[7月27日14:00.天候:晴 東京都新宿区 JR新宿駅→渋谷区 ホテルサンルートプラザ新宿]
私達を乗せた埼京線電車は、ダイヤ通りに新宿駅に到着した。
池袋駅を出た時点で主任にメールを送ってみると、すぐに返信があった。
新宿駅近くのホテルまで来てほしいという。
そのホテルにはカフェがあって、そこで話をしたいとのことだ。
なるほど。
ホテルのカフェなら静かに話ができるだろう。
新宿駅の南側、都営地下鉄の乗り場に近い所にホテルはあり、意外と歩かされた。
それほどまでに新宿駅はデカい所だということだ。
愛原:「えーと……ここだな」
高橋:「姉ちゃん、泊まってるんですかね?」
愛原:「同じ都内で?まあ、テレワークで泊まるとかかな?善場主任のオフィスでは、そういうことってあるのかな」
そんなことを話しながら指定された場所へ向かう。
ホテル内にあるレストランだったが、どちらかというと雰囲気はダイニングバーに似ている。
それがこの時間はカフェタイムで営業しているということか。
高橋:「何か、高そうっスね」
愛原:「サンルートホテルって高級ホテルだったっけ?」
私は首を傾げつつ、1Fにある店舗へと入った。
善場:「愛原所長、こちらです」
善場が手を振ってくれた。
そこは奥まったテーブル席であった。
善場:「暑い中、御足労ありがとうございます」
愛原:「いえいえ。仕事の依頼とあらば、酷暑だろうが極寒だろうがお伺いしますよ」
善場:「恐れ入ります。まずは何か注文してください」
愛原:「はあ……」
リサ:「ジュース、ジュース」
高橋:「先生や姉ちゃんより高いモン頼むんじゃねぇぞ?」
私達が飲み物を注文すると、善場主任が口を開いた。
善場:「北与野駅にいらっしゃったということは、斉藤社長の関係ということですか」
愛原:「娘さんが退院されたのですが、今日は平日で社長がお迎えに行けません。そこで、私に依頼があったというわけです」
善場:「そういうことでしたか。御令嬢、絵恋さんですね。具合の方は如何でしたか?あのテロリストの射殺体が発見されたということで、相当なショックを受けられたようですが……」
愛原:「普段は落ち着いていますが、それを確保する為にリサへの依存度が高くなったような気がします。『常にリサと一緒じゃなきゃ嫌だ』ってな感じで、社長宅を失礼する時も、なかなか放してくれなかったんですよ」
高橋:「あの喰い付きっぷりは何かのクリーチャーだぜ、クリーチャー」
善場:「ええ。恐らくクリーチャーでしょうね」
高橋:「お?姉ちゃんも分かるのか?あのレズガキ、相当ヤバいと思ったんだよ~」
高橋が1人、ウンウンと何度も頷いて納得している。
だが私は、主任が真顔でいることに気づいた。
愛原:「絵恋さんがクリーチャー化しているというのは本当なんですね?」
善場:「直接見ていないので何とも言えないのですが、兆候としてはあるかと」
高橋:「え?え?え?どういうことだ?」
愛原:「『絵恋さんがクリーチャー化している』というのはガチバナだってよ」
高橋:「えぇっ?だって見た目は普通の人間でしたよ?」
善場:「高橋助手。最近の上級BOWは、配下のクリーチャーを作るのに、見た目は人間のままというパターンもあるのですよ」
高橋:「オメ、何やったんだよっ!?」
リサ:「何もしてない……つもり」
リサにとっては無意識の行動だったというわけだ。
愛原:「主任が以前に仰った、『絵恋さんはリサから高濃度のTウィルスを注入されている』というものですね」
善場:「そうです。詳しくは彼女も検査しないと分かりませんが、恐らくGウィルスとの混合でしょう。Tウィルス単体では、リサの意思で活性化や不活性化の操作ができないでしょうから」
Gウィルス感染者の精神的特徴として、親子のような関係が構築されるというものがある。
つまり、大元のGウィルスを持ったリサが『親』で、そこから胚を注入された絵恋さんは『子』ということになる。
あくまでも比喩的表現なので、本当の親子関係というわけではない。
日本の暴力団や海外マフィアの組織構造が『親子関係』に例えられるのと同じ。
子分(組員)が親分(組長)を『親父』と呼ぶ、あの関係である。
なので今の絵恋さんは、まるで幼子が『母親』であるリサに付き従うようなものなのだ。
愛原:「ど、どうします?ワクチンなんて……」
善場:「ありますよ」
愛原:「あるんですか!」
そんなことを話していると、私達が注文した飲み物が届いた。
善場:「それを踏まえた上で、本題に入ります。リサの再検査の話ですね」
愛原:「リサのどんな数値がヤバかったんですか?」
善場:「体内に保有しているウィルスそのものは、こちらの想定通りです。確かに今だにリサには暴走の危険性は残っていますし、そのウィルスも取り扱いを誤ると大変なことになります。ですが、まだこちらの想定内なのです」
高橋:「じゃあ、何が悪いんだよ?」
善場:「ウィルス以外の物が見つかったということです」
愛原:「ウィルス以外の物?」
善場:「そうです。一言で言えば寄生虫ですね。それも、ただの寄生虫ではありません。ただの寄生虫がリサの体内に入ったことにより、体内のウィルスに感染し、特殊な寄生虫に変化を遂げたものといったところです」
愛原:「でもリサは何とも無さそうですが……」
善場:「リサのウィルスに感染したことで、その寄生虫はリサのペットですよ。問題はそれすらリサの使役通りに動いて悪さをするということです。そうよね?」
リサ:「バレたか……」
善場:「寄生虫じゃないけど、それと似たような事例が海外であったからね。『プラーガ』っていうんですけど……」
愛原:「『プラーガ』?以前、資料で見たことがありますね。それまでのクリーチャーがゾンビウィルス絡みで発生していたものが、今度は寄生虫と言うか、寄生獣?みたいなものに支配されて発生したものじゃなかったでしたっけ?」
ゾンビウィルスによるゾンビが本当に見た目がゾンビなのに対し、プラーガに寄生された者は一見して普通の人間と見た目は変わらない。
しかしリサが新たに持った寄生虫は、そんなプラーガともまた違う存在なのだそうだ。
善場:「これは新たな生物兵器になるかもしれません。けして、この事は内密にお願いします」
愛原:「分かってますよ」
そもそもリサがBOWであるということ自体、秘密なものだろう。
学園関係者の一部に対しては、公然の秘密になっているようだが。
愛原:「それで、再検査はどうします?絵恋さんも連れて行った方がいいですよね」
善場:「はい、お願いします。それでは今後の詳細なのですが……」
私達を乗せた埼京線電車は、ダイヤ通りに新宿駅に到着した。
池袋駅を出た時点で主任にメールを送ってみると、すぐに返信があった。
新宿駅近くのホテルまで来てほしいという。
そのホテルにはカフェがあって、そこで話をしたいとのことだ。
なるほど。
ホテルのカフェなら静かに話ができるだろう。
新宿駅の南側、都営地下鉄の乗り場に近い所にホテルはあり、意外と歩かされた。
それほどまでに新宿駅はデカい所だということだ。
愛原:「えーと……ここだな」
高橋:「姉ちゃん、泊まってるんですかね?」
愛原:「同じ都内で?まあ、テレワークで泊まるとかかな?善場主任のオフィスでは、そういうことってあるのかな」
そんなことを話しながら指定された場所へ向かう。
ホテル内にあるレストランだったが、どちらかというと雰囲気はダイニングバーに似ている。
それがこの時間はカフェタイムで営業しているということか。
高橋:「何か、高そうっスね」
愛原:「サンルートホテルって高級ホテルだったっけ?」
私は首を傾げつつ、1Fにある店舗へと入った。
善場:「愛原所長、こちらです」
善場が手を振ってくれた。
そこは奥まったテーブル席であった。
善場:「暑い中、御足労ありがとうございます」
愛原:「いえいえ。仕事の依頼とあらば、酷暑だろうが極寒だろうがお伺いしますよ」
善場:「恐れ入ります。まずは何か注文してください」
愛原:「はあ……」
リサ:「ジュース、ジュース」
高橋:「先生や姉ちゃんより高いモン頼むんじゃねぇぞ?」
私達が飲み物を注文すると、善場主任が口を開いた。
善場:「北与野駅にいらっしゃったということは、斉藤社長の関係ということですか」
愛原:「娘さんが退院されたのですが、今日は平日で社長がお迎えに行けません。そこで、私に依頼があったというわけです」
善場:「そういうことでしたか。御令嬢、絵恋さんですね。具合の方は如何でしたか?あのテロリストの射殺体が発見されたということで、相当なショックを受けられたようですが……」
愛原:「普段は落ち着いていますが、それを確保する為にリサへの依存度が高くなったような気がします。『常にリサと一緒じゃなきゃ嫌だ』ってな感じで、社長宅を失礼する時も、なかなか放してくれなかったんですよ」
高橋:「あの喰い付きっぷりは何かのクリーチャーだぜ、クリーチャー」
善場:「ええ。恐らくクリーチャーでしょうね」
高橋:「お?姉ちゃんも分かるのか?あのレズガキ、相当ヤバいと思ったんだよ~」
高橋が1人、ウンウンと何度も頷いて納得している。
だが私は、主任が真顔でいることに気づいた。
愛原:「絵恋さんがクリーチャー化しているというのは本当なんですね?」
善場:「直接見ていないので何とも言えないのですが、兆候としてはあるかと」
高橋:「え?え?え?どういうことだ?」
愛原:「『絵恋さんがクリーチャー化している』というのはガチバナだってよ」
高橋:「えぇっ?だって見た目は普通の人間でしたよ?」
善場:「高橋助手。最近の上級BOWは、配下のクリーチャーを作るのに、見た目は人間のままというパターンもあるのですよ」
高橋:「オメ、何やったんだよっ!?」
リサ:「何もしてない……つもり」
リサにとっては無意識の行動だったというわけだ。
愛原:「主任が以前に仰った、『絵恋さんはリサから高濃度のTウィルスを注入されている』というものですね」
善場:「そうです。詳しくは彼女も検査しないと分かりませんが、恐らくGウィルスとの混合でしょう。Tウィルス単体では、リサの意思で活性化や不活性化の操作ができないでしょうから」
Gウィルス感染者の精神的特徴として、親子のような関係が構築されるというものがある。
つまり、大元のGウィルスを持ったリサが『親』で、そこから胚を注入された絵恋さんは『子』ということになる。
あくまでも比喩的表現なので、本当の親子関係というわけではない。
日本の暴力団や海外マフィアの組織構造が『親子関係』に例えられるのと同じ。
子分(組員)が親分(組長)を『親父』と呼ぶ、あの関係である。
なので今の絵恋さんは、まるで幼子が『母親』であるリサに付き従うようなものなのだ。
愛原:「ど、どうします?ワクチンなんて……」
善場:「ありますよ」
愛原:「あるんですか!」
そんなことを話していると、私達が注文した飲み物が届いた。
善場:「それを踏まえた上で、本題に入ります。リサの再検査の話ですね」
愛原:「リサのどんな数値がヤバかったんですか?」
善場:「体内に保有しているウィルスそのものは、こちらの想定通りです。確かに今だにリサには暴走の危険性は残っていますし、そのウィルスも取り扱いを誤ると大変なことになります。ですが、まだこちらの想定内なのです」
高橋:「じゃあ、何が悪いんだよ?」
善場:「ウィルス以外の物が見つかったということです」
愛原:「ウィルス以外の物?」
善場:「そうです。一言で言えば寄生虫ですね。それも、ただの寄生虫ではありません。ただの寄生虫がリサの体内に入ったことにより、体内のウィルスに感染し、特殊な寄生虫に変化を遂げたものといったところです」
愛原:「でもリサは何とも無さそうですが……」
善場:「リサのウィルスに感染したことで、その寄生虫はリサのペットですよ。問題はそれすらリサの使役通りに動いて悪さをするということです。そうよね?」
リサ:「バレたか……」
善場:「寄生虫じゃないけど、それと似たような事例が海外であったからね。『プラーガ』っていうんですけど……」
愛原:「『プラーガ』?以前、資料で見たことがありますね。それまでのクリーチャーがゾンビウィルス絡みで発生していたものが、今度は寄生虫と言うか、寄生獣?みたいなものに支配されて発生したものじゃなかったでしたっけ?」
ゾンビウィルスによるゾンビが本当に見た目がゾンビなのに対し、プラーガに寄生された者は一見して普通の人間と見た目は変わらない。
しかしリサが新たに持った寄生虫は、そんなプラーガともまた違う存在なのだそうだ。
善場:「これは新たな生物兵器になるかもしれません。けして、この事は内密にお願いします」
愛原:「分かってますよ」
そもそもリサがBOWであるということ自体、秘密なものだろう。
学園関係者の一部に対しては、公然の秘密になっているようだが。
愛原:「それで、再検査はどうします?絵恋さんも連れて行った方がいいですよね」
善場:「はい、お願いします。それでは今後の詳細なのですが……」