報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アリス・リンクス」

2020-06-25 20:04:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月25日18:00.長野県北部山中 マリアの屋敷1F西側・大食堂 視点:稲生勇太]

 大食堂のテーブルで夕食を取る魔道士達。
 この席にアリス・リンクスという名の女騎士はいなかった。
 アリスが意識を取り戻し、イリーナとマリアが様子を見に行き、そこで事情を聴いた。
 それで名前が分かったのである。
 ケガはイリーナが回復魔法で治したが、今晩は安静にしておく必要があり、無理に体を動かさぬよう、夕食は部屋で取らせることになったのである。
 服はメイド人形達に問い合わせたところ、来客用の寝巻があり、アリスの体のサイズに合うものがあったので、これを着てもらっている。
 で、戦闘で汚れたであろう服は洗濯中だ。

 イリーナ:「やっぱりエレーナが絡んでたみたいね」
 マリア:「名前は聞かなかったようですが、リンクス卿の言ってた特徴が明らかにエレーナそのものでしたからね」
 稲生:「大活躍だなぁ……」
 マリア:「暗躍って言うんだよ、ああいうの」
 稲生:「それで、どうしますか?そのリンクスさんって方、魔界に帰すんですよね?」
 イリーナ:「療養が終わったらね。ここで王宮騎士団に恩を売っておくのも悪くはないでしょう」
 稲生:「ケガは先生が治したのに、まだ療養が必要なんですか?」
 イリーナ:「魔法で治すケガってのは、使う方も使われる方も体に負担が掛かるものなのよ。だから本来、無闇に使うものではないの。まだポーションを使う方がいいくらいよ」
 マリア:「口で説明されただけじゃ分からないと思うね。まあとにかく、ここは師匠の言う通りにした方がいいってこと」
 稲生:「なるほど。そうですか」

 RPGではいとも簡単にケガを魔法で治しているが、実際は何かと制約やら代償やらが掛かるらしい。
 MPを消費する、しかもそのMPは後で簡単に回復させることができるという簡単な話ではないようだ。

 ミカエラ:「お客様へお食事、お持ち致します」
 イリーナ:「よろしくね」

 ミカエラが大きなトレイに乗せた料理を持って行った。

 稲生:「魔界の情勢はそんなに悪いんですか?」
 イリーナ:「ミッドガード共和国の政府高官に、中国やらロシアの『赤いの』と太いパイプを持っているのがいるみたいね。そこから兵器を手に入れてるみたいよ」
 稲生:「エレーナがリンクスさんと協力して墜とした戦闘ヘリってのは、米軍のアパッチではなく、中国軍のWZ-10じゃないですか?」
 イリーナ:「かもしれないわね。まあ、戦闘ヘリなんてどれも似たような形をしてるし」
 マリア:「いくら魔力が付与された剣だからといって、プロペラを斬り離すなんてできるのかと思いましたけどね」
 稲生:「中国クォリティですか?」
 イリーナ:「それもあるけど、もしかしたらミッドガード軍の兵器は整備不良が多いのかもしれないわ。『壊れたらまた中国やロシアから中古をもらえば良い』くらいに思っているのかも」
 稲生:「まだアルカディア王国に勝ち目はあるってことですね」
 イリーナ:「作戦指揮がしっかりしていればね」
 稲生:(戦争シミュレーションゲームで何とかなるレベル……じゃないよなぁ……)

[同日19:00.マリアの屋敷2F西側・ゲストルーム 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 マリアはイリーナと一緒にアリス・リンクスの部屋に向かった。
 ミカエラから、アリスが食事に手を付けていないという報告を受けたからである。

 イリーナ:「やあやあ、体の具合はどうだい?」
 アリス:「……まあまあだ。だが、所々体が痺れる。これは何だ?」
 イリーナ:「ゴメンねぇ。回復魔法を急いで使ったからこうなっちゃったの。あなたの体力なら……そうね……2~3日もあれば元に戻るわよ」
 アリス:「2~3日。それは時間が掛かり過ぎだ。もう少し早くならぬか?」
 イリーナ:「あくまでも私の見込みであって、あなたの体力次第でもっと早く治るかもしれないわよ。だから、ちゃんと食事を取るといいわ。それとも、嫌いな物でも入ってた?」
 アリス:「……魔道士の家と聞いて、食事に何か入れられていたらと思うと、手が付けられないのだ」
 イリーナ:「そんなことないわよ。さすがの私達も、騎士団とケンカはしたくないからね」
 アリス:「ダンテ一門はミッドガード共和国から狙われてる。にも関わらず、あなた達は王国から退避しようとしない。おかげで、国民が巻き込まれてしまっている。もう既に状況は悪くなっていると思われるが?」
 マリア:「それは一部の連中だ。私達は戦争に入る直前、ここに待避したさ。もっとも、乗っていた列車がミッドガード兵に襲われて危機一髪だったけどな」
 アリス:「ほら、やっぱり。あなた達のせいだ」
 マリア:(イラッ……
 イリーナ:「まあ、そんなことより、早く療養してもらって、向こうの世界に帰らないとね。私の方から騎士団本部には連絡しておくから、治るまでゆっくり療養しなさいな」
 アリス:「ダンテ一門の魔道士に情けを掛けてもらうわけには……痛っ!」
 イリーナ:「ほらほら、無理に起きない。魔法で無理やり塞いだ傷だから、無理に動くと開いちゃうわよ」
 アリス:「ポーションは無いのか?」
 イリーナ:「今日は魔法を使ったから、ポーションは明日ね。とにかく、今日は食事を取って、ゆっくり休みなさいな」
 マリア:「……あんた、いくつだ?」
 アリス:「私はまだ騎士団に入団して日が浅い。クラス3rdだ。まだランクが下で……」
 マリア:「いや、年齢を聞いたんだよw」
 イリーナ:「素質はありそうだから、頑張ればすぐに2ndに上がれそうだけどね」
 アリス:「3rdでも、更にその中でのランキングは厳しい。そう簡単にはいかないさ。……因みに年齢は、今は17。今年で18。あんたと同じくらいでしょ」
 マリア:「それ、魔道士に言うセリフじゃないからな?」

 確かに、マリアとアリスの見た目の年齢はだいたい同じ。
 しかし、マリアの実年齢は【お察しください】。
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“大魔道師の弟子” 「アリスの行方」

2020-06-25 16:00:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月25日16:00.長野県北部山中 視点:稲生勇太]

 稲生はイリーナとマリアにお使いを頼まれ、その帰りであった。
 見習いというのは、雑用も多い。
 師匠や姉弟子に顎で使われることなど上等だ。
 誤解の無いように言っておくが、けして本当に顎が扱き使われているわけではない。
 因みにこのような山中と市街地を往復するのに当たり、車を使っている。
 車は稲生の魔力を使ったもののせいか、最近の日本のタクシーに酷似した車種であり、運転手もマリアが作った人形の化身であった。
 そしてリアシートに座る稲生の隣には、同じくマリアが作ったメイド人形がいる。
 人間形態でメイド服を着ているが、人形らしく生気は感じられない。
 しかし自ら率先して稲生の専属メイドを務めており、名前をダニエラという。
 護衛と称して、メイド服の下にハンドガンやショットガン、手榴弾を隠している危険なメイド人形である。
 車は未舗装の砂利道を突き進んでいる。
 山道の県道から、まるで林道の入口のような佇まいの道を入ってからずっとこの調子。
 で、しばらく進むとレンガ造りのトンネルが現れる。
 そのトンネルの中には照明は無い。
 このトンネルを抜けると、マリアの屋敷である。
 トンネルの長さは意外にあり、微妙に左カーブしているせいか、出口が見えない。
 そこをヘッドライトを点灯させて進むのである。
 が、トンネル内を少し走ったところだった。

 稲生:「うわっ!?」

 突然、車が急停車した。

 稲生:「な、なに!?何かあったの!?」
 運転手:「…………」

 路線バスの運転手のような恰好をした運転手が、こちらを振り向いた。
 帽子を深く被っているせいで、目から上がよく見えない。

 ダニエラ:「……どうやら、道の上に何かが落ちているようです」
 稲生:「えっ!?」

 そこは同じマリアの人形。
 運転手の無言の訴えを的確に聞き取り、それを稲生に伝えた。

 稲生:「何が落ちてるんだ?」

 稲生とダニエラは車を降りた。
 稲生達以外誰も通らないトンネルのせいか、中はとても黴臭い。
 ヘッドライトに照らされるようにして、そこに1人の人物が倒れていた。

 稲生:「人だ!どうしてこんなところに人が!?って、しかもこれ……」

 稲生はその人物の服装からして、それが人間界の人間ではないとすぐに分かった。
 何故ならその人物は鎧を着ており、兜はヘッドギア型の装飾が施されたものを着用しているからだ。

 稲生:「もしかして、魔界の騎士か!?え、何でこんな所に!?」

 だが、死んではおらず、ケガをしているだけのようだった。
 しかも、意識が無い。

 稲生:「と、取りあえず屋敷へ運ぼう!ダニエラさん、車に乗せて!」
 ダニエラ:「かしこまりました」

 本来、外部の人間を勝手に屋敷に連れて来てはいけないとイリーナに言われていたが、これは致し方無いだろう。
 ましてや、どうやら魔界在住の人間のようなのだから。
 因みに外部の人間で大っぴらに屋敷への訪問が許されているのは、“魔の者”との戦いで功績を挙げた藤谷親子と稲生の両親だけである(実際に訪問したことがあるのは、藤谷春人だけ)。

[同日17:00.マリアの屋敷2F西側談話室 視点:稲生勇太]

 イリーナ:「取りあえず、ケガの治療は終わったわ」
 稲生:「ありがとうございます」
 イリーナ:「確かにあれは、勇太君の見立て通り、アルカディア王国の騎士団員の1人で間違い無いわ。歳も若いし、簡素な装備だから、そんなに高い階級ではないみたいだけど」
 稲生:「やっぱり!」
 マリア:「どうしてアルカディア王国の騎士があのトンネルの中にいたんでしょう?」
 イリーナ:「マリアは覚えてない?エレーナが2日前に送った報告。エレーナと一緒に人間界に飛ばされたと思われるけど、今は行方不明の騎士団員」
 マリア:「ああ!……でも、どうしてトンネルに?」
 イリーナ:「それは偶然かもしれないわね。もっとも、エレーナには電車に轢かせようとしていたみたいだから、殺意はあったようだけど」
 稲生:「どうします?エレーナに教えますか?」
 イリーナ:「今はやめておきましょう。騎士団員で、エレーナと一緒だったということは、恐らくカネが絡むと思うから」
 マリア:「騎士は貴族の出だ。あの騎士は階級は低いが、きっと家柄は良い所なんだろう。それでカネの匂いを嗅ぎ付けたエレーナが、何か契約でも持ち掛けたんだと思うね」
 イリーナ:「若いから階級は低いけど、後で上がって行くタイプだろうね」
 稲生:「アルカディア王国騎士団の階級……。何でしょうね?」
 イリーナ:「下から順にThird、Second、Firstってところね」
 稲生:「数字ですか」
 イリーナ:「兵士とは違うから、ランキングで決まるみたいよ」
 稲生:「強さのランキングですか?」
 イリーナ:「そんなところ」
 マリア:「エレーナとあの騎士を人間界に飛ばした魔道士って誰なんでしょう?」
 イリーナ:「分からないけど、恐らく東アジア魔道団の誰かである確率は高いわね。あいつらも魔界に出入りしてるから」
 稲生:「そいつらですか……」

 と、その時、部屋のドアがノックされた。

 稲生:「はい、どうぞ」

 稲生が声を掛けると、ドアを開けたのはメイド人形のクラリス。
 今は人間形態である。
 ハク人形と呼ばれる人形形態の時はコミカルな動きを見せてくれるが、人間形態の時はメイド人形を束ねるリーダーとしての実力を発揮する。

 クラリス:「失礼します。騎士様が意識を取り戻されました」
 稲生:「おおっ!」
 イリーナ:「分かった。今行くわ。……ああ、勇太君はそこで待ってて」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「体の汚れを落としてあげる為に、上半身裸なの。後で怖い目に遭いたくなかったら、ここにいて」
 マリア:「せめて、バスローブくらい着させてあげればいいのに……」
 イリーナ:「アタシのサイズじゃ大きいし、マリアのサイズじゃ小さいでしょお?」
 マリア:「いや、それにしたって裸はちょっと……」

 2人の魔女はそんなことを言い合いながら、談話室を出て行った。
 1人取り残された見習い魔道士は、手持無沙汰にスマホを弄るしかなかった。
 因みに、魔界におけるクエストの達成率と合否結果は魔界での戦争が終わるまで保留とのことだ。
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“魔女エレーナの日常” 「強制送還」

2020-06-23 19:52:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月23日16:00.魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ上空 視点:エレーナ・M・マーロン]

 西部戦線から東のアルカディアシティに向かうエレーナと王国騎士団のアリス。

 アリス:「どこへ向かってるのだ!?」
 エレーナ:「アンタんちに決まってるぜ!さっさと報酬もらって、人間界へ避難だぜ!」
 アリス:「バカな!このままノコノコと帰れるか!せめて魔王城の前で降ろしてくれ!本部に西部戦線の状況を報告する!」
 エレーナ:「うるさい!だったらこのまま降ろすぜ!」
 アリス:「そしたら報酬は無しだ!」
 エレーナ:「なにぃっ!?」

 エレーナとアリスがそんな言い争いをしている時だった。
 エレーナは下方から強い魔法の気配を感じた。

 エレーナ:「!?」

 エレーナが下を見ると、シティを囲む城壁の上に黒いローブを纏った魔道士がこちらに向けて両手を挙げているのが分かった。
 ローブのデザインに見覚えが無く、しかもフードを深く被っているので顔は分からないが、どうやらダンテ一門の魔道士ではないことが分かった。
 で、こちらに両手を挙げているということは、今まさにこちらに向かって魔法を放つ直前だということである。

 エレーナ:「やっぱ降りろ!避け切れない!」
 アリス:「きさま!裏切るか!」
 エレーナ:「仲間になった覚えは無いぜ!騎士様なら、あとは自分で何とかするんだぜ!」

 だが、時既に遅し!
 2人は黒い光に包まれてしまった。
 その衝撃でアリスはホウキから振り落とされてしまった。

 エレーナ:「や、やっぱ待て!100万ゴッズ……じゃなかった!騎士様よォ!」

[6月23日16:00.埼玉県蕨市 JR蕨駅 視点:エレーナ・M・マーロン]

 黒い光に包まれ、一瞬闇の中に閉じ込められたエレーナだったが、急に視界が開けた。

 エレーナ:「! ここ、どこだ!?」

 パァァァァン♪パァァァァァァ♪(E231系の電子警笛)

 エレーナ:「うわっ!?」

 エレーナは蕨駅の横、通常時速100キロ以上で走行する宇都宮線の線路の上に送還されていた。
 エレーナが呆気に取られていると、上野東京ライン直通の電車が今まさにその速度でエレーナに突っ込もうとしていた。

 エレーナ:「くっ!」

 慌ててホウキを西に向ける。
 と、今度は……。

 ピィィィィィィッ♪(EH200形電気機関車の警笛)

 エレーナ:「でぇぇぇっ!?」

 湘南新宿ラインを走行する貨物列車にぶつかりそうになる。
 何とか避けたエレーナ、コンテナを乗せる貨車の上に着地した。
 貨車の上全てにコンテナが置かれているわけではない為、空いている所に着地したというわけだ。

 エレーナ:「あー、死ぬかと思った……ぜ」

 貨物列車は大宮方面に向かって走っている。

 エレーナ:「すぐにでも離陸したいが、ちょっと落ち着こう……」

 エレーナは貨車の連結器まで移動すると、そこの手すりに掴まりながら、手持ちの電子タバコを取り出した。
 意外なことに、エレーナは喫煙者。
 但し、IQOS派である。

 エレーナ:「何なんだ、あいつ……」

 エレーナがあいつ呼ばわりした相手はアリスではなく、黒いローブを羽織った正体不明の魔道士であった。
 列車がさいたま新都心駅に差し掛かる頃、エレーナは再びホウキに跨って離陸した。
 架線に引っ掛からないように気をつけながら……。
 で、左耳に付けたインカムで発信する。

 エレーナ:「あー、こちらポーリン組のエレーナ。門内各組に連絡するぜ……じゃなかった。連絡します。アルカディアシティ内において、他門の魔道士による攻撃を受けました。攻撃内容は、『強制送還』だと思われます。この攻撃により、私はアルカディアシティから日本国……えーと……どこだ、ここ?……さいたま新都心?って所に飛ばされました。尚、同行者として王立騎士団のアリス・リンクスという若い女騎士が一緒でしたが、現在行方不明です。発見した方は100万ゴッズ……もとい、エレーナまでお知らせください。尚、敵の魔道士の正体は不明。性別も不明ですが、恐らく男だと思われます。魔界在住で男嫌いの魔女の皆さんは、是非とも見つけ出してボコし……倒してください。以上、エレーナからの速報を終わります」

 エレーナはさいたま新都心駅近くの高層ビルの裏手に着地した。

 エレーナ:「ここ、あれじゃね?稲生氏んちの近所じゃね?凄い縁だぜ」

 エレーナはGPSを取り出した。

 エレーナ:「取りあえず、ワンスターホテルに戻ろう。さすがに今の魔界は危険過ぎるぜ」

 ここからワンスターホテルまでの座標を割り出すと、再びホウキに跨って離陸しようとした。

 エレーナ:「あ、待てよ。私がこうして人間界に飛ばされたってことは……アリスもこの世界に飛ばされてんじゃね?」

 アリスはどう見てもこの世界の出身ではない。
 今の魔界もなかなか近代化が進んだスチームパンク的な世界になっているが、まだまだ『剣と魔法のファンタジー』が幅を利かせる世界ではある。
 そこに生きている者が、いきなりこんな文明の進んだ世界の、それも先進国のど真ん中に送り込まれたら……。
 明治~大正時代の人間が現代にタイムスリップしたようなものである。

 エレーナ:「やっべーな、おい。えー……どうするよ?何の手掛かりも無ェよ」

 一切の手掛かりが無い状態で、水晶玉で捜し出せるほどエレーナの魔法はまだ高度ではない。

 エレーナ:「……取りあえず、帰るぜ」

 エレーナはホウキに跨って、一路ワンスターホテルに向かった。

 エレーナ:「100万ゴッズ、惜しかったぜ……」

 と、何度も呟きながら。
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“魔女エレーナの日常” 「戦局悪化」

2020-06-23 14:34:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月23日15:00.魔界王国アルカディア西部 西部戦線 視点:エレーナ・M・マーロン]

 エレーナ:「くそっ、見つかったぜ!」
 ミッドガード兵A:「いたぞ!ダンテ一門の魔女!」
 ミッドガード兵B:「捕まえろ!」

 エレーナはホウキに跨って、瓦礫と化した町の上空に舞い上がる。
 だが、ミッドガード共和国は科学に特化した兵器を持っている。

 エレーナ:「あぁっ!?」

 エレーナの目の前に戦闘ヘリコプター、アパッチが現れた。

 エレーナ:「『剣と魔法のファンタジー』の世界に、そんなもん持ち込むんじゃねーよ、コラ!」

 ダダダダダダダ!(戦闘ヘリ、エレーナに向かって機銃掃射)

 エレーナ:「アタシゃ、この町に配達に来ただけだっつーの!」

 エレーナ、高度飛行をしていると狙い撃ちにされると見て、低空飛行に入るが……。

 ミッドガード兵C:「いたぞ!撃てっ!撃ち落とせ!!」
 エレーナ:「ちくしょう!」

 地上で待ち構えているミッドガード兵がライフルやマシンガンで攻撃してくるのだった。

 エレーナ:「ん!?あれは……!」

 その時、エレーナは時計台を見つけた。
 この町の市庁舎に設置された時計台だ。
 もちろん今はミッドガード共和国の攻撃を受け、時を刻むのを止めてしまっている。

 エレーナ:「あそこに逃げ込めば……!」

 エレーナは大きな鐘がぶら下がっている所から、時計台に逃げ込んだ。

 ヘリ搭乗員:「あー!あー!マイクテス、マイクテス。そこのダンテ一門の魔女に告ぐ!お前達がアルカディア王国政府と結託し、我が共和国の国家転覆を図ろうとしていたことは明白!無駄な抵抗はやめて、直ちに投降せよ!」
 エレーナ:「とんだ言い掛かりだぜっと!」

 エレーナは下の階に下りる階段を駆け下りた。
 上からは攻撃ヘリの機銃掃射の音が聞こえてくる。

 エレーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!Sun da ga!」

 エレーナ、ヘリのいる側の窓から魔法の杖を突き出し、ヘリに向かって魔法を使った。
 ヘリに雷属性の攻撃魔法が直撃する。
 ヘリは雷攻撃を受けて、火を噴き出しながら地上へ墜落して行った。

 エレーナ:「ざまぁ見やがれ!」

 だが、またヘリのプロペラの音が聞こえて来た。

 エレーナ:「まだいんのかよ!こちとらウクライナ動乱経験してるんだぜ!ナメんな!」

 エレーナ、再び攻撃魔法の呪文を唱え、それを仕掛けようとした。

 エレーナ:「食らえ!」
 ???:「待て、危ない!」

 窓から手を出そうしたエレーナを強引に引き込む者がいた。
 そのせいで魔法がキャンセルされてしまう。
 が、窓の外から一斉に機銃掃射された。
 もし引き込めてくれる者がいなければ、エレーナは蜂の巣になっていただろう。

 エレーナ:「いってェ……!誰だぜ?」
 ???:「アルカディア王国西部騎士団、アリス・リンクス。ここは1つ、協力してここから脱出しよう」
 エレーナ:「あぁ?何だって、騎士団がこんな所にいるんだぜ!?つか、騎士団の装備じゃ、外のアパッチに勝てねーぜ!?」
 アリス:「だから、あなたの魔法が必要なんだ」
 エレーナ:「他の奴らは?騎士団なんだから、部隊展開してるんだろ?」
 アリス:「どうやら、全滅してしまったようだ。生き残っているのは私だけ。隊長も隊員も全て……」
 エレーナ:「あぁ!?何やってるんだぜ!?いくらアパッチでも、向こうじゃザコ扱いだぜ!?そいつら相手に……」

 と、外からまた機銃掃射される。

〔「無駄な抵抗は止めて、直ちに投降せよ!」〕

 というパイロットからの通告がヘリのスピーカーから聞こえてくる。

 エレーナ:「やなこった!私はとっとと人間界に帰るぜ!」
 アリス:「ならば、私はここで自害するのみ。……御免!」
 エレーナ:「あー、分かった分かった!助けてやるから、命を粗末にするんじゃないぜ!ったく、何でこうサムライとかナイトとかはすぐに自害したがるかねぇ!」
 アリス:「かたじけない」
 エレーナ:「後で報酬はもらうぜ!騎士団に所属してるってことは、アンタもいい所の御嬢だろ?」
 アリス:「リンクス家の爵位は子爵だ」
 エレーナ:「……1つの村か町の統治を任されてるってところか。あ?もしかしてこの辺か?」
 アリス:「いや、アルカディアシティの西南だ」
 エレーナ:「おっし!あの辺は比較的裕福な層の住んでいる村か町だな!報酬は100万ゴッズだ!分かったな!?」
 アリス:「ひゃ、ひゃくまん……!?わ、分かった。父上に相談してみる……」

 エレーナの法外な報酬の要求に、アリスは素っ頓狂な声を上げた。
 その声からして、歳はかなり若いと思われた。
 もしかしたら、騎士団に入ってそんなに日が長くないのではなかろうか。
 ていうかむしろ、まだ10代かもしれない。
 アルカディア王国では騎士団の入団資格は厳しいが、性別に制限は無い。
 基本的に貴族の子弟が入団することが多い。
 中・下層の一般市民が入隊する国防軍とはまた違う。
 アルカディア王国の西南部は、東京都の西南部である世田谷区や大田区などの富裕層の住む地域と同じである。

 エレーナ:「じゃあよ、あのヘリの上空にテレポートするからよ、その魔法の剣で、プロペラぶった切ってくれ。その上等な剣ならできるはずだぜ」
 アリス:「わ、分かった。やってみる」

 アリスは兜をかぶり直した。
 兜の下は後ろに束ねた赤毛が特徴だ。
 中世の騎士のそれと違い、フルフェイスの兜ではなく、装飾が派手なカジュアルな兜だった。

 エレーナ:「よし!それじゃ、ホウキの後ろに乗ってくれ!」

 エレーナはアリスをホウキの後ろに乗せた。
 アリスはスラッとした背丈であるが、体重は軽いようだった。
 恐らく男の騎士がなる重騎士ではなく、機動力を生かした軽騎士かもしれない。

 エレーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」

 エレーナは瞬間移動の魔法を唱えた。

 エレーナ:「lu ra!」

 次の瞬間、エレーナ達はアパッチの真正面にいた。
 びっくりしてエレーナ達を見つめる搭乗員達。

 エレーナ:「今だ!ぶった切れ!!」
 アリス:「はーっ!」

 アリスはヘリに飛び掛かると、鋼鉄で頑丈なプロペラに斬りかかった。
 具体的には本体とプロペラを繋ぐ部分。
 剣から青白い光が放たれ、アリスはそれを本当に斬り飛ばしてしまった。
 プロペラを失ったヘリコプターは制御不能になり……。

 エレーナ:「おおっ!?」

 仲間のヘリと激突!
 2機共に地上へ墜落して行く。
 そして、真下に展開していたミッドガード軍の地上部隊を巻き込んで大爆発した。

 エレーナ:「やったぜ!ボーナスポイント、ゲットだぜ!!」

 エレーナは急降下して、自由落下中のアリスを助け出した。

 アリス:「す、凄い作戦だった……!これは勲章ものだぞ!」
 エレーナ:「そりゃどうもだぜ!とにかく、さっさと離脱するんだぜ!」

 エレーナはアリスを再び乗せると、戦場と化した町から離脱した。
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“大魔道師の弟子” 「未だにTransitとTransferの違いが分からない」

2020-06-21 11:32:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月10日12:58.埼玉県さいたま市大宮区 JR東北新幹線“やまびこ”52号→大宮駅・新幹線乗り場 視点:稲生勇太]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 車窓に並走するニューシャトル線が見えて来たら、大宮駅はまもなくである。

 マリア:「あの鉄道博物館、営業してるみたい」
 稲生:「自粛が明けたので、営業再開できたんだね。良かった良かった」
 マリア:「そろそろ、師匠を起こしに行こう」

 稲生とマリアは降りる準備をして、それから隣のグリーン車に向かった。
 普通車はまあまあの乗車率になっていたが、グリーン車は空いていた。

 イリーナ:「あいよ。アタシゃ起きてるよ」

 イリーナは目を細めた状態で弟子達に応えた。
 もう既に席を立っている。

 マリア:「それは良かったです」
 イリーナ:「もっとも、次はどうなるか分かんないけどねー。その時はよろしく頼むよ」
 稲生:「はい。それはもう……。(どうせ乗り換え先の新幹線、長野止まりだし……)

 列車が減速しながら大宮駅のホームに滑り込む。
 上り本線ホームに入ることもあって、特にポイントを渡ることもなく、大きな揺れは無かった。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物なさいませんよう、お降りください。14番線の電車は、“やまびこ”52号、東京行きです。次は、上野に止まります。……」〕

 列車が止まってドアが開き、ホームに降りる。

 稲生:「久しぶりに帰って来た気がするなぁ……」

 稲生がつぶやくと、イリーナは目を細めたまま言った。

 イリーナ:「おやおや?今の勇太君の家は、この町じゃないよ。これからもう一本新幹線に乗って、そこから更にバスに乗り換えた先じゃないか。それとも、マリアとこっちで暮らしたいのかい?」
 稲生:「す、すいません!」
 マリア:(ということは、勇太とこっちで暮らす選択肢もあるってこと……?)

 もし今のイリーナが稲生を咎めるつもりで言ったのなら、普段は細めている目を開くはずである。

 稲生:「つ、次の新幹線は18番線からです。もう向こうのホームに行きますか?」
 イリーナ:「何分発?」
 稲生:「13時30分発、“あさま”613号、長野行きです」
 イリーナ:「30分か。だいたい30分くらいあるね。まあ、下のコンコースに降りてみよう」

 関東に入ると風が強くなった。
 更に出て行く列車が巻き起こした風も相まって、魔道士達のローブが風に靡く。
 エスカレーターを使って、下のコンコースに下りた。
 ここにも待合室やNEWDAYS、駅弁の売店などがある。

 稲生:「お昼はここで駅弁でも買って行きましょう」
 マリア:「ちょうどお腹空いたな」
 イリーナ:「私にも買って来てちょうだい。私はここでコーヒー飲んでるから」

 イリーナは待合室に面したコーヒースタンドに向かった。

 マリア:「あっ、師匠だけずるい」
 イリーナ:「後で買ってあげるわよ」
 マリア:「お願いしますよ」
 稲生:「先生は何にします?」
 イリーナ:「そうねぇ……。今度は肉系統がいいかな。それで適当なのお願い」
 稲生:「分かりました」

 稲生とマリアは駅弁の売店に向かう。

 稲生:「肉系統ね。マリアも?」
 マリア:「そうだね」

 で、色々探した結果……。

 稲生:「僕は幕の内弁当にしよう」
 マリア:「いいの?私は“本格炭火焼肉”がいい。師匠はああ見えて大食だから、ボリュームのあるヤツがいいよ」
 稲生:「じゃあ、このロースカツ弁当にしよう」
 マリア:「飲み物はどうする?私はお茶でいいけど」
 稲生:「ホームの自販機でまとめ買いしますか」

 というわけで駅弁を購入し、イリーナの所に戻る。

 稲生:「買って来ましたー」
 イリーナ:「あいよ、ご苦労さん」
 マリア:「師匠にはカツレツにしましたよ。この方が腹持ち良いかと」
 イリーナ:「マリアは分かってるわね」
 マリア:「そりゃもう、あなたの弟子をやって何年にもなりますから。……見た目はそんなに変わらないけど」
 イリーナ:「マリアは少し背が伸びて、胸も少し大きくなったじゃない。そんなことより、はい」

 イリーナは稲生に5000円札を渡した。

 イリーナ:「さっきのお弁当代と、あとはこれでそこのコーヒーでも買って」
 稲生:「ありがとうございます」

[同日13:30.同市内同駅・新幹線下り本線ホーム 視点:稲生勇太]

〔♪♪♪♪。18番線に、13時30分発、“あさま”613号、長野行きが12両編成で参ります。この電車は熊谷、本庄早稲田、高崎、軽井沢、佐久平、上田、終点長野の順に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から5号車です。……〕

 ホームで列車を待っていると、接近放送が鳴り響いた。

 稲生:「先生。これ、お弁当用に飲んでください」

 稲生はホームの自販機で買ったペットボトルのお茶をイリーナに渡した。

 イリーナ:「ありがとう」

 東北新幹線の時と同じように、イリーナはグリーン車に乗り、稲生達は普通車に乗る。
 ダンテ一門の中では一番緩いとされるイリーナ組ではあるが、一応このような序列は付けられている。
 イリーナとしては特に拘っていないのだが、そうしないと他の1期生達から嫌味を言われる為。

〔「18番線、ご注意ください。13時30分発、北陸新幹線“あさま”613号、長野行きの到着です。黄色い線の内側まで、お下がりください」〕

 大宮駅にはホームドアが無い為、立ち番の駅員(輸送助役)も気を使うことだろう。
 東海道新幹線と違って運用車両が統一されておらず、しかもそれぞれ規格が違うので、ホームドアが設置できない現状がある。

〔「大宮、大宮です。18番線の電車は北陸新幹線“あさま”613号、長野行きです。東北、新潟方面には参りませんので、ご注意ください」〕

 稲生とマリアは10号車に乗り込んだ。
 ここならまた到着の際、イリーナを起こしに行ける。
 東北新幹線の時と同じように、2人席に座った。

 稲生:「今度はアルカディアタイムスが置いてないですね」
 マリア:「そうだね。まだ夕刊には早いか?」
 稲生:「あ、そうか。夕刊もあるんだっけ」
 マリア:「タブロイド判だけどね」

 駅弁に気を取られて、他の売店の品揃えまでは確認していなかった稲生だった。
 なので、もう夕刊が売られていたかどうかまでは知らない。

 マリア:「気になる?魔界の動き」
 稲生:「そりゃもう。威吹は大丈夫かなって」
 マリア:「イブキのことだから、きっと上手く立ち回ると思うけどね。それに、イブキにも避難先はあるんだろう?」
 稲生:「妖狐の里か。多分ね。僕は行ったことないけど」

 大宮駅新幹線ホームの発車ベルは、メロディーではない。
 大宮駅のホームでも唯一の電子電鈴である。
 東北新幹線と同様、北陸新幹線も定刻通りに発車した。
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