fromイーハトーヴ ーー児童文学(筆名おおぎやなぎちか)&俳句(俳号北柳あぶみ)

お知らせ・防備録。
記事および画像の無断転用はお断りいたします

Information

『そこに言葉も浮かんでいた』(新日本出版社)『アゲイン アゲイン』(あかね書房)『わくわくもりのはいくえん はる おともだちできるかな』『みちのく山のゆなな』(国土社)『ファミリーマップ』、エンタメシリーズ『家守神』1~5巻、『おはようの声』幼年童話『ヘビくんブランコくん』『オンチの葉っぱららららら♪』、短編集『友だちの木』・歴史物語『アテルイ 坂上田村麻呂と交えたエミシの勇士』他、好評発売中です。各種ご依頼は、左側のメッセージからお願いいたします。    

『命のバトン』(堀米薫)ー佼正出版

2013年03月29日 | 本の紹介

              命のバトン 津波を生きぬいた奇跡の牛の物語  中学年~大人

 堀米薫さん、渾身のノンフィクションです。本文を読む前、手にして最初にある震災直後のみやのう(宮城農業高校)の写真を見たとき、ぐっと泣いてしまいました。いえ、でもお涙ちょうだいの作品ではありません。ご自身が被災者でもある作者堀米さんが辛い状況ををこらえ震災後から取材をし、そして出てくるみやのうの先生や生徒さんたちもまたそれに応じ、牛を守り、命というものを考え、生きぬいてきた事実なのですから。

 みやのう(宮城農業高校)は、沿岸から1キロのところにあります。あの地震のあとの津波は、校舎もそして実習の牧舎も飲み込みんでいきました。

 震災後、みやのうの牛たちは逃げきったものと、命を失ったものに分かれてしまいます。逃げ切った牛たちは、多くの人がその面倒を見てくれもします。しかし助かった牛たちには、福島原発の放射能の影響で牧草が汚染されていることが判明し、エサを十分に与えることができないという状況が襲いかかってもきます。これはもう酪農家でもある作者堀米さんご自身の状況とも重なります。そんな中、みやのうの牛たちは震災後わずか3ヶ月後の宮城県の共進会(コンテスト)で出場した3頭の牛が上位入賞を果たすという快挙をなしとげます。

 本の表紙になっている陽子さんの笑顔、この笑顔が読後、さらに太陽のように輝いて見えます。一緒に映っている牛は「サニー」という陽子さんが名づけた仔牛。この物語は、震災という苦難を経て、人と動物が結びついている姿を描いたものであると同時に、私達は肉を食べて命を受け継いでいるのだということを改めて感じさせる、二本立てのテーマの作品です。いえ、命という一つのテーマの中に2本の柱があると言ったらいいでしょうか。

 陽子さんは農業高校に入り、鶏の解体を経験します。最初、二の足を踏んでいた陽子さんは、鶏を捉え、肉として食するという一連の経験を経て、自分たちが動物の命をいただいているという実感を持つのです。「サニー」と名づけた牛もまた、いずれは肉牛となります。

 私たちは、他の動物の命をいただいて生きているのです。豚を飼ってそれを食するという授業が話題になり映画にもなりました。その是非はともかく、スーパーで売られているパックの肉も、生きていた動物だったのだという事実をもう一度噛みしめたいと思いました。

 子どもはもちろんですが、大人の方たちにも読んでいただきたい一冊です。