[10月3日11:00.天候:雨 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル(敷島エージェンシーの入居するビル)]
シンディはエレベーターで1Fのエレベーターホールに下りた。
敷島と会う約束をした来客を出迎える為である。
これも社長秘書の役目と……。
シンディ:「お待たせ致しました。私、敷島の秘書を務めさせて頂いておりますシンディと申し……げっ!」
シンディが最後、言葉に詰まったのは、先日に出会ったロイがいたからだ。
村上:「おう、キミのことはよく聞いているよ。財団の時は、キミの稼働に反対して済まなかったな」
シンディ:「い、いえ……」
越州大学の老教授、村上大二郎であった。
スーツを着ていて、杖をついている。
但し、その杖がただの杖ではないことはシンディも聞いていた。
村上:「見違えるほど人の役に立つようになるとはな……。フッ、よほど私のセンスが無いのかな」
シンディ:「……社長室へご案内させて頂きます」
シンディより身長が高く、ガタイも良い執事ロイドのロイは、どちらかというと執事というよりボディガードに近い。
村上:「南里先生がお遊び要素で開発したボーカロイドをここまでメジャーにするとは……。その商才について、是非話を聞きたくてな……」
シンディ:「さようですか」
エレベーター内には既に、ボーカロイドによるミュージカル開催のポスターが貼られていた。
村上:「敷島社長は初音ミクについて、どれだけ知っているのかね?」
シンディ:「それは……私にも分かりかねます」
村上:「そうか」
エレベーターを降りると、すぐに事務所の中になる。
シンディ:「社長。村上教授をご案内致しました」
敷島:「ありがとう。……学会の重鎮にお越し頂けるとは光栄です。どうぞ、こちらでお寛ぎを……」
村上:「いや、こちらこそ、多忙の中、時間をお取り頂き、ありがとう」
シンディがお辞儀をして一旦、社長室を退室しようとした時だった。
ロイ:「博士はコーヒーより紅茶がお好みです。特に、アールグレイ」
と、シンディに耳打ちした。
シンディ:「そうなの。さすが執事ね」
シンディは頷いて給湯室に向かった。
敷島にはコーヒーを持って行くが、それならばとシンディは紅茶を用意した。
初音ミク:「あの、シンディさん?」
シンディ:「ん、なに?」
初音ミク:「今の、社長さんのお客様って……」
シンディ:「平賀博士の所属する学会で、重役に就いてらっしゃる方よ。立場的にも平賀博士より上だから、失礼の無いのようにね」
初音ミク:「は、はい……。その……。あの博士は私を処分しに来られたんでしょうか?」
シンディ:「はあ?何でそう思うの?」
何でもミクが製造されたばかり頃、起動実験に村上教授が立ち会っていたらしい。
平賀の話では起動実験は成功していたのだが、どうも村上教授は稼働に反対していたとのこと。
結局、南里一派で稼働を強行させたらしいが。
そこへ敷島がミクを芸能活動させて売ってみるという手口を思いつき、それが成功してしまった為、何も言えなくなってしまったのだそうだ。
初音ミク:「だからその……わたしを処分しに来たのかなって……」
シンディ:「あなたはこの事務所のトップアイドルなんだから、今処分なんかしちゃったら、ファンの人達が暴動を起こすわよ」
ミクには既にファンクラブが存在している。
人間のアイドルは歳を取ったり、中にはスキャンダルでファンを裏切ったりするアイドルもいるが、ボーカロイドはそんな心配は無い。
その頃、社長室では……。
敷島:「『……どうしても……どうしても忘れらない……っちゅうことかいのォ?鶴田さん』」
村上:「『1万円なら忘れられるんじゃが……。残念じゃったのぅ、菅原』」
……何の展開だ?
敷島:「いやいやいや!十条博士じゃあるまいし!この前の中央競馬の馬券の予想当てろって無理ですよ!」
村上:「うーむ……。100%予想を当てるロボットを作るのは難しい」
敷島:(バカと天才は紙一重って、こういうことを言うのかぁ……?)
村上:「まあ、雑談はこの辺りにして……。実はな、初音ミクのことなんじゃが……」
敷島:「うちのミクがどうかしましたか?」
村上:「あのコには特殊な力が備わっていることは御存知ですかな?」
敷島:「電気信号を歌に換えて歌う能力ですね?」
村上:「それだけではない。いわゆる“東京決戦”での活躍ぶり、あの魔法のような力を不思議に思ったことは無かったですか?」
敷島:「ああ……。まあ、そうですね。それに、ウィルスにまみれたシンディの感染したウィルスを半分以上も浄化してしまいました」
村上:「科学の子でありながら、そんな魔法みたいな現象を不思議には思いませんでしたかな?」
敷島:「思いましたね。一体南里所長は、ミクに何を仕込んでいるんですか?少なくとも、それでだいぶ助かっているので、マイナスになるようなものではないでしょうが……」
村上:「今でこそ、あなたの秘書であるシンディや南里先生の形見であるエミリーが『現時における鉄腕アトム』の役割を果たしていますが、実は南里一派は初音ミクにその役割をさせるつもりであったという話は聞いておりますかな?」
敷島:「全然知りません。一体、何がどうだというんですか?私にはさっぱり……」
村上:「私も派閥が違ったので、現時点では結論じみたことは言えない。初音ミクを解体すれば、何か分かるかもしれませんぞ?」
敷島:「いや、それは承認しかねます。それは1日やそこらで終わる調査ではないでしょう?うちのミクは今やうちの看板アイドルで、スケジュールはぎっしりです。それを潰してまで行う価値があるとは思えません」
村上:「それは残念だ。……ところで、初音ミクは『鉄腕アトム』の歌を歌ったことはあるかね?」
敷島:「は?いや……無いと思いますが」
村上:「そうかね」
敷島:「ええ。……あ、確か昔、高田馬場駅で発車メロディを聴いたミクがそれを歌おうとした時がありましたね。まだ、メジャーになる前の話ですが……」
村上:「その時、どうなった!?電車が止まったりしなかったかね!?」
敷島:「止まりましたよ」
村上:「! 何故それをあの時報告しなかったのかね!?」
敷島:「いや、何でって……。ミクは歌を歌おうとはしましたが、カスラック……もとい、ジャスラックに何か言われる恐れがあったので、慌てて止めました」
村上:「電車を?」
敷島:「ミクの歌に決まってるじゃないですか。電車が止まったのは、ちょうどその時、ホームから人が落ちたんですよ。先日の銀座駅みたいにね。で、やはりエミリーが電車に体当たりして助け出しましたが……」
村上:「相変わらず、ムチャをしおるなぁ……」
敷島:「エミリーの性格ですね。それより、ミクが歌うと電車が止まるって?」
村上:「いや、電子機器に悪影響が出るかと思われたんじゃが、そんなことは無かったか?」
敷島:「ええ」
村上:「まあ良い。恐らく、敷島社長が初音ミクの歌を止めたことが功を奏したのじゃろう」
敷島:「はあ……」
村上:「とにかく、今後とも理由が明らかになるまで、ミクに『鉄腕アトム』は歌わせるな。何かが起こる」
敷島:「……分かりました。多分、歌う機会は無いと思いますが」
ミクは音楽プロデューサーが用意する歌を読み取らせて歌わせているので、歌うのは新曲ばかりだ。
だから、そんな心配は無いと敷島は思った。
人間達がそんな話をしていた頃、ロイド達は……。
ロイ:「アールグレイ、無かったんですね?」
シンディ:「しょうがないじゃないのよ!社長は紅茶飲まないんだから!」(←急いで自販機で買ってきた『午後の紅茶』を温めて出した)
巡音ルカ:(どうでもいいけど、このロイって執事ロイド、雰囲気が井辺プロデューサーに似てるなぁ……)
結月ゆかり:「アールグレイ?何か、宇宙人みたいです」
Lily:「いや、ゆかり。それ、リトルグレイ」
シンディはエレベーターで1Fのエレベーターホールに下りた。
敷島と会う約束をした来客を出迎える為である。
これも社長秘書の役目と……。
シンディ:「お待たせ致しました。私、敷島の秘書を務めさせて頂いておりますシンディと申し……げっ!」
シンディが最後、言葉に詰まったのは、先日に出会ったロイがいたからだ。
村上:「おう、キミのことはよく聞いているよ。財団の時は、キミの稼働に反対して済まなかったな」
シンディ:「い、いえ……」
越州大学の老教授、村上大二郎であった。
スーツを着ていて、杖をついている。
但し、その杖がただの杖ではないことはシンディも聞いていた。
村上:「見違えるほど人の役に立つようになるとはな……。フッ、よほど私のセンスが無いのかな」
シンディ:「……社長室へご案内させて頂きます」
シンディより身長が高く、ガタイも良い執事ロイドのロイは、どちらかというと執事というよりボディガードに近い。
村上:「南里先生がお遊び要素で開発したボーカロイドをここまでメジャーにするとは……。その商才について、是非話を聞きたくてな……」
シンディ:「さようですか」
エレベーター内には既に、ボーカロイドによるミュージカル開催のポスターが貼られていた。
村上:「敷島社長は初音ミクについて、どれだけ知っているのかね?」
シンディ:「それは……私にも分かりかねます」
村上:「そうか」
エレベーターを降りると、すぐに事務所の中になる。
シンディ:「社長。村上教授をご案内致しました」
敷島:「ありがとう。……学会の重鎮にお越し頂けるとは光栄です。どうぞ、こちらでお寛ぎを……」
村上:「いや、こちらこそ、多忙の中、時間をお取り頂き、ありがとう」
シンディがお辞儀をして一旦、社長室を退室しようとした時だった。
ロイ:「博士はコーヒーより紅茶がお好みです。特に、アールグレイ」
と、シンディに耳打ちした。
シンディ:「そうなの。さすが執事ね」
シンディは頷いて給湯室に向かった。
敷島にはコーヒーを持って行くが、それならばとシンディは紅茶を用意した。
初音ミク:「あの、シンディさん?」
シンディ:「ん、なに?」
初音ミク:「今の、社長さんのお客様って……」
シンディ:「平賀博士の所属する学会で、重役に就いてらっしゃる方よ。立場的にも平賀博士より上だから、失礼の無いのようにね」
初音ミク:「は、はい……。その……。あの博士は私を処分しに来られたんでしょうか?」
シンディ:「はあ?何でそう思うの?」
何でもミクが製造されたばかり頃、起動実験に村上教授が立ち会っていたらしい。
平賀の話では起動実験は成功していたのだが、どうも村上教授は稼働に反対していたとのこと。
結局、南里一派で稼働を強行させたらしいが。
そこへ敷島がミクを芸能活動させて売ってみるという手口を思いつき、それが成功してしまった為、何も言えなくなってしまったのだそうだ。
初音ミク:「だからその……わたしを処分しに来たのかなって……」
シンディ:「あなたはこの事務所のトップアイドルなんだから、今処分なんかしちゃったら、ファンの人達が暴動を起こすわよ」
ミクには既にファンクラブが存在している。
人間のアイドルは歳を取ったり、中にはスキャンダルでファンを裏切ったりするアイドルもいるが、ボーカロイドはそんな心配は無い。
その頃、社長室では……。
敷島:「『……どうしても……どうしても忘れらない……っちゅうことかいのォ?鶴田さん』」
村上:「『1万円なら忘れられるんじゃが……。残念じゃったのぅ、菅原』」
……何の展開だ?
敷島:「いやいやいや!十条博士じゃあるまいし!この前の中央競馬の馬券の予想当てろって無理ですよ!」
村上:「うーむ……。100%予想を当てるロボットを作るのは難しい」
敷島:(バカと天才は紙一重って、こういうことを言うのかぁ……?)
村上:「まあ、雑談はこの辺りにして……。実はな、初音ミクのことなんじゃが……」
敷島:「うちのミクがどうかしましたか?」
村上:「あのコには特殊な力が備わっていることは御存知ですかな?」
敷島:「電気信号を歌に換えて歌う能力ですね?」
村上:「それだけではない。いわゆる“東京決戦”での活躍ぶり、あの魔法のような力を不思議に思ったことは無かったですか?」
敷島:「ああ……。まあ、そうですね。それに、ウィルスにまみれたシンディの感染したウィルスを半分以上も浄化してしまいました」
村上:「科学の子でありながら、そんな魔法みたいな現象を不思議には思いませんでしたかな?」
敷島:「思いましたね。一体南里所長は、ミクに何を仕込んでいるんですか?少なくとも、それでだいぶ助かっているので、マイナスになるようなものではないでしょうが……」
村上:「今でこそ、あなたの秘書であるシンディや南里先生の形見であるエミリーが『現時における鉄腕アトム』の役割を果たしていますが、実は南里一派は初音ミクにその役割をさせるつもりであったという話は聞いておりますかな?」
敷島:「全然知りません。一体、何がどうだというんですか?私にはさっぱり……」
村上:「私も派閥が違ったので、現時点では結論じみたことは言えない。初音ミクを解体すれば、何か分かるかもしれませんぞ?」
敷島:「いや、それは承認しかねます。それは1日やそこらで終わる調査ではないでしょう?うちのミクは今やうちの看板アイドルで、スケジュールはぎっしりです。それを潰してまで行う価値があるとは思えません」
村上:「それは残念だ。……ところで、初音ミクは『鉄腕アトム』の歌を歌ったことはあるかね?」
敷島:「は?いや……無いと思いますが」
村上:「そうかね」
敷島:「ええ。……あ、確か昔、高田馬場駅で発車メロディを聴いたミクがそれを歌おうとした時がありましたね。まだ、メジャーになる前の話ですが……」
村上:「その時、どうなった!?電車が止まったりしなかったかね!?」
敷島:「止まりましたよ」
村上:「! 何故それをあの時報告しなかったのかね!?」
敷島:「いや、何でって……。ミクは歌を歌おうとはしましたが、カスラック……もとい、ジャスラックに何か言われる恐れがあったので、慌てて止めました」
村上:「電車を?」
敷島:「ミクの歌に決まってるじゃないですか。電車が止まったのは、ちょうどその時、ホームから人が落ちたんですよ。先日の銀座駅みたいにね。で、やはりエミリーが電車に体当たりして助け出しましたが……」
村上:「相変わらず、ムチャをしおるなぁ……」
敷島:「エミリーの性格ですね。それより、ミクが歌うと電車が止まるって?」
村上:「いや、電子機器に悪影響が出るかと思われたんじゃが、そんなことは無かったか?」
敷島:「ええ」
村上:「まあ良い。恐らく、敷島社長が初音ミクの歌を止めたことが功を奏したのじゃろう」
敷島:「はあ……」
村上:「とにかく、今後とも理由が明らかになるまで、ミクに『鉄腕アトム』は歌わせるな。何かが起こる」
敷島:「……分かりました。多分、歌う機会は無いと思いますが」
ミクは音楽プロデューサーが用意する歌を読み取らせて歌わせているので、歌うのは新曲ばかりだ。
だから、そんな心配は無いと敷島は思った。
人間達がそんな話をしていた頃、ロイド達は……。
ロイ:「アールグレイ、無かったんですね?」
シンディ:「しょうがないじゃないのよ!社長は紅茶飲まないんだから!」(←急いで自販機で買ってきた『午後の紅茶』を温めて出した)
巡音ルカ:(どうでもいいけど、このロイって執事ロイド、雰囲気が井辺プロデューサーに似てるなぁ……)
結月ゆかり:「アールグレイ?何か、宇宙人みたいです」
Lily:「いや、ゆかり。それ、リトルグレイ」