あなたと一緒に食事がしたいな』」
 リサ「先生?!」

 またもやリサが目を丸くする。
 思わず人間形態から鬼形態に戻ってしまうところだった。

 執事「はっはっは。さすがは愛原様です。今でも暗号を覚えておいでのようで……」
 愛原「それほどまでに、インパクトがあるということなのですよ」

 この執事とやり取りをして思ったのは、予約の電話をした時、応対した男の声とは違ったことだ。
 予約の電話の応対をしたのは、この執事ではない。
 ロビーを抜けた先に、階段とその下に小さなフロントデスクがあった。
 しかしそこには誰もおらず、執事がフロントデスクの中に入ると……。

 執事「では、こちらの宿泊者カードに御記入を……」
 愛原「はい」

 私はボールペン走らせた。

 愛原「こちらのオーナーとは会えますか?」
 執事「御主人様は夜でしたら、お会いになれるとのことです」
 愛原「夜か……」
 執事「それまでは、どうか館内でお寛ぎください。大浴場もございますよ」
 愛原「それはいいな。後で入らせてもらおう」

 私は宿泊者カードへの記入を終えた。
 宿泊料金は前金となる。
 私は現金で宿泊料金を支払った。

 執事「それでは、こちらが鍵でございます。お部屋は、2階の205号室になります。御夕食の会場でございますが……。3階の301号室となります」
 愛原「ん?ダイニングとかじゃなくて、客室?」
 執事「さようございます。18時からとなってございますので、宜しくお願い致します」

 何だろう?
 個室か何かなのだろうか?
 とにかく私は鍵を受け取ると、階段を上がり、205号室に向かった。

 リサ「ねぇ、先生」
 愛原「何だ?」
 リサ「このペンション……他にもお客さん、いるんだよね?」
 愛原「そのはずだ。実際、ダブルルームは満室だと言われた」
 リサ「その割には、人の気配が無くない?」
 愛原「うーん……言われてみれば……」

 ペンションにしては大規模な建物だろう。
 ホテルと言っても差し支えない規模だ。
 建物は3階建てのようで、大浴場は地下1階にあるらしい。
 メインダイニングは3階にあり、そこから見える山の景色は最高とのこと。
 最上階をメインダイニングにして、山の眺望を楽しませるというのは、ホテル天長園に似通っている。

 愛原「ここが205号室だな」

 私がもらった鍵を見ると……。

 愛原「スペードの鍵?」
 リサ「映画で、オリジナルの大先輩が持ってたトランプの鍵の1つだね。確か、主人公達には『ハートの鍵』を渡してたっけ」
 愛原「ますます、アンブレラの洋館だな……」

 私は鍵を開けて、部屋の中に入った。

 

 中に入ると、アンティークな造りの部屋になっていた。
 南向きの部屋のはずだが、何故か薄暗いのは、既に外には分厚い雲が掛かっており、いつ雨になってもおかしくない状況だからだろう。
 ツインルームなだけにベッドが2つあり、部屋の中にあるもう1つのドアを開けると、トイレと洗面所があった。
 風呂やシャワーは無い。
 基本的に宿泊中は、例え夜中でも大浴場は自由に入れるので、そこを使ってくれということだろう。
 さすがに源泉かけ流しではないようだが、温泉とのこと。

 愛原「うん。窓からは、山とかよく見えるな……」
 リサ「わーっ!」

 リサはガバッとベッドにダイブした。
 スカートが捲れて、スカートの下に穿いている紺色のブルマが丸見えになっている。

 愛原「こらこら。制服がシワになっちゃうぞ」
 リサ「エヘヘ……。これからどうする!?ね、どうする!?」

 リサが鼻息荒くして私に迫って来た。

 愛原「落ち着け。せっかくだから、温泉を楽しもうじゃないか。部屋から、バスタオルとフェイスタオルを持って行けばいいんだったな」
 リサ「浴衣は着ないの?」
 愛原「それは寝る時だよ。まあ、寝る前にも一っ風呂浴びるつもりでいるから、その時に着替えればいいんじゃないかな?」
 リサ「なるほど。……あ、その前にちょっとトイレ」
 愛原「あいよ」

 リサはトイレに行った。
 室内には館内での注意事項などが書かれた冊子が置かれていた。
 そして、ライティングデスクの上には電話機が置かれている。
 ただ……洋風の黒電話的な見た目だが、外線繋がるんだろうか?
 冊子を見ると、どうも内線専用らしい。
 外線が繋がる電話はどこにあるのだろうか?
 私は受話器を取ると、フロントのダイヤルを回した。

 執事「はい。フロントでございます」
 愛原「ああ、愛原ですが……」
 執事「愛原様。何かございましたか?」
 愛原「外線電話を使いたいのですが、館内にありますか?」
 執事「それでしたら、ロビーに公衆電話がございますが」
 愛原「ロビーか……」

 共用部にある電話で、秘密の報告ができるだろうか?
 まあ……ここに到着したという連絡だけならOKかな。
 温泉に入る前に善場係長に電話しておこう。
 改めてスマホを見たが、やはり圏外であった。
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“私立探偵 愛原学” 「いたち草」

2025-01-21 16:01:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日15時10分 天候:曇 群馬県吾妻郡東吾妻町 浅白観光自動車タクシー車内]

 群馬原町駅で電車を降りた私とリサ。
 そこから、駅前で客待ちしているタクシーに乗り換えた。
 地元のタクシー会社だし、年配の運転手も地元の人っぽいから、ペンションの名前を言うだけで分かるかなと思ったのだが……。

 運転手「ペンション『いたち草』?……あまり聞いたことないですねぇ……」
 愛原「あの、住所が東吾妻町○×……なんですけど……」
 運転手「○×?岩島駅から山の方に行ったところかな?あそこにペンションなんて……」
 愛原「洋館風の外観なんですよね」
 運転手「洋館?……もしかして、あそこかな?赤い屋根の邸宅ですよね?」
 愛原「確か、そうです」

 公式サイトで見た外観も、確か屋根の色が赤かったような気がする。

 運転手「分かりました。そこまで行ってみます」
 愛原「お願いします」

 タクシーが動き出した。
 まずは駅前の通りを進み、途中で吾妻線の踏切を渡って国道145号線に出る。

 運転手「あそこはペンションだったんですか」
 愛原「一応、そういうことです。あまり、知られてないんですか?」
 運転手「あそこは元々、企業の保養所だった建物なんですよ。ところが、その企業が倒産したことで、長らく廃墟になってたんです。それがいつの間にやら復活したようですね。そうですか。ペンションとして復活したんですか」
 愛原「どこかの企業?どこの企業ですか?」
 運転手「何て言ったかなぁ……?横文字の……」
 愛原「もしかして、日本アンブレラ製薬?正式名称はアンブレラコーポレーション・ジャパン」
 運転手「ああ、そうそう!確か、そんな名前!」
 愛原「やっぱり……」

 長らく廃墟になっていた自分の会社の保養所を、五十嵐元社長は自分で買い取ったのだろう。
 そしてペンションに改築して、今に至ると……。

 愛原「さっき岩島駅がどうと言ってましたけど、あっちの駅から行った方が良かったですか?」
 運転手「いや、あそこはタクシーがいないから、もしもタクシーで行くのでしたら、群馬原町駅からで良かったですよ」

 群馬原町駅は特急も停車しない無人駅であるが、それでも東吾妻町の中心駅である。
 バス停もあるし、タクシー乗り場もある。

 愛原「そうですか。運転手さんも知らないペンションみたいですけど、最近できたんですか?」
 運転手「多分、そうでしょうねぇ……。私も仕事柄、多くのお客さんを旅館とか民宿まで乗せたりしてますけど、あのペンションは初めて……いや、この前、乗せたかな」
 愛原「えっ!?」
 運転手「うん。夜遅くに乗せたお客さんを、その洋館まで乗せたから……。ああ、なるほど。夜だったから、あんまり建物とかよく見えなかったからか……」
 愛原「夜遅くに!?」
 運転手「ええ。多分、最終電車で来られたんでしょうね。会社に電話が入って、それで私が向かったんです」
 愛原「それ、誰でした?」
 運転手「……お客さん、警察の人?」
 愛原「いえ、探偵です」

 私は名刺を運転手に見せた。

 運転手「探偵さん!?」
 愛原「そのお客さん、斉藤と名乗っていませんでしたか?」
 運転手「斉藤?……ああ、そうだったのかも。最初、サトウさんに聞こえたんですけど」
 愛原「サトウさん?」

 だが、滑舌や聞こえ方によっては、『サイトウ』が『サトウ』に聞こえてしまうこともあるかもしれない。
 或いは、わざと偽名を名乗ったか。
 もしも『サイトウ』であるなら、斉藤元社長かもしれない。
 やはり斉藤元社長は上越新幹線を高崎駅で降り、そこから吾妻線の最終電車で群馬原町駅で降り、タクシーに乗り換えたのかもしれない。

 愛原「そのお客さん、何か特徴はありましたか?」
 運転手「特徴ねぇ……。蒸し暑いのにスーツにネクタイを付けて、帽子を深く被ってましたね。あとはコロナ対策なのか、白いマスクを着けてて……」
 愛原「ということは、顔はよく見えなかった?」
 運転手「そうですね。しかも夜でしたし」
 愛原「そうですか……」

[同日15時30分 天候:曇 同町内某所 ペンション『いたち草』]

 車は国道から山道に逸れ、どんどん登って行った。
 そして、舗装はされているものの、車が1台通れる幅の道を進む。
 そんな山道を登り切った先に、その洋館風のペンションはあった。

 運転手「ここですかね?……昼間だと少し、雰囲気が違いますね」
 愛原「……うん、ここですよ」
 リサ「…………」

 リサも目を丸くした。
 料金を払い、領収証とお釣りをもらう時に……。

 運転手「もしお帰りの時にタクシーが必要でしたら、ここに電話してもらえれば迎えに行きますから」
 愛原「ありがとう。その時はまたお願いします」

 私達はタクシーを降りた。
 鉄門は開いており、その門柱には『ペンション いたち草』と書かれた木製の看板があった。
 やはり、ここで間違いないらしい。
 私はスマホを取り出すと、ペンションの外観と看板を撮影し、善場係長に到着した旨のメールを送った。

 愛原「ん?『圏外』!?」
 リサ「本当だ……。圏外だ……」

 スマホが圏外になっていた。
 そんなバカな!?
 確かに山奥ではあるが、麓の住宅地からそんなに離れているわけでもないのに!?
 これでは善場係長に定時連絡ができない。
 まあ、群馬原町駅に到着した際にしておいたし、電話くらいは中にあるだろうから、それで連絡はできるだろう。
 実際予約は電話でしたわけだし。
 もしかしたら、今風にWiFiもあるかも。
 そう考えながら、私達は門の中に入った。

 リサ「黄色い花が咲いてる」
 愛原「そうだな。……これはレンギョウだ。……そうか!いたち草って、レンギョウの別名だ!……でも、夏に咲く花だったかなぁ……?」

 私は首を傾げた。

 愛原「漢方薬の材料にもなるんだ、あのレンギョウは」
 リサ「ふーん……。イエローハーブみたいだね」
 愛原「なるほど。もしかしたら、それに近い作用があるかもしれないな」

 ん?イエローハーブなんてあったかな?
 傷や体力を回復させるグリーンハーブや、解毒作用のあるブルーハーブ、それぞれにブースター効果をもたらすレッドハーブなら知ってるが……。

 愛原「だいぶ昔、夜に来た時も、いたち草が一杯咲いてたんだ」

 私の脳裏に、長野県の洋館を訪れた時の記憶が蘇る。
 そんないたち草こと、レンギョウが咲き乱れる庭を通過し、私達は正面玄関に向かった。
 正面玄関のドアは閉じられていたが、『御用の方は、インターホンを押してください』と書かれていた。
 インターホンと言っても、最近あるカメラ付きのそれではない。
 ただのボタン。
 それを押すと、館内からブザーが聞こえて来た。
 どうやら押している間、ブザーが鳴るボタンらしい。
 何だか、やかましそうだ。
 しばらく待っていると、玄関のドアが内側から開き、そこから現れたのは……。
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