[10月23日12:30.天候:晴 サウスエンド地区(南端村)・白麗神社]
稲生の前に立ちはだかる者がいた。
それは威吹ではないが、見た感じ、妖狐であると分かった。
緑色の着物に焦げ茶色の袴をはき、日本刀を右手に持っている。
背丈は稲生と同じくらいで、歳は……もちろん妖怪だから一概には言えないが、実年齢からして稲生より年下のように見えた。
妖狐?:「お前は魔法使いの類の者か!?」
魔法使いに物凄く警戒している?
稲生:「ええ、まあそんなところです。僕は稲生勇太と申します。ここの頭目……」
妖狐?:「帰れ!魔法使いは誰一人入れるなとの先生のお達しだ!」
稲生:「先生というのは威吹のことかい?ああ、威吹のヤツ、新しい弟子を入れたんだ」
妖狐?:「先生を呼び捨てとは馴れ馴れしいヤツ!斬り伏せてや……!」
ゴッと妖狐の少年の後ろ頭をゲンコツする者がいた。
威吹:「ちょっと待てや。ユタは特別だ」
稲生:「威吹!」
威吹:「いや、悪いね、何だか……。でも言ってくれたら、駅まで迎えに行ったのに」
稲生:「ゴメン、急に来ちゃって……」
妖狐?:「せ、先生……?」
威吹:「この魔法使いは以前に話した、オレの元“獲物”さ。ユタこと、稲生勇太だよ」
妖狐?:「た、大変失礼致しましたーっ!」
妖狐らしき少年、稲生に全力土下座。
稲生:「あ、いや、別にいいから」
稲生は慌てて手を振った。
全力土下座されると、却って気を使うものである。
[同日12:40.天候:晴 白麗神社・社務所]
さくら:「お粗末ではございますが……」
稲生:「いえ、とんでもない。すいません、お昼時に来ちゃって……」
威吹とさくらの夫婦が寝泊まりしている建物は、社務所と一緒になっているらしい。
稲生は昼食を頂いていた。
稲生:「こいつは坂吹死屍雄。まあ、坂吹と呼んでやってくれ」
坂吹:「坂吹と申します。先ほどは失礼致しました」
稲生:「稲生勇太です。まだ魔道師見習いですけど、まだ人間だっていう自覚があるんだよなぁ……」
威吹:「だけどユタ、会う度に人間の匂いが薄れているよ。本当に残念だ」
稲生:「本当に、運命って分からないものだね。ああ、そうそう。マリアさんがね、『あの時、助けてくれてありがとう』だって」
威吹:「あの時?はて……?如何なる時かな?」
稲生:「ほら、マリアさんが他の魔女に“怨嫉”されて、いざこざになった時さ」
威吹:「……ああ!別に、礼を言われるほどのものではないさ。キミに頼まれてやったことだ。大したことではない」
稲生:「これが御礼だって。神道は肉食いいんだっけ?」
稲生はローブの中から、ゴルフボールくらいのサイズのビー玉のようなものを畳の上に置いた。
稲生:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
稲生がそのビー玉を指さしながら、ダンテ一門オリジナルの“御題目”を唱える。
するとそのビー玉が光り輝き、別の物に変化した。
そして光が消えると、まるで御中元や御歳暮の箱のようなものになる。
威吹:「これは……肉の匂い」
稲生:「ああ。人間界で買ってきた和牛の詰め合わせさ。これで良かったら……」
威吹:「そうか。却って気を使わせてしまったかな。かたじけない。有り難く、頂戴しよう。さくら、これを台所に……」
さくら:「はい。稲生さん、ありがとうございます」
稲生:「いいえ……」
さくらが箱を持って奥の台所に行ってしまった。
稲生:「さくらさん、少しお腹が大きいように見えたけど……。もしかして……?」
威吹:「いや、ハハ……ハ……」
威吹は稲生の指摘を受けて照れ笑い。
坂吹:「禰宜様は既に先生のお子様を身ごもっておられます」
威吹:「こ、こら、坂吹……!」
稲生:「そうだったんだ。おめでとう。だったら尚更、あの牛肉でも食べて、栄養を付けてもらってよ」
威吹:「うむ。お言葉に甘えるよ」
稲生:「ところで坂吹君、歳いくつ?」
坂吹:「15です」
稲生:「若いな。どうして威吹の弟子になったの?」
坂吹:「先生のお噂はかねがね聞いておりまして、特にバァル決戦の際の大活躍ぶりは目を見張るものがあったと……」
威吹:「ボクは大したことはしていなかったような気がするけどな」
稲生:「イリーナ先生の話じゃ、剣客として目立っていたのは、どちらかというとキノの方だったって言うからね」
威吹:「あいつは美味しい所を持って行くのが好きなヤツだからなぁ……」
坂吹:「先生の手柄を横取りするとは、何と言う鬼族……!」
坂吹はある程度、キノのことについては聞いていたようだ。
稲生:「何だか、カンジ君に似てるね」
威吹:「あれにはすっかり騙されてしまったが、今度は大丈夫だ」
稲生:「妖狐の里から来たの?」
坂吹:「はい。推薦状も持っています」
威吹:「里の連中め。調子のいい奴らだ」
稲生:「それだけ威吹も認めてもらえるようになったということだよ」
[同日17:00.天候:晴 白麗神社境内]
昼食の後ですっかり積もる話を話し込んでしまった稲生達。
因みに17時になると、この妖狐2人は本殿の前に立って篠笛と琵琶を弾く。
威吹は篠笛を吹いていたが、坂吹は琵琶を弾くようである。
聴いていて心地良く、それを聴きに参拝する村人もいるほどだ。
尚この習慣は、威吹が人間界にいた頃から行われていた。
稲生:(曲目変わったな……。何か、“故郷の星が映る海”みたい)
一転して今度は“ピュアヒューリーズ 〜心の在り処”
え?どうして威吹達が東方Project知ってるかって?魔界は何でもありなのだw
さくら:「稲生さん、お夕食は先ほど頂いた御肉を使って牛鍋(すき焼き)にしようかと思うのですが……」
稲生:「あ、いや、そんなに長居するつもりはないので……。すいません、何かこんな時間まで……」
さくら:「いえ、いいんですよ」
威吹:「いいからユタ、この際、泊まっていきなよ。まだ人間界に帰るわけじゃないんだろ?」
演奏を終えた威吹が稲生の所へやってくる。
稲生:「まあ、そうなんだけど……。イリーナ先生に聞いてみないと……」
だがイリーナに聞いてみると、二つ返事で了承された。
但し、新婚生活中の威吹達の邪魔はしないようにという条件付きで。
威吹:「坂吹、ユタを客間に案内してくれ。失礼の無いようにな」
坂吹:「はい、先生」
坂吹は稲生を社務所の裏手にある建物……寺で言う所の庫裏の部分。
その中に案内した。
坂吹:「ボクもここで寝泊まりしているんです」
稲生:「そうなのか」
稲生は8畳間の広さがある和室に通された。
坂吹:「風呂とトイレと洗面所はあっちです」
稲生:「うん、分かった。ありがとう」
坂吹:「何か聞きたいこと無いですか?」
稲生:「うーん……。あ、そうだ。キミは威吹から、『魔法使いを境内に入れるな』って言われてたのかい?」
坂吹:「そうなんです」
稲生:「魔法使いが何か迷惑でも掛けたかい?」
坂吹:「いえ、ボクも詳しくは聞いてないんです」
稲生:「そうか。じゃあ、後で威吹に聞いてみよう」
夕食の時間になったら、また坂吹が教えてくれるという。
それまでの間、稲生は座椅子に座って待つことにした。
稲生の前に立ちはだかる者がいた。
それは威吹ではないが、見た感じ、妖狐であると分かった。
緑色の着物に焦げ茶色の袴をはき、日本刀を右手に持っている。
背丈は稲生と同じくらいで、歳は……もちろん妖怪だから一概には言えないが、実年齢からして稲生より年下のように見えた。
妖狐?:「お前は魔法使いの類の者か!?」
魔法使いに物凄く警戒している?
稲生:「ええ、まあそんなところです。僕は稲生勇太と申します。ここの頭目……」
妖狐?:「帰れ!魔法使いは誰一人入れるなとの先生のお達しだ!」
稲生:「先生というのは威吹のことかい?ああ、威吹のヤツ、新しい弟子を入れたんだ」
妖狐?:「先生を呼び捨てとは馴れ馴れしいヤツ!斬り伏せてや……!」
ゴッと妖狐の少年の後ろ頭をゲンコツする者がいた。
威吹:「ちょっと待てや。ユタは特別だ」
稲生:「威吹!」
威吹:「いや、悪いね、何だか……。でも言ってくれたら、駅まで迎えに行ったのに」
稲生:「ゴメン、急に来ちゃって……」
妖狐?:「せ、先生……?」
威吹:「この魔法使いは以前に話した、オレの元“獲物”さ。ユタこと、稲生勇太だよ」
妖狐?:「た、大変失礼致しましたーっ!」
妖狐らしき少年、稲生に全力土下座。
稲生:「あ、いや、別にいいから」
稲生は慌てて手を振った。
全力土下座されると、却って気を使うものである。
[同日12:40.天候:晴 白麗神社・社務所]
さくら:「お粗末ではございますが……」
稲生:「いえ、とんでもない。すいません、お昼時に来ちゃって……」
威吹とさくらの夫婦が寝泊まりしている建物は、社務所と一緒になっているらしい。
稲生は昼食を頂いていた。
稲生:「こいつは坂吹死屍雄。まあ、坂吹と呼んでやってくれ」
坂吹:「坂吹と申します。先ほどは失礼致しました」
稲生:「稲生勇太です。まだ魔道師見習いですけど、まだ人間だっていう自覚があるんだよなぁ……」
威吹:「だけどユタ、会う度に人間の匂いが薄れているよ。本当に残念だ」
稲生:「本当に、運命って分からないものだね。ああ、そうそう。マリアさんがね、『あの時、助けてくれてありがとう』だって」
威吹:「あの時?はて……?如何なる時かな?」
稲生:「ほら、マリアさんが他の魔女に“怨嫉”されて、いざこざになった時さ」
威吹:「……ああ!別に、礼を言われるほどのものではないさ。キミに頼まれてやったことだ。大したことではない」
稲生:「これが御礼だって。神道は肉食いいんだっけ?」
稲生はローブの中から、ゴルフボールくらいのサイズのビー玉のようなものを畳の上に置いた。
稲生:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
稲生がそのビー玉を指さしながら、ダンテ一門オリジナルの“御題目”を唱える。
するとそのビー玉が光り輝き、別の物に変化した。
そして光が消えると、まるで御中元や御歳暮の箱のようなものになる。
威吹:「これは……肉の匂い」
稲生:「ああ。人間界で買ってきた和牛の詰め合わせさ。これで良かったら……」
威吹:「そうか。却って気を使わせてしまったかな。かたじけない。有り難く、頂戴しよう。さくら、これを台所に……」
さくら:「はい。稲生さん、ありがとうございます」
稲生:「いいえ……」
さくらが箱を持って奥の台所に行ってしまった。
稲生:「さくらさん、少しお腹が大きいように見えたけど……。もしかして……?」
威吹:「いや、ハハ……ハ……」
威吹は稲生の指摘を受けて照れ笑い。
坂吹:「禰宜様は既に先生のお子様を身ごもっておられます」
威吹:「こ、こら、坂吹……!」
稲生:「そうだったんだ。おめでとう。だったら尚更、あの牛肉でも食べて、栄養を付けてもらってよ」
威吹:「うむ。お言葉に甘えるよ」
稲生:「ところで坂吹君、歳いくつ?」
坂吹:「15です」
稲生:「若いな。どうして威吹の弟子になったの?」
坂吹:「先生のお噂はかねがね聞いておりまして、特にバァル決戦の際の大活躍ぶりは目を見張るものがあったと……」
威吹:「ボクは大したことはしていなかったような気がするけどな」
稲生:「イリーナ先生の話じゃ、剣客として目立っていたのは、どちらかというとキノの方だったって言うからね」
威吹:「あいつは美味しい所を持って行くのが好きなヤツだからなぁ……」
坂吹:「先生の手柄を横取りするとは、何と言う鬼族……!」
坂吹はある程度、キノのことについては聞いていたようだ。
稲生:「何だか、カンジ君に似てるね」
威吹:「あれにはすっかり騙されてしまったが、今度は大丈夫だ」
稲生:「妖狐の里から来たの?」
坂吹:「はい。推薦状も持っています」
威吹:「里の連中め。調子のいい奴らだ」
稲生:「それだけ威吹も認めてもらえるようになったということだよ」
[同日17:00.天候:晴 白麗神社境内]
昼食の後ですっかり積もる話を話し込んでしまった稲生達。
因みに17時になると、この妖狐2人は本殿の前に立って篠笛と琵琶を弾く。
威吹は篠笛を吹いていたが、坂吹は琵琶を弾くようである。
聴いていて心地良く、それを聴きに参拝する村人もいるほどだ。
尚この習慣は、威吹が人間界にいた頃から行われていた。
稲生:(曲目変わったな……。何か、“故郷の星が映る海”みたい)
一転して今度は“ピュアヒューリーズ 〜心の在り処”
え?どうして威吹達が東方Project知ってるかって?魔界は何でもありなのだw
さくら:「稲生さん、お夕食は先ほど頂いた御肉を使って牛鍋(すき焼き)にしようかと思うのですが……」
稲生:「あ、いや、そんなに長居するつもりはないので……。すいません、何かこんな時間まで……」
さくら:「いえ、いいんですよ」
威吹:「いいからユタ、この際、泊まっていきなよ。まだ人間界に帰るわけじゃないんだろ?」
演奏を終えた威吹が稲生の所へやってくる。
稲生:「まあ、そうなんだけど……。イリーナ先生に聞いてみないと……」
だがイリーナに聞いてみると、二つ返事で了承された。
但し、新婚生活中の威吹達の邪魔はしないようにという条件付きで。
威吹:「坂吹、ユタを客間に案内してくれ。失礼の無いようにな」
坂吹:「はい、先生」
坂吹は稲生を社務所の裏手にある建物……寺で言う所の庫裏の部分。
その中に案内した。
坂吹:「ボクもここで寝泊まりしているんです」
稲生:「そうなのか」
稲生は8畳間の広さがある和室に通された。
坂吹:「風呂とトイレと洗面所はあっちです」
稲生:「うん、分かった。ありがとう」
坂吹:「何か聞きたいこと無いですか?」
稲生:「うーん……。あ、そうだ。キミは威吹から、『魔法使いを境内に入れるな』って言われてたのかい?」
坂吹:「そうなんです」
稲生:「魔法使いが何か迷惑でも掛けたかい?」
坂吹:「いえ、ボクも詳しくは聞いてないんです」
稲生:「そうか。じゃあ、後で威吹に聞いてみよう」
夕食の時間になったら、また坂吹が教えてくれるという。
それまでの間、稲生は座椅子に座って待つことにした。