私は、一年半ほど前から、へっぽこテニスを始めた。へっぽこでもそれなりに、やりだすと面白くなってきた。ところが、肘をやられてしまった。そこで、同じくらいの程度で結構頻繁にテニスを打ち合っていた、アメリカ人のクリスと疎遠になってしまっていた。彼女はコーチの個人レッスン（これはとってもお高い
）を週に何度もやっていて、とっても熱心にテニスに打ち込んでいた。上手な人と練習すると、下手な方が上手くなれるから、私は本当に彼女の恩恵をこうむっていたことになる。私は最近テニスに復帰した。テニス肘は治らないから、上手に付き合っていくことにしたからだ。復帰して約一ヶ月、クリスに会わない。あんなにテニスばかりやっていたのに、一ヶ月に一度も会わない。私はコーチに彼女のことを聞いてみた。驚いて、声を失った。彼女は8月にご主人を亡くしていた。入院して一週間で亡くなったそうだ。事故ではない、病気だという。コーチから電話をして、外に出るように誘ってくれと頼まれた。テニスが始めれれるなら、それは彼女にとって、とってもいいことかもしれない。私の英語で、電話で、彼女を励ますなんてできるだろうか。ためらった。でも、その気持ちに、今の彼女に会いたい、できることが私にあるのならば、何でも彼女のためになりたいと思う気持ちが勝った。彼女は電話をくれたことを喜んでくれ、来週からまた練習を再開しようと約束した。
突然に何が起こるかわからない、この世の中は。電話をかけた時、留守番電話になっていた、知的ではきはきした感じのアナウンスは彼女のご主人の声に違いない。彼女の悲しみの深さが私に伝わった。
