報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「一夜明けて」

2025-02-19 15:20:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月6日08時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 パールは朝になっても起きて来なかった。
 幸い朝食は、高野君が作り置きしてくれていた物を食べた。
 朝は玉子焼きとか焼き魚とかだった。
 リサが学校に行き、私が後片付けをしていると、近くの高橋夫妻の部屋から物音がした。
 そして、そこからバタバタとパールが飛び出して来た。

 パール「せ、先生!」
 愛原「おー、パール、起きたか。よく眠れたか?」

 ある意味、それは嫌味だったかもしれない。
 パールが眠っていたのは、高野君による麻酔注入のせいである。

 パール「も、申訳ございませんでした!」
 愛原「高野君から色々聞いたよ。お前にも結構秘密があったらしいな?」
 パール「“青いアンブレラ”が情報を流出させてしまったのですね。何て奴ら……!」
 愛原「高野君、『さっさと正体バラして、素直に協力を求めればいいのに』とか言ってたぞ」
 パール「そんなこと申されましても……」

 1エージェントに過ぎないパールに、確かにそんなこと言われても困るか。

 愛原「まあ、とにかく、オマエも飯を食えよ」
 パール「い、いえ。食事など、頂く気には……」
 愛原「まあまあ、そう言わずに。まだ、パンとかあるだろ?」
 パール「テラセイブの事は黙っててもらえますか?」
 愛原「誰に?高野君にはとっくにバレてるで?」
 パール「で、デイライトです」
 愛原「デイライトぉ?何で?テラセイブは、特に非合法組織ってわけじゃないんだろ?」
 パール「今のテラセイブは、BSAAと対立しているからです。その……BSAAの欧州本部がヤバいことになっているのを嗅ぎ付けまして……」

 確かにデイライトは、日本におけるBSAAの窓口業務の役割も持っている。
 テラセイブの掴んでいる情報がBSAA側に流れるのを恐れているようだ。

 愛原「せっかくバイオテロに立ち向かう組織だってのに、皆してケンカされちゃ困るんだよ?」
 パール「申し訳ございません……」

 BSAA→とにかく国家転覆・世界に脅威をもたらすウィルス兵器やそれを扱うテロ組織を叩き潰すのが目的。
 青いアンブレラ→赤いアンブレラのせいで世界中に拡散してしまったウィルス及び生物兵器の回収、それを悪用しようとする組織の撲滅が目的。
 テラセイブ→バイオハザードの被害者の救済及び、それを引き起こした元凶や起こそうとする元凶の告発。

 愛原「それぞれの正義がそれぞれの正義を邪魔しているような気がするなぁ……」
 パール「申し訳ございません」
 愛原「それなら、うちの事務所にいて大丈夫なの?この事務所、正にデイライトさんを大口顧客としている所だよ?」

 むしろ、それだけで事務所の運営が成り立っているといっても過言ではない。
 昔は斉藤元社長率いる大日本製薬側からも、大口の仕事が与えられていたものだが……。

 パール「私の正体がバレなければ大丈夫です」
 愛原「で、昨夜、事務所の金庫を開けようとしていたらしいけど、何が目的だった?カネに困っての犯行だったら、いくらかくらいは貸し付けてやるよ?」
 パール「いえ、お金に困ってるわけではありません」

 だろうな。
 パールはうちの事務所からの給料の他、むしろテラセイブからもらっている給料の方が高額のはずだ。

 パール「金庫の中に、御主人様の情報が隠されておりますよね?」
 愛原「それが目的だったか。それをテラセイブに流すつもりだったんだな?」
 パール「申し訳ございません……」
 愛原「高野君の話では、キミが事務所を飛び出したのは、作戦失敗の報告をいち早くする為だったそうだが?」
 パール「はい。本来はマサを脱走させるつもりはありませんでした。警察の留置場や拘置所に留めておけば、こちらとしても居場所はすぐに把握できるからです。あとは関係者を装って面会に行くなり、手紙をやり取りすれば良かったのです。ですが、マサが脱走したことにより、困難となってしまいました」
 愛原「俺が余計な事をしたからだな。で、俺が余計な事をしなければ、高橋は脱走しなかったということだが、それはどういうことなんだ?」
 パール「実はマサはコネクションのメンバーでありながら、別にコネクションに忠誠を誓っているわけでもありません。前々からテラセイブ側に引き抜こうという計画があったのです」
 愛原「そうだったの!?」
 パール「“青いアンブレラ”は“青いアンブレラ”で、マサの引き抜きを狙っていたそうですが」
 愛原「高橋、人気者だねぇ……」
 パール「愛原先生の人気に比べれば、大したことございませんよ」
 愛原「えっ?」
 パール「いえ、何でもございません。要は私達、コネクションがマサの奪還をしに行くという情報を掴んだのです。そして、コネクション側も関係者を装って、マサに手紙を出していました。銃撃でもってマサを奪還しに行くわけですから、本人に伝えておかないと、流れ弾に当たる恐れがあるからです」
 愛原「そりゃそうだな」
 パール「私達の作戦では、コネクションより後にマサに手紙が届くようにすることでした。まず、コネクションがマサに奪還作戦の決行を伝えます。その後で私達の手紙が届き、『ここで踏み止まれば、テラセイブが必ずあなたを助けてみせる。テラセイブに移籍したら、正義感を遺憾無く発揮できる上、報酬もコネクションより高額であることを約束する』という内容でした」
 愛原「それが先に届くことで、何がマズいんだ?」
 パール「話の辻褄が合わなくなるんです。マサはコネクションを出るかどうかで迷っていましたから、それまで手紙のやり取りで懐柔する作戦をしていました。それがいきなり、コネクションに惑わされるなみたいな手紙が届いたら、それは困惑するに決まってます。コネクション側も、マサの心が揺れ動いていることを察知していましたから、手紙で惑わされるなという内容の事を言っていたようです」
 愛原「マジで余計な事しちゃったな。申し訳ない」
 パール「いえ……。そこは、高野の言う通りだったかもしれません。やはり、先に正体を明かして、素直に先生に協力を求めるべきだったのかもしれません」
 愛原「俺はテラセイブのことはよく知らんから、善場係長に報告はせんよ。警備の仕事でも探偵の仕事でも、不確かな情報は報告しないのが鉄則だからな」
 パール「ありがとうございます」
 愛原「因みに今回の件も、善場係長には報告しないことにしたよ。逆にこんなの報告したら、俺の身まで危なくなる」
 パール「ありがとうございます」
 愛原「残念ながら、金庫の中身は諦めてくれ。……というか、斉藤さんの何が気になるんだ?」
 パール「先生が群馬に行かれた時のやり取りです」
 愛原「どうしても聞きたかったら、聞かせてやるよ。取りあえず、朝飯食ったら事務所に来てくれ」
 パール「ありがとうございます」

 実は、こちらもそろそろ忙しくなる。
 高橋が敵側に回るというのなら、こちらもそれなりの対応をしなければならなくなった。
 ……ま、私が余計な事をしてしまったせいでもあるが。
 コネクションより、テラセイブに移籍してくれた方が、まだ私と協力できたかもなぁ……。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “愛原リサの日常” 「女の戦い」 | トップ | “私立探偵 愛原学” 「千葉... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事