いつもの朝なんて、
本当は存在しないんだ。
今日という日に、
今日の私が、産まれる。
おはようございます。
足がね、
朝、目覚めて起き上がったら、足がね、
ガクガクなんですよね。
産まれたての子牛の気分なんですよね。
どうしてでしょうね?
はい、わかった!
昨日、行われた、マンションの定例清掃で、
私は、思いのほか、張り切ったからだ。
日ごろ、運動不足なくせに、張り切るもんだから、
足のみならず、全身が、筋肉痛になっているんだ。
こう見えて、私は、意外とノリが体育会系だ。
2か月に1度行われる定例清掃は、
毎度、数日前から憂鬱な気分になるほど、嫌な行事だ。
昨日も、のらりくらりとジャージを着て運手をはめた。
玄関から出て、階段を下りながら、
私は、毎度のことだが、
「今日は、やってる風に見せかけて、適当に乗り切ろう」
と、己に言い聞かせた。
ドングリ広場に行けば、住民の皆さんに、
あえて、弱々しく小さな声での挨拶だ。
なんなら、ちょっと背も丸くして小さく見せたりもした。
挨拶に続く言葉は、
「私、ほんとにポンコツだもんで」とアピールだ。
そしてついに、
午前8時、掃除開始の声が響いた。
これも毎度の流れだが、
私は、やる気など無いくせに、
首にタオルを巻いてキュッと縛った。
その瞬間だ。
私のスイッチが、やっぱり入った。
毎度、この瞬間に、スイッチが入ってしまう。
どうやら、私の場合は、
首にタオルという条件が揃うと、
「闘魂」のスイッチが入ってしまうらしいのだ。
いや、「掃除奉行」と呼ぶべきか、
「お掃除キャプテン」のスイッチか、
もう、どっちでもいいが、
とにかく私は、昨日も、無意識下で、大いに張り切った。
眼光が、すっかり鋭くなった私は、
まずドングリ広場の異様な光景に着手した。
どうやら、住人である異国から来た青年が、
当日、掃除に出られないからと、
昨夜の間にドングリ広場の草をむしっていたようだが、
青々としていた芝生のドングリ広場が、見る影もない程、
土がむき出しの工事現場のようになっている。
むしったというより、掘り起こされている。
植えた芝生が。
「さすが、密林からやってきた、青年だ。」
「独りで、ここまでやっちゃうとは、ある意味、偉業だ。」
住民は、皆、驚きと感心と、そして困惑を抱いた。
山は、大きければ大きい程、燃えるよね。
そう言いながら、
山を切り崩し、ドングリ広場全体へと、ならす作業、小1時間。
やれやれと休憩しようと思ったが、
お掃除キャプテンは、見つけてしまった。
「あれ?草刈り機、使ってないの?なんで?」
すると、住民の一人が、
「今日は草刈り機出来る、あの元気な兄ちゃんが、居らんから。」と。
川沿いは、草刈り機でなければ、無理だ。
そう判断した奉行は、おもむろに草刈り機を持った。
産まれて初めて、持った。
この自信は、どこから来るのだろうなんて、
考える暇もなく、川沿いの草むらへと飛び込んで行った。
「誰か、これのエンジンをかけて!」
おかっぱは、エンジンの掛け方すら、知らないままに、
刈りまくって、スイッチを切ってもらうまで、小1時間。
こうして、
私は、やっと首からタオルを静かに取ったのだった。
お疲れさまでした。
そんな我が家は、掃除がなっていない!
まだ、あるよ、段ボール。
あやの、段ボールチャレンジ!
チャレンジー!
おたまも、チャレンジ!
箱は、小さければ小さい程、燃えるのであった。