[10月22日19:40.天候:雪 アルカディア王国・王都アルカディアシティ10番街駅]
稲生:「アルカディア王国って、常春の国ですよね!?毎月の平均気温が20度から25度くらいの!何か寒いなと思ったら、どうして雪!?」
建物から通りに出た稲生は驚いた。
降り始めたばかりなので、まだ路面に雪は積もっていない。
さすがに寒いので、稲生は似合わないと自分で思っている魔道師のローブを羽織った。
防弾・防刃の他に、防寒・防熱も兼ね備えている魔法の装備である。
イリーナ:「うーん……。王宮で何かあったかねぇ……?」
マリア:「その割には、町は静かですけど?」
市街地は繁華街を除いて街灯が少なく、夜は暗い。
マリア曰く、ロンドンを舞台にしたホラー映画みたいとのことだ。
しんしんと降ってくる雪、人通りの少ない街路が、確かにそんな雰囲気を醸し出している。
どこからか、弱い主人公を追った強い追跡者が現れるかのようである。
が、恐らくそんな者が例え近くにいたとしても、稲生達を襲って来ることはあるまい。
ゲームに出て来るような追跡者程度の力であれば、イリーナやマリアがあっという間に地獄に送ることとなるからだ。
どちらかというと、ここにいる魔道師達の方が追跡者側なくらいだ。
イリーナ:「ま、とにかく寒いから地下鉄の中に入ろう」
稲生:「そうですね。駅なら少しは温かいでしょう」
稲生達はアルカディアメトロ10番街駅の階段に向かった。
正式名称は魔界高速電鉄なのだが、愛称としてアルカディアメトロ(更に略称AM)が使用されている。
これは、日本の東京地下鉄株式会社がその愛称を東京メトロとしているのと同じだ。
街中が薄暗ければ、駅構内も薄暗い。
だが、確かに地上と比べれば温かいものだった。
稲生:「1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行きに乗ると乗り換え無しで1番街に行けますね」
イリーナ:「よし、そうしよう」
マリア:「こっちの地下鉄、来る度に複雑になってくるなぁ……」
メトロの運賃は定額制。
チケットではなく、トークンと呼ばれるコインを買う。
このコインを自動改札機の投入口に入れると、遊園地の入口辺りにあるゲートの如く、バーが回って中に入れるというものだ。
稲生:「えー、直通電車は次の次に来るみたいですね」
コンコース内にある発車票を見ると、英語と日本語で案内が出ている。
今時流行りのLED表示ではなく、反転フラップ方式(いわゆる、『パタパタ』)だ。
ホームに下りてみると、そこは2面2線の対向式になっている。
反対方向の電車が発車していく所だった。
アルカディアメトロは人間界での古い車両を使っていることが多く、発車していった電車は、かつてドイツのベルリンで使用されていた車両である。
因みにこの車両、人間界でもまだ使われており、それは北朝鮮の平壌地下鉄である。
地上の路面電車も日本製ではなく、外国車両が多いことから、そういうのを見る度、外国に来たなぁと思うのである。
とはいえ、パスポートは必要無い。
本来は存在しない世界ということになっているからだ。
そうしているうちに、見送る予定の電車がやってきた。
古い車両は、なかなか行き先表示が掲げられていないことが多い。
先ほどの平壌地下鉄ベルリン地下鉄も、フロントの上の部分に掲げているだけである。
今度は開業当時の地下鉄銀座線1000形がやってきたが、こちらはもっと表示板が無い。
そこでフロント部分の運転台が無い部分に後付けで表示板を設けて、それでやっと案内しているのである。
因みに、駅構内放送はある駅と無い駅がある。
この10番街駅は、放送が無い駅のようだ。
ホームドアも無い為、視覚障碍者になったらあっという間に利用不可の地下鉄なわけだ。
地下鉄はワンマン運転。
おおよそ6両編成で運転されている。
電車が駅に到着すると、運転士は運転席横のドアを開ける。
別にホームに降りて、安全確認をするわけではないようだ。
ハンガリーのブダペスト地下鉄でも同じことをしているところを見ると、何かしら意味があってやっているのだろう。
かつての営団地下鉄時代に流れていた発車ブザーがホームに流れる。
ホームに駅員が立っているわけではないが、これまた面白いところがある。
ブザーが鳴り終わった後、もう1回、1秒だけ同じブザーが鳴る。
運転士をそれを合図にドアスイッチを操作しているらしい。
その1秒ブザーが客終合図なのだろう。
これは日本においても、名鉄名古屋駅のホームで同じようなことが行われている。
今でも路面電車で聞ける釣り掛け駆動のモーター音を響かせて、黄色い車体の電車が発車していった。
運転士は小柄な少年のような姿をしていたが、魔族で確かそういうのがいたから、体付きは少年でも実際は成人なのだろう。
アルカディアメトロは人間だろうが魔族だろうが、順法精神があって、電車の運転ができる知識や技術を持ち合わせていれば、分け隔てなく採用している。
電車が発車して行くと、ホームの発車票がパタパタと表示を変える。
今度は『1号線直通(1番街経由)、デビル・ピーターズ・バーグ』という表示に変わった。
因みに稲生がやってくる電車に鼻息荒くして見ているのに対し、魔道師師弟はベンチに座って、次の電車を待っていた。
反対側のホームにやってきた次の電車は、大阪市地下鉄御堂筋線の開業当時の車両。
尚、このように地下鉄線では世界中の旧型車両ばかりがやってくるが、地上の高架鉄道線では、日本の旧国鉄などの車両が多く走っていたりする。
稲生:「やっと来ました」
トンネルの向こうから風を切る音と、旧型車両ならではのモーターの轟音が響いてくる。
確かにまあ、放送など要らないくらいの勢いだが、あって当然の日本の地下鉄においては何か足りなさを感じる。
稲生:「これは……?ニューヨークの地下鉄かな?」
開業当時のものなのかは不明だが、かなり古めかしいのがやってきた。
ドアが開くと、照明も白熱電球のもので薄暗い。
ドアの横は2人掛けの横向きシートがあるが、その隣には背中合わせのクロスシートもある。
乗り込むと、すぐにブザーの発車合図の後で発車した。
車内は空いていて、稲生とマリアは横向きの座席に座り、イリーナは進行方向向きの座席に座った。
〔「次は12番街25丁目、12番街25丁目。軌道線10系統、15系統、16系統、19系統はお乗り換えです」〕
アルカディアシティの区画番号については、稲生もサッパリ分からない。
一応、車内には路線図が掲げられている。
運転系統ごとに線引きされていて、それに沿って辿れば良い。
実は行き先表示板が色分けされていて、この電車の場合、オレンジ色に黒抜き表示だったので、オレンジと黒の線を辿れば良い。
すると確かに1番街駅を通り、最後にはデビル・ピーターズ・バーグ駅に着けるというのが分かる。
稲生:「着いたら連絡した方がいいのでしょうか?」
イリーナ:「いや、大丈夫でしょう。アタシ達が今、地下鉄で向かっていることくらい、向こうはお見通しよ」
稲生:「えっ?」
マリア:「なるほど。ポーリン先生が宮廷魔導師じゃ、水晶球で見てますか」
イリーナ:「ま、そんな所だね」
稲生:「アルカディア王国って、常春の国ですよね!?毎月の平均気温が20度から25度くらいの!何か寒いなと思ったら、どうして雪!?」
建物から通りに出た稲生は驚いた。
降り始めたばかりなので、まだ路面に雪は積もっていない。
さすがに寒いので、稲生は似合わないと自分で思っている魔道師のローブを羽織った。
防弾・防刃の他に、防寒・防熱も兼ね備えている魔法の装備である。
イリーナ:「うーん……。王宮で何かあったかねぇ……?」
マリア:「その割には、町は静かですけど?」
市街地は繁華街を除いて街灯が少なく、夜は暗い。
マリア曰く、ロンドンを舞台にしたホラー映画みたいとのことだ。
しんしんと降ってくる雪、人通りの少ない街路が、確かにそんな雰囲気を醸し出している。
どこからか、弱い主人公を追った強い追跡者が現れるかのようである。
が、恐らくそんな者が例え近くにいたとしても、稲生達を襲って来ることはあるまい。
ゲームに出て来るような追跡者程度の力であれば、イリーナやマリアがあっという間に地獄に送ることとなるからだ。
どちらかというと、ここにいる魔道師達の方が追跡者側なくらいだ。
イリーナ:「ま、とにかく寒いから地下鉄の中に入ろう」
稲生:「そうですね。駅なら少しは温かいでしょう」
稲生達はアルカディアメトロ10番街駅の階段に向かった。
正式名称は魔界高速電鉄なのだが、愛称としてアルカディアメトロ(更に略称AM)が使用されている。
これは、日本の東京地下鉄株式会社がその愛称を東京メトロとしているのと同じだ。
街中が薄暗ければ、駅構内も薄暗い。
だが、確かに地上と比べれば温かいものだった。
稲生:「1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行きに乗ると乗り換え無しで1番街に行けますね」
イリーナ:「よし、そうしよう」
マリア:「こっちの地下鉄、来る度に複雑になってくるなぁ……」
メトロの運賃は定額制。
チケットではなく、トークンと呼ばれるコインを買う。
このコインを自動改札機の投入口に入れると、遊園地の入口辺りにあるゲートの如く、バーが回って中に入れるというものだ。
稲生:「えー、直通電車は次の次に来るみたいですね」
コンコース内にある発車票を見ると、英語と日本語で案内が出ている。
今時流行りのLED表示ではなく、反転フラップ方式(いわゆる、『パタパタ』)だ。
ホームに下りてみると、そこは2面2線の対向式になっている。
反対方向の電車が発車していく所だった。
アルカディアメトロは人間界での古い車両を使っていることが多く、発車していった電車は、かつてドイツのベルリンで使用されていた車両である。
因みにこの車両、人間界でもまだ使われており、それは北朝鮮の平壌地下鉄である。
地上の路面電車も日本製ではなく、外国車両が多いことから、そういうのを見る度、外国に来たなぁと思うのである。
とはいえ、パスポートは必要無い。
本来は存在しない世界ということになっているからだ。
そうしているうちに、見送る予定の電車がやってきた。
古い車両は、なかなか行き先表示が掲げられていないことが多い。
先ほどの
今度は開業当時の地下鉄銀座線1000形がやってきたが、こちらはもっと表示板が無い。
そこでフロント部分の運転台が無い部分に後付けで表示板を設けて、それでやっと案内しているのである。
因みに、駅構内放送はある駅と無い駅がある。
この10番街駅は、放送が無い駅のようだ。
ホームドアも無い為、視覚障碍者になったらあっという間に利用不可の地下鉄なわけだ。
地下鉄はワンマン運転。
おおよそ6両編成で運転されている。
電車が駅に到着すると、運転士は運転席横のドアを開ける。
別にホームに降りて、安全確認をするわけではないようだ。
ハンガリーのブダペスト地下鉄でも同じことをしているところを見ると、何かしら意味があってやっているのだろう。
かつての営団地下鉄時代に流れていた発車ブザーがホームに流れる。
ホームに駅員が立っているわけではないが、これまた面白いところがある。
ブザーが鳴り終わった後、もう1回、1秒だけ同じブザーが鳴る。
運転士をそれを合図にドアスイッチを操作しているらしい。
その1秒ブザーが客終合図なのだろう。
これは日本においても、名鉄名古屋駅のホームで同じようなことが行われている。
今でも路面電車で聞ける釣り掛け駆動のモーター音を響かせて、黄色い車体の電車が発車していった。
運転士は小柄な少年のような姿をしていたが、魔族で確かそういうのがいたから、体付きは少年でも実際は成人なのだろう。
アルカディアメトロは人間だろうが魔族だろうが、順法精神があって、電車の運転ができる知識や技術を持ち合わせていれば、分け隔てなく採用している。
電車が発車して行くと、ホームの発車票がパタパタと表示を変える。
今度は『1号線直通(1番街経由)、デビル・ピーターズ・バーグ』という表示に変わった。
因みに稲生がやってくる電車に鼻息荒くして見ているのに対し、魔道師師弟はベンチに座って、次の電車を待っていた。
反対側のホームにやってきた次の電車は、大阪市地下鉄御堂筋線の開業当時の車両。
尚、このように地下鉄線では世界中の旧型車両ばかりがやってくるが、地上の高架鉄道線では、日本の旧国鉄などの車両が多く走っていたりする。
稲生:「やっと来ました」
トンネルの向こうから風を切る音と、旧型車両ならではのモーターの轟音が響いてくる。
確かにまあ、放送など要らないくらいの勢いだが、あって当然の日本の地下鉄においては何か足りなさを感じる。
稲生:「これは……?ニューヨークの地下鉄かな?」
開業当時のものなのかは不明だが、かなり古めかしいのがやってきた。
ドアが開くと、照明も白熱電球のもので薄暗い。
ドアの横は2人掛けの横向きシートがあるが、その隣には背中合わせのクロスシートもある。
乗り込むと、すぐにブザーの発車合図の後で発車した。
車内は空いていて、稲生とマリアは横向きの座席に座り、イリーナは進行方向向きの座席に座った。
〔「次は12番街25丁目、12番街25丁目。軌道線10系統、15系統、16系統、19系統はお乗り換えです」〕
アルカディアシティの区画番号については、稲生もサッパリ分からない。
一応、車内には路線図が掲げられている。
運転系統ごとに線引きされていて、それに沿って辿れば良い。
実は行き先表示板が色分けされていて、この電車の場合、オレンジ色に黒抜き表示だったので、オレンジと黒の線を辿れば良い。
すると確かに1番街駅を通り、最後にはデビル・ピーターズ・バーグ駅に着けるというのが分かる。
稲生:「着いたら連絡した方がいいのでしょうか?」
イリーナ:「いや、大丈夫でしょう。アタシ達が今、地下鉄で向かっていることくらい、向こうはお見通しよ」
稲生:「えっ?」
マリア:「なるほど。ポーリン先生が宮廷魔導師じゃ、水晶球で見てますか」
イリーナ:「ま、そんな所だね」