報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「新宿での話」

2021-09-18 15:35:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日14:00.天候:晴 東京都新宿区 JR新宿駅→渋谷区 ホテルサンルートプラザ新宿]

 私達を乗せた埼京線電車は、ダイヤ通りに新宿駅に到着した。
 池袋駅を出た時点で主任にメールを送ってみると、すぐに返信があった。
 新宿駅近くのホテルまで来てほしいという。
 そのホテルにはカフェがあって、そこで話をしたいとのことだ。
 なるほど。
 ホテルのカフェなら静かに話ができるだろう。
 新宿駅の南側、都営地下鉄の乗り場に近い所にホテルはあり、意外と歩かされた。
 それほどまでに新宿駅はデカい所だということだ。

 愛原:「えーと……ここだな」
 高橋:「姉ちゃん、泊まってるんですかね?」
 愛原:「同じ都内で?まあ、テレワークで泊まるとかかな?善場主任のオフィスでは、そういうことってあるのかな」

 そんなことを話しながら指定された場所へ向かう。
 ホテル内にあるレストランだったが、どちらかというと雰囲気はダイニングバーに似ている。
 それがこの時間はカフェタイムで営業しているということか。

 高橋:「何か、高そうっスね」
 愛原:「サンルートホテルって高級ホテルだったっけ?」

 私は首を傾げつつ、1Fにある店舗へと入った。

 善場:「愛原所長、こちらです」

 善場が手を振ってくれた。
 そこは奥まったテーブル席であった。

 善場:「暑い中、御足労ありがとうございます」
 愛原:「いえいえ。仕事の依頼とあらば、酷暑だろうが極寒だろうがお伺いしますよ」
 善場:「恐れ入ります。まずは何か注文してください」
 愛原:「はあ……」
 リサ:「ジュース、ジュース」
 高橋:「先生や姉ちゃんより高いモン頼むんじゃねぇぞ?」

 私達が飲み物を注文すると、善場主任が口を開いた。

 善場:「北与野駅にいらっしゃったということは、斉藤社長の関係ということですか」
 愛原:「娘さんが退院されたのですが、今日は平日で社長がお迎えに行けません。そこで、私に依頼があったというわけです」
 善場:「そういうことでしたか。御令嬢、絵恋さんですね。具合の方は如何でしたか?あのテロリストの射殺体が発見されたということで、相当なショックを受けられたようですが……」
 愛原:「普段は落ち着いていますが、それを確保する為にリサへの依存度が高くなったような気がします。『常にリサと一緒じゃなきゃ嫌だ』ってな感じで、社長宅を失礼する時も、なかなか放してくれなかったんですよ」
 高橋:「あの喰い付きっぷりは何かのクリーチャーだぜ、クリーチャー」
 善場:「ええ。恐らくクリーチャーでしょうね」
 高橋:「お?姉ちゃんも分かるのか?あのレズガキ、相当ヤバいと思ったんだよ~」

 高橋が1人、ウンウンと何度も頷いて納得している。
 だが私は、主任が真顔でいることに気づいた。

 愛原:「絵恋さんがクリーチャー化しているというのは本当なんですね?」
 善場:「直接見ていないので何とも言えないのですが、兆候としてはあるかと」
 高橋:「え?え?え?どういうことだ?」
 愛原:「『絵恋さんがクリーチャー化している』というのはガチバナだってよ」
 高橋:「えぇっ?だって見た目は普通の人間でしたよ?」
 善場:「高橋助手。最近の上級BOWは、配下のクリーチャーを作るのに、見た目は人間のままというパターンもあるのですよ」
 高橋:「オメ、何やったんだよっ!?」
 リサ:「何もしてない……つもり」

 リサにとっては無意識の行動だったというわけだ。

 愛原:「主任が以前に仰った、『絵恋さんはリサから高濃度のTウィルスを注入されている』というものですね」
 善場:「そうです。詳しくは彼女も検査しないと分かりませんが、恐らくGウィルスとの混合でしょう。Tウィルス単体では、リサの意思で活性化や不活性化の操作ができないでしょうから」

 Gウィルス感染者の精神的特徴として、親子のような関係が構築されるというものがある。
 つまり、大元のGウィルスを持ったリサが『親』で、そこから胚を注入された絵恋さんは『子』ということになる。
 あくまでも比喩的表現なので、本当の親子関係というわけではない。
 日本の暴力団や海外マフィアの組織構造が『親子関係』に例えられるのと同じ。
 子分(組員)が親分(組長)を『親父』と呼ぶ、あの関係である。
 なので今の絵恋さんは、まるで幼子が『母親』であるリサに付き従うようなものなのだ。

 愛原:「ど、どうします?ワクチンなんて……」
 善場:「ありますよ」
 愛原:「あるんですか!」

 そんなことを話していると、私達が注文した飲み物が届いた。

 善場:「それを踏まえた上で、本題に入ります。リサの再検査の話ですね」
 愛原:「リサのどんな数値がヤバかったんですか?」
 善場:「体内に保有しているウィルスそのものは、こちらの想定通りです。確かに今だにリサには暴走の危険性は残っていますし、そのウィルスも取り扱いを誤ると大変なことになります。ですが、まだこちらの想定内なのです」
 高橋:「じゃあ、何が悪いんだよ?」
 善場:「ウィルス以外の物が見つかったということです」
 愛原:「ウィルス以外の物?」
 善場:「そうです。一言で言えば寄生虫ですね。それも、ただの寄生虫ではありません。ただの寄生虫がリサの体内に入ったことにより、体内のウィルスに感染し、特殊な寄生虫に変化を遂げたものといったところです」
 愛原:「でもリサは何とも無さそうですが……」
 善場:「リサのウィルスに感染したことで、その寄生虫はリサのペットですよ。問題はそれすらリサの使役通りに動いて悪さをするということです。そうよね?」
 リサ:「バレたか……」
 善場:「寄生虫じゃないけど、それと似たような事例が海外であったからね。『プラーガ』っていうんですけど……」
 愛原:「『プラーガ』?以前、資料で見たことがありますね。それまでのクリーチャーがゾンビウィルス絡みで発生していたものが、今度は寄生虫と言うか、寄生獣?みたいなものに支配されて発生したものじゃなかったでしたっけ?」

 ゾンビウィルスによるゾンビが本当に見た目がゾンビなのに対し、プラーガに寄生された者は一見して普通の人間と見た目は変わらない。
 しかしリサが新たに持った寄生虫は、そんなプラーガともまた違う存在なのだそうだ。

 善場:「これは新たな生物兵器になるかもしれません。けして、この事は内密にお願いします」
 愛原:「分かってますよ」

 そもそもリサがBOWであるということ自体、秘密なものだろう。
 学園関係者の一部に対しては、公然の秘密になっているようだが。

 愛原:「それで、再検査はどうします?絵恋さんも連れて行った方がいいですよね」
 善場:「はい、お願いします。それでは今後の詳細なのですが……」
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“私立探偵 愛原学” 「埼京線1344K電車」

2021-09-16 21:04:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日13:20.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅→埼京線1344K電車10号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、13時22分発、各駅停車、新宿行きです。次は、与野本町に止まります〕

 斉藤絵恋さんを無事家まで送り、昼食まで御馳走になった後で、私達は帰路に就いた。
 その際、なかなか絵恋さんが放してくれなかったのだが、何とか引き離すことに成功した。
 大宮駅まで行くならタクシーを呼んでくれるとのことだったが、また世話になるのもアレだからと、そこは固辞した。
 最寄り駅の北与野駅まで徒歩で向かった。
 暑い上に強めに吹く風は、熱気を帯びていて全く涼しくない。
 タクシー車内の涼しさが恋しくなってくる。
 BSAAとの取り決めに従い、先頭車が来る辺りで電車を待っていると、私のスマホに着信があった。
 斉藤社長からかなと思ったが、善場主任からだった。

 愛原:「もしもし、愛原です」
 善場:「愛原所長、お疲れさまです。善場です」
 愛原:「善場主任、いつもお世話になっております」
 善場:「いえ、こちらこそ。突然で申し訳ないのですが所長、今日これからお時間ありますか?」
 愛原:「あ、はい。今、埼京線の北与野駅にいます。これから事務所に戻るところですが……」
 善場:「北与野駅ですか。それでは新宿で落ち合いませんか?リサのことで話があります」
 愛原:「リサのことですか」

 私はリサをチラッと見た。
 イケメンの高橋が、20歳前後の女性に逆ナンされている。
 高橋はLGBTのBであるが、どちらかというとGに近い方のBなのでウザそうにしていた。
 タイプの女性も、霧崎さんのようなボーイッシュな感じだ。
 しかし逆ナンしている女性は、池袋や渋谷辺りを歩いていて不思議が無い感じのタイプであった。
 恐らく、そこから帰って来た、或いはこれから行くところなのだろう。
 リサはそんな高橋を冷やかしては怒られている。

 善場:「先日の検査の結果はまだ全て出てはいないのですが、どうも再検査を行うことになりそうですので……」
 愛原:「えっ、再検査?」
 善場:「はい。そうなってきますと、ちゃんとした設備の整った所に行って頂くことになります」
 愛原:「それってもしかして、藤野とか?」
 善場:「そうですね。それも選択肢の1つです。とにかく、そのことについてお話しさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
 愛原:「分かりました。これから向かいます」

〔まもなく1番線に、各駅停車、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、与野本町に止まります〕

 愛原:「13時22分発の電車に乗ります」
 善場:「13時22分発ですね。了解しました。それでは新宿駅に着きましたら、またご連絡ください」
 愛原:「分かりました。失礼します」

 私は電話を切った。
 と、同時に電車がやってくる。
 往路に乗った高崎線と同じ形式の車両だが、まず車体の帯の色や座席の色が違った。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます。次は、与野本町に止まります〕

 私達は先頭車に乗り込んだ。
 そして、モスグリーンの座席に腰かける。
 高崎線のはオレンジとグリーンの2色、いわゆる湘南色と呼ばれる塗装であった。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 ドアチャイムも高崎線のと同じであるが、違うのはドアが閉まり切る時。
 高崎線など中京離電車のはガチャンと賑やかに閉まるのに対し、埼京線などの通勤電車はバンと閉まる。
 埼京線にはまだホームドアが設置されていないので、ドアが閉まればすぐに発車した。

 愛原:「よっ、色男。モテモテだねぇ」
 高橋:「やめてくださいよ。俺にとっては苦痛です」
 愛原:「贅沢なヤツめ」

〔次は与野本町、与野本町。お出口は、右側です〕
〔The next station is Yono-Hommachi.JA24.The doors on the right side will open.〕

 高橋:「それより、善場の姉ちゃん、何だったんですか?」
 愛原:「リサのことで話があるから、新宿で会わないかだって」
 高橋:「リサのこと?ついに殺処分っスか?」
 リサ:「!?」Σ(゚Д゚)
 愛原:「なワケねーだろ」

 私は否定したが、しかし善場主任は明確に否定したわけではない。

 愛原:「この前、リサのウィルス検査をしただろ?多分、想定外の数字でも出たんだろうな。再検査をしなくてはならないかもしれないから、そのことについて話をしたいんだって」
 高橋:「その数字によっては殺処分と……」
 愛原:「そんなことは言ってねーよ。どうせまた、藤野かどっかに行けって話だろ」
 高橋:「また藤野ですか……」
 リサ:「八王子ラーメン食べれる?」
 高橋:「その前に殺処分だろ」
 愛原:「だから違うって」

 やや不機嫌な高橋は、リサに八つ当たりしているようだ。
 因みに八王子ラーメンとは、長ネギの代わりに玉ねぎの入った、東京都八王子市名物のご当地ラーメンのことだ……と、私は思っている。

 高橋:「新橋じゃなくて新宿なんですね」
 愛原:「……そうだな。別に新橋の事務所に出向いてもいいのに、主任は新宿で落ち合うと言ったんだ」
 リサ:「新宿なら人が多いから、そこで殺処分されることはないよね?」
 愛原:「そうだな。だから安心していい」
 高橋:「甘いな。新宿歌舞伎町をナメんじゃねぇ」
 愛原:「昼間っから殺人事件が起きるほど危険な所でもないだろう?今は」

 警視庁がちゃんと仕事してくれているおかげで、今の私は新宿歌舞伎町がそんなに危険な場所だとは思わない。
 とはいえ、好き好んで行くつもりは無いがな。

 愛原:「多分、話をする場所は歌舞伎町じゃないと思うよ」

 おおかたJRの駅構内とか、南口とか、比較的待ち合わせしやすい場所になるだろう。
 尚、作者は新宿スバルビルの“新宿の目”の場所が分からず、完全に迷子になった田舎者である。
 婚活中に見合い相手が待ち合わせ場所に指定してきたのだが、ようやく辿り着いた頃には【お察しください】。
 それ以来、新宿には鉄道の乗り換えやバスタ新宿以外行きたくないのだそうだ。

 愛原:「まあ、再検査の話がメインであって、殺処分とか、そんな物騒な話ではないから心配するな。な?」

 私は不安がるリサの頭を撫でて言った。
 私が撫でてやると、リサはこくんと頭を縦に振った。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の昼食会」

2021-09-15 19:59:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日10:56.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです〕

 さいたま新都心駅を出ると、下車駅の大宮駅はもうすぐである。
 左手に見えるさいたまスーパーアリーナが、埼玉に来たことを教えてくれる。

〔まもなく、止まります。手すりにお掴まりください〕

 グリーン車の階段付近には、こんな放送が流れている。
 高崎線は素直に下り本線ホームに入るので(一部列車に例外あり)、ポイント通過による減速や揺れは無い。

 愛原:「高橋、荷物下ろしてやれ」
 高橋:「ハイ」

 高橋は長身を利用して、荷棚に上げた絵恋さんのキャリーバッグを下ろした。

 愛原:「じゃ、降りようか」

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物なさいませんよう、ご注意ください。8番線に到着の電車は、10時57分発、高崎線の普通列車、籠原行きです。途中駅での快速、及び特急列車の待ち合わせはございません」〕

 電車を降りると、私達は熱気に包まれた。
 エスカレーターで2階に向かう。

 リサ:「先生、このグリーン券はどうしたらいい?」
 愛原:「記念に持ってたらいいよ。絵恋さんと一緒に乗った記念にさ」
 リサ:「おー」

 グリーン券にはグリーンアテンダントが押印した改札印(民営化前は検札印)がある。
 JRでは駅改札印は赤いインクなのに対し、車内改札印は青いインクである。
 首都圏の普通列車のグリーン車は、改札口で回収されない。
 その為、それは出場してからも手元に残るのである。

 高橋:「それにしても暑いっスねぇ……」
 リサ:「うぅ……。何か、サイトーんちのプールに入りたくなってきた」
 絵恋:「リサさん……
 リサ:「でも水着持ってないからダメだ」
 絵恋:「そんなぁ……」
 愛原:「今度遊びに行く時、水着を持って行くといいよ」
 絵恋:「リサさん、どんな水着着るの!?」( ´Д`)=3
 リサ:「先生はスク水がお望み。だからそれ」
 絵恋:「学校のじゃなくて、ビキニとかぁ……」
 リサ:「先生は『水着交換』がお望み。だから、それをやろう」
 絵恋:「何それ?」
 リサ:「まず、プールの中で2人で泳ぐ」
 絵恋:「ふんふん」
 リサ:「その後、潜りながら2人で水着を脱いで裸になる」
 絵恋:「おお~!?」
 リサ:「そしてその水着を交換して、再び泳ぎながら着るというもの」
 絵恋:「何それリサさん!?マニアック~」

 ま、まさか!?

 リサ:「うん。先生のパソコン『秘蔵動画』の中に入ってた」
 愛原:「こらぁ!」
 絵恋:「へ、ヘンタイ!変態だわ!!」
 高橋:「先生。俺と先生でそのAV、再現しませんか?」( ー`дー´)キリッ
 愛原:「変態!変態だぞ!」
 リサ:「タイトル名『仲良しJKプール遊戯』」
 愛原:「だから、勝手に俺のPC観るのやめろって言っただろ!」
 絵恋:「で、でも、それをリサさんとできるのなら……」(´∀`*)ポッ
 リサ:「ん。もちろんそれ、先生に観てもらうんだよ?」
 絵恋:「げっ!いやだ!!」
 高橋:「失礼なこと言うんじゃねぇ!」

 きっと『例のプール』で撮影されたんだろうな。
 私達は駅の外に出ると、すぐにタクシー乗り場に移動し、そこからタクシーに乗った。

[同日11:15.天候:晴 さいたま市中央区 斉藤家]

 タクシーの中はクーラーが効いて涼しかったが、斉藤家の前で降りると、また暑さに襲われる。
 これを繰り返すと、体の具合が悪くなるわけだな。
 私は斉藤社長からもらったタクシーチケットを使い、それで料金を払った。
 そしてタクシーを降りて、斉藤家へとお邪魔する。
 予想通り、斉藤家に雇われたメイドさん達が出迎えた。
 ここのメイドさん達にはメイドネームが付けられており、本名ではなく、それで呼び合う。
 但し、メイドネームは宝石の名前であるが、結構本名に因んでいたりする(例、メイドネーム『パール』→霧崎真珠)。

 サファイヤ:「お帰りなさいませ、御嬢様。いらっしゃいませ、愛原様」
 愛原:「こんにちは。御嬢様を送らせて頂きましたよ」
 サファイヤ:「お暑い中、お疲れさまでした。冷茶を御用意させて頂いておりますので、どうぞお休みください」
 絵恋:「せめて!せめてもうすぐお昼時だから、せめてお昼だけでも食べて行って!」
 愛原:「しかし……」

 私が固辞しようとした時だった。

 リサ:「お昼は何!?」
 サファイヤ:「ローストビーフのサンドイッチに、お肉たっぷりのミートソースパスタでございます」
 リサ:「食べる!」
 愛原:「お、おいおい、リサ……」
 リサ:「食べる!」
 愛原:「ったくもう……」

 こうなるとテコでも動かないからなぁ……。

 絵恋:「リサさん、私の部屋にいらっしゃい!」
 リサ:「ん」
 サファイヤ:「それでは愛原様方は、応接間へどうぞ」
 愛原:「厚かましくて申し訳ないです」

 リサとしては、『友達の家でお昼を食べる』くらいの感覚だろうが、私にとっては『クライアントの家』だからなぁ……。

 愛原:「あ、あと、これで今回の仕事は終了しましたので、こちらにサインを……」
 サファイア:「はい。後で御嬢様に頂きますわ」
 高橋:「あのビアンガキにサインもらうのも、何だか複雑っスね」
 愛原:「そう言うなって」

 私達は応接間に通された後、冷茶を御馳走になった。
 その後で昼食にお呼ばれしたのだが……。

 愛原:「これ……なぁ……」
 高橋:「おい!」

 食堂に行くと、昨今のコロナ禍ということで、その対策がされてはいた。
 具体的にはソーシャルディスタンス。
 私と高橋との席の間は2メートル離されていたし、アクリル板で仕切られていた。
 それは向かいの席ともそうだったのだが、1つだけ大きな例外があった。

 高橋:「何でオメェらはくっついてるんだよっ!?」

 リサと絵恋さんだけ、ソーシャルディスタンスなんぞどこ吹く風でピッタリくっついていたのである。

 リサ:「私は……コロナなんて関係無いし」
 高橋:「『歩く接触感染』はどうでもいいんだ!じゃなくて、オメェだオメェ!」
 絵恋:「なに?何か文句あるの?」
 高橋:「ソーシャルディスタンスはどうしたぁ!?」
 絵恋:「リサさんとの間に、そんなものは無意味よ。だったらこの際、思いっ切りくっつこうじゃないの。ねぇ?」
 リサ:「暑苦しいから少し離れて」
 絵恋:「ええっ!?」(;゚Д゚)

 リサと一緒にいると、コロナ禍がウソみたいに思えるんだよなぁ……。
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“愛原リサの日常” 「高崎線833M列車の旅」

2021-09-15 16:01:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日10:30.天候:晴 東京都台東区上野 JR高崎線833M列車5号車内]

〔「お待たせ致しました。10時30分発、高崎線の普通列車、籠原行き、まもなく発車致します。発車後、電車が大きく揺れる恐れがありますのでご注意ください」〕

 発車の時刻になり、ホームに発車ベルが鳴り響く。
 低いホームは発車ベルやメロディが度々入れ替わっている。
 尚、特急ホームの16番線・17番線では“あゝ上野駅”が流れる。

〔「15番線から高崎線の普通列車、籠原行きが発車致します。ベルが鳴り終わりますと、ドアが閉まります。お近くのドアからご乗車ください」〕

 昔はドアを閉める前に笛を鳴らしていたのだろうが、今はそんなこともなく、客終合図があればすぐに閉扉する。
 殆どの区間並走する京浜東北線と同じE233系車両ながら、こちらは閉扉する際に『ガチャン』という賑やかな音がする。
 これは多分、ロック機構が違うのだろう。
 そして列車は定刻通りに発車した。
 低いホームから発車だと、直後に上り勾配になるのと、ポイント通過の為に列車がガクンと揺れる。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、籠原行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 リサ:「病室ではどうだった?」
 絵恋:「もう怖くて怖くてしょうがなかったのよ。夢から覚めたら、窓の外とか見られなくて……」
 リサ:「また死体が落ちて来るかもって?」
 絵恋:「そう」
 リサ:「ふーん……」
 絵恋:「あっ、リサさん、笑った!『そんなことあるわけない』って思ったでしょ!?」
 リサ:「いや、無い無い」(ヾノ・∀・`)ナイナイ

 リサは口元を歪めて手を振った。

 リサ:「もしあるようなら、善場さん達が駆け付けるだけだ」
 絵恋:「そんなの分かってるんだけど……」
 リサ:「フム。私はゾンビくらい簡単に素手で倒せるからアレだけど、サイトーにはそれが無理だから怖いのか」
 絵恋:「私はBOWじゃないからね」
 リサ:「他には?病室って個室だったんでしょ?普通の部屋と何が違うの?」
 絵恋:「そうねぇ……。専用のトイレとシャワーがあったことくらいかしら?」
 リサ:「おー、まるでホテルみたい」
 絵恋:「私の部屋でもビジネスホテルクラスでしょう。昔、御祖父様が入院していた時、その病室はシティホテルの部屋並みだったわ」
 リサ:「サイトーの御祖父さん……」
 絵恋:「会社を一から造った立役者でね。今の私が『御嬢様』であるのも、御祖父様のおかげなのよ」
 リサ:「そうなんだ。サイトーは幸せ者」
 絵恋:「萌えへへへ……。ま、まあね……」(´∀`*)ポッ
 リサ:「ん?」
 絵恋:「なに、どうしたの?」
 リサ:「いや、何でもない。(私と同じリサ・トレヴァーの中に、サイトーみたいなお金持ちの御嬢様がいたような気がしたけど、誰だったっけ???)」

 あまり他のリサ・トレヴァーと関わりを持たなかった『2番』のリサ。
 しかしそれで良かったと、今は思っている。
 もし仲良くつるんでいたら、自分も人食いをして倒されていただろう。

 絵恋:「今日は泊まって行ってくれるの?」(*´Д`)
 リサ:「いや、お泊りセット持って来てないから」
 絵恋:「リサさんの為に用意してあげる!」
 リサ:「いや、別に今日はいいから」
 絵恋:「えーっ!プールもあるよ!?」
 リサ:「だから、水着持って来てないって」
 絵恋:「そんなぁ……」( ;∀;)
 リサ:「急に言われても困るから、また今度ね」
 絵恋:「うぅ……」orz

 尾久駅は宇都宮線・高崎線の中でも静かな駅だ。
 駅前広場とは反対側には、尾久車両基地が広がっている。
 今では殆ど使用されていない“カシオペア”のE26系がよく留置されている。
 上野駅“高いホーム”を出発すると、尾久駅の手前でポイント通過があるが、“低いホーム”からだとそれが無い。
 つまり、上野~尾久間はそれぞれ別の線路を走っていることになる。
 尚、駅名は『おく』であるが、地名は『おぐ』である。
 都営バスや都電荒川線の停留所では地名に準じて、『おぐ○丁目』とか呼んでいる。
 こういうことは、都内では他にもある。
 練馬区には江古田という地区があるが、西武池袋線だと『えこだ』であるが、都営地下鉄大江戸線だと『新江古田(しんえごた)』である。
 尾久駅を過ぎると、地平区間を走行する為か、踏切が多くなる。
 京浜東北線の王子駅に接近すると、また上り勾配。
 列車線にはホームが無いので、普通列車でも通過となる。
 王子駅界隈には学校も多く、駅構内の広告看板にも、地元の学校法人の看板とかがある。
 かつてはここに分校(キャンパス)を設ける計画が東京中央学園にはあったようだが、頓挫している。
 今では王子駅にもホームドアがあるので、見えにくくなかったが……。

 リサ:「あのコ、ここからだとパンツ見えそう」
 絵恋:「スカートが短い。校則違反だわ」
 リサ:「東京中央学園ではアウトでも、あの学校ではOKなのかも」
 絵恋:「そうかしら。何だか、風が出て来たね。またゲリラ豪雨でも降る?」
 リサ:「降ると思う」
 絵恋:「降ったら、やまないと思うから是非泊まって……」
 リサ:「降る前に帰るから大丈夫」
 絵恋:「ええ~っ!」Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

 赤羽駅を出ると、次の浦和駅まではしばらく止まらない。

 リサ:「ちょっとトイレ」
 絵恋:「私も行く!」
 リサ:「やっぱやめた」
 絵恋:「何で!?」
 愛原:「仲いいな」

 リサ達が乗車している位置は4号車側の平屋席である。
 そこだとトイレと洗面所がすぐ近くにある。

 リサ:「トイレが1つしか無い」
 絵恋:「だったら一緒に……」(*´Д`)
 リサ:「いや、先に入っていいよ」
 絵恋:「私の老廃物いらない?」
 リサ:「今は『お腹』空いてない」
 絵恋:「お先に失礼します……」
 リサ:「全く……」

 リサはトイレとは通路を挟んで向かいにある洗面所に入った。

 リサ:「……!?」

 一瞬、鏡に10歳くらいの少女の姿が映ったような気がして振り向いた。
 それは新型BOWエブリンに似ていた。
 しかし、そこには誰もいなかった。

 リサ:(前にもこういうことがあったな……)

 リサは首を傾げた。
 エブリンの映像を善場に見せてもらったが、正直自分より強いのかどうかは分からなかった。
 戦い方によっては負けるかもしれないし、勝てるかもしれない。
 ただ、何だか『気持ち悪い』とは思った。
 それは吐き気を催すという意味での気持ち悪いではなく、『なるべくなら関わりたくない』という意味に近かった。

 絵恋:「リサさん、お待たせ」

 しばらくして、トイレから絵恋が出て来た。

 リサ:「ああ」
 絵恋:「老廃物、出しちゃったよ?」
 リサ:「いいよ。『お腹空いた』ら、その時もらうだけだ」

 リサは手から触手を出す仕草をして言った。
 もちろん本当に出したわけではない。
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“私立探偵 愛原学” 「夏休みの移動」

2021-09-13 19:47:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日10:10.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅→高崎線833M列車5号車]

〔「上野駅入谷口です」〕

 私達を乗せた路線バスは、JR上野駅前に到着した。
 昭和通りの方を向いた正面ではなく、北側の入谷口。
 東京中央学園に1番近い出入口でもある。

 斉藤絵恋:「あー、このバスだったんだ!」
 リサ:「おー、ここだここ!」

 通学でこの入谷口をよく利用する少女達が反応する。
 尚、この入谷口通りには桜並木があり、春には桜通りとなる。
 ここでバスを降りると、すぐ目の前が駅の入口である。
 入谷口に入るとすぐにエスカレーターがあって、そこで2階に上がる。

 リサ:「サイトー、麦わら帽子似合う」
 絵恋:「ほ、ほんと!?」
 リサ:「御嬢様って感じ」
 絵恋:「も、萌えぇぇぇぇっ!」
 リサ:「白いワンピも似合う。さすが御嬢様」
 絵恋:「も、萌えぇぇぇぇっ!もっと褒めてぇーっ!」
 高橋:「あー、暑ィ暑ィ。暑苦しい」
 絵恋:「モーホーの方が暑苦しいわよ!」
 高橋:「バカ。Gはそこがいいんだろうが」
 愛原:「悪いが、俺も理解できんよ」
 高橋:「ええっ、そんな!」Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン
 愛原:「悪いが、俺はノーマルなんでね」
 リサ:「私も性的にはノーマル」
 絵恋:「リサさぁん、そんなぁ……」(´;ω;`)
 愛原:「いいから行くぞ」

 エスカレーターを昇って2階に上がり、長い通路を歩く。
 更に3階に上がるエスカレーターがあって、そこで初めてようやく入谷改札口に着くのである。
 そこのキップ売り場で、私はグリーン券を4枚購入した。

 愛原:「はい、これ」
 リサ:「おー、グリーン車」
 絵恋:「いいんですか?」
 愛原:「御嬢様をエスコートするんだから、これくらい当然さ」

 しかし、運賃はそれぞれ自腹だったりする。
 それは全員、SuicaやPasmoを使用した。
 改札の中に入ると、エキュートがある。
 ターミナル駅の駅ナカとあって、その店舗数は多い。

 愛原:「15番線だから低いホームだな。どこからか、エスカレーターで下りることになる」

 私がそう言いながら進もうとすると、どうしてもリサはエキュートにある銘菓店などに目が行ってしまう。

 愛原:「電車に乗り遅れるとマズいから、急ぐぞ」
 高橋:「そうだぞ。あんまり先生のお手を煩わせるんじゃねぇ」
 リサ:「はーい……」

 そしてエスカレーターを見つけ、それで1階に下りると、低いホームがあった。
 JR上野駅は様々な階層にホームがある。
 1階のホームのことを『低いホーム』または『地平ホーム』と呼ぶ。
 このホームは頭端式になっており、上野止まり・上野始発の列車が発着する。
 しかしここ最近、ダイヤ改正で昼間の上野止まり・上野始発の電車が激減したせいで、尚のこと、低いホームは寂しくなった。
 私達が乗る予定の10時30発の電車の次の普通列車は、16時32分まで無い。
 その間はずっと上野東京ラインを走行する列車しか無く、それは『高いホーム』から発着する。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。15番線に停車中の列車は、10時30分発、普通、籠原行きです。発車まで、しばらくお待ちください。次は、尾久に止まります〕

 主に上野始発の普通列車が発車する15番線には、15両編成の普通列車が停車していた。
 午前中の下り列車ということもあって、電車は空いている。
 で、グリーン車のある4号車と5号車に向かうと、途中ホーム上に自販機がある。
 ジュースの自販機だけでなく、お菓子の自販機もあった。

 リサ:「…………」

 リサが足を止め、その自販機をジーッと見る。
 そして、何かを言いたそうに私を見た。

 愛原:「分かったよ。買っていいよ」
 リサ:「この自販機、現金しか使えない……」
 愛原:「分かった分かった。奢ってやるよ」
 リサ:「おー!サイトーは何にする?」
 絵恋:「先生、ありがとうございます。私、カードしか持ってなくて……」

 普通はICカードの事だと思うが、御嬢様たる絵恋さんの場合、それ以外のカードも持っているということだろう。
 まさか、海外セレブのようにアメリカンエキスプレスのいいカードということはないだろうが……。

 高橋:「先生、アルフォートならドラッグストアで買った方が安いですよ」
 愛原:「それを言うな」
 高橋:「えっ?」
 愛原:「さいたま市のココカラファインで安くアルフォートを買っていた作者が川口市に引っ越した際、近所のクリエイトSDに行ったら扱ってないと言われたんだから」

 雲羽:orz
 多摩:「だから無理に引っ越すことはないと言ったんだ」

 リサ:「おー、アルフォート!」
 絵恋:「リサさんはチョコが好きね」
 リサ:「うん、大好き」
 愛原:「分かった。アルフォートだな」

 私は2種類のアルフォートを買った。
 恐らく、1つずつ融通しあいながら食べるのだろう。
 飲み物の自販機についてはICカードが使えるので、それでそれぞれ自分で好きなのを買った。
 そして、グリーン車の5号車に乗る。
 リサはホイホイと2階席に行きたがったが、私はあえて引き留めた。

 リサ:「えっ?」
 愛原:「荷物があるんだから、こっち」

 私が向かったのは車端部にある平屋席。
 実は普通列車の2階建てグリーン車の1階席と2階席には、荷棚が無い。
 その為、荷棚を使いたい乗客にはその部分はネックなのである。
 新幹線車両のE1系やE4系にはあるのだが、車両限界の都合だろう。
 平屋席には荷棚がある。

 愛原:「高橋、荷物上げてやれ」
 高橋:「うっス」

 高橋は絵恋さんのキャリーバッグをヒョイと持ち上げ、荷棚に乗せた。
 こういう時、身長が高いと有利だな。

〔この電車は高崎線、普通電車、籠原行きです。グリーン車は4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください〕

 グリーン車と言っても、特急や新幹線のそれと比べれば豪華ではない。
 スペック的には、それらの普通車自由席と同じか、むしろそれよりも狭いくらい。
 だからグリーン料金も、同じ区間を走る特急の普通車料金と殆ど同じである。

 愛原:「取りあえず、社長に中間報告を入れておこう」

 私はスマホから斉藤社長のスマホに、上野駅から高崎線に乗った旨のメールを送った。
 これはすぐには返信は来なかったが、送信エラーにはならなかったので、一応は送れたようである。
コメント
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