一時、体調を崩した、
我が家のきくさん。
ここへお越し下さる皆様に、
いっぱい、いっぱい、祈って頂き、
お陰様で、元気に暮らしております。
おはようございます。
今日も、でっかい声で、鳴いてんな~。
それが、きくにとって、調子が良いという証拠だ。
肝リピドーシスに陥り、
そこから回復したと見られる、きくは、
それでも、全く鳴かなかった。
ちゃんと食べられるようになったのに、鳴かないなぁ。
なんだか、きくらしくないなぁ。
お前は、もう鳴かないのか?
そう、きくに語り掛けながら、
私は、自分の身勝手さを思い知った。
15年前、小さな女の子から託された、小さな三毛猫。
体の模様が、まるで菊の花のように美しいと思え、
私は、その子猫を、きくと名付けた。
お行儀のいい子で、イタズラをしたなんて思い出は、一つもない。
先住猫だった、うめの事が大好きで、
だからといって、ベタベタとすり寄って行く訳でもなく、
ただ静かに、側に居られれば、それだけで充分だった。
人間に甘えたい時も、自分からすり寄っては来ず、
まるで、順番を待つように、じっと私を見ていた。
言い方を変えれば、
きくは、不器用な性格だという事なのだろう。
そんなきくが、
すっかり成猫になった頃から、激しく鳴くようになった。
昼夜問わず、ふいにスイッチが入ったかのように、
大きな声で、鳴き続けるようになったのだ。
私は、その都度、きくのスイッチを探すかのように、
きくの体を撫ぜ回した。
夜中だろうと、鳴き始めれば、スイッチを探した。
だけど、どこにも見当たらない。
どうにも参ってしまい、ついに病院へ連れて行った。
すると、獣医から、こう言われた。
不安分離症ではないかと。
猫が、不安やストレスを感じた時、
大きな声で鳴き続けたり、破壊行為をしたり、粗相をしたりと、
問題行動を起こしてしまうという、症状だ。
依存度の高い、甘えん坊な猫によく見られる症状だそうで、
引っ越しや、長い留守番が引き金になったりもするらしい。
日常、かまいすぎる事も、こういったタイプの猫には、
良くないのだそうだ。
かまってやる時間をしっかり決めて、
その時間以外は、なるべく、そっとしておく。
鳴いても、決めた時間以外には、放っておく。
それを、猫にも覚えさせる事が、改善に繋がるとの事だ。
「でもね、先生。
側で撫ぜてやらないと、どうにも鳴き止まないんだもの。
心が引き裂かれるような、凄い鳴き声なんです。
近所迷惑になるから、放っておけない、仕方ないです。
どうにも、ならないんです。」
私は、そう言って、泣いてしまった。
それ程に、きくの鳴き癖が、あまりに酷くて、
夜も寝られない私は、精神的に追い詰められていたのだ。
家に帰り、少し落ち着いた私は、
きくの症状の引き金を、再度考えてみた。
きくは、きっと私を強く求めているのだ。
けれど、どういう風に答えてやればいいのかが、分からない。
せめて改善策は、実行してみようと思い、
その日から、きくとの時間を決めるようにした。
すると、
きくは、夜じゅう、徹底的に鳴き倒す。
更に酷くなっていく声に、布団の中でやり過ごす日々が続き、
私は、もう耐えられなくなった。
きく、どうして?
何が気に入らないの?
そんなに嫌なら、出て行って!
そう、きくに言いながら、玄関の戸を開けても、
きくは出て行かず、私の目を真っすぐに見てくる。
こんな目も当てられない酷いやり取りが
幾日どころか幾年も続く事となる。
その間も、様々な対策を取ってみたが、
目に見えるほどの改善はない。
猫も増えて、きくの猫嫌いも始まり、
皮肉にも、それがきっかけで、多少、症状が改善されたが、
本当に、多少だ。
しかし、鳴く以外の症状は出る事はなく、
病気にもならず、
きくは、毎日、盛大に鳴き続けた。
もしかして、きくは鳴く事で発散しているのかもしれない。
スイッチが入った時以外のきくが、
普通に過ごせるのなら、それでいいのかも。
そう思おうと諦め始めた頃には、
私も、さすがに慣れて来て、鳴き声と共にでも眠れるようになったが、
それでも、咄嗟に、いら立ちが抑えられなくなる事もあった。
仕事がうまく行かず、落ち込んだ、あの日は、
夜中の鳴き声に、酷く苛立ち、眠れなかった。
決め事を破り、きくの元へ行き、抱きしめてみたら、
きくは鳴き止んだ。
きく、もう終わりにしてくれないか・・・
そう呟きながら、抱きしめた腕の力を、徐々に強めていった。
天井を見上げて、そのまま更に強く締めていく。
私の目からはボロボロと涙が溢れ、体は震え出す。
けれど、
その腕に、きくがゴロゴロと喉を鳴らす振動が伝わってくる。
見下ろしてみれば、
きくは、やっぱり、私を真っすぐと見ていた。
それから、しばらくして、
あやと派手に衝突し、きくは個室へ隔離した。
すると、自分だけの縄張りが出来た事が良かったのか、
かなりの改善が見られた。
とはいえ、普通の猫と比べれば、遥かに鳴く訳だが。
とまぁ、
きくとの壮絶ともいえる、やり取りを繰り返してきたくせに、
鳴かないきくに、今度は、きくが鳴かないと心配するなんて、
身勝手なものだ。
今はですか?
・・・・・・・・
お陰様で、鳴いとります!盛大に!!
「そろそろ、飯の時間だろーがー!」と鳴き、
「コラー、撫ぜ撫ぜタイムの時間だろーがー!」と鳴き、
「暇だー、かまえー!」と鳴いている。
それでいい。
それでこそ、きくだ。
きく「ばーか、ばーか、ブサイクどもめ~」
きく「こら、撫ぜる手を休めるな、ブサイク親分め!」
そうだ、そうだ。
それでいいんだよな、きくさんよ。