新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカの富裕層を考える

2013-10-16 13:03:45 | コラム
先日、アメリカの富を独占すると言われている1%のことに触れた。しかしながら正直に言えば、私の経験範囲内にその1%の範疇に入っていた人がいたかどうかは解らない。だが、アッパーミドルないしはそれ以上と思わせる人たちには出会っており、その人たちの富裕さは少し我が国とは違っていたと思わざるを得なかった。

最初に転進したNYからオハイオ州デイトンに移したM社のオウナーでありながら、自分は海外担当副社長に止まり経営は他人に任せたネルソンさんには「違うな」と痛感させられた。デイトンにはアメリカのプロゴルフの公式トーナメントを開催できる36ホールのNCRカントリークラブがある。このゴルフ場はM家の敷地内にあるのだ。ネルソンさんに確認してみると「うちのback yard(裏庭)を貸しているのだ。自宅から何時でも公式戦を見に行けるので便利だ」という答えが返ってきた。

ネルソンさんは来日する度にオークラのスイート・ルームに宿泊され、日本のお客様にをそこ招待するようにされていた。私が謂わば面接試験を受けに行った時などは、ポロシャツにチノパンという余りに寛いだ格好で出てこられたのには驚かされた。だが、本社の彼のオフィスは靴が全部沈んでしまうほどの絨毯と豪華な調度に、ご案内した日本の某大手メーカーの常務さんがその雰囲気に気後れしてしまったほどだった。

アメリカの富裕層を語る際に前提として指摘しておくべきことがある。「それはあれだけ広大な国土があるアメリカでは土地代が我が国とは比較にならないほど安く、我が国の地価を基準にしてものを考えないようにすること」があると思う。カリフォルニア州だけでも我が国よりも広いのだ。

W社のワシントン州南部にある工場の謂わば在庫管理と輸送担当の課長がリタイヤーした後で、自宅を移転したので遊びに来いと招待されたことがあった。車を運転しない私は工場に常駐している技術サーヴィス・マネージャーと共に訪問した。すると車は小さな山に登って行きだしたのだった。不思議に思っていると頂上に到着し、周囲の景色と対比すると小さな家が建っていた。

聞けば、彼はこの山全体を買ってそこに僅か!130坪ほどの家を建てたのだと言うではないか。そこで敷地面積はと訊けば、6,000坪だと言ってのけた。そこで個人的な質問で申し訳ないがと断って「老後の趣味は」と尋ねると、遙か向こうを指さして「あそこに放牧してある馬が見えるだろう。こうやって馬を育てることだ」と答えてくれた。

実は、この時に案内してくれたマネージャーも奥方の要望で、幅が数キロもあるコロンビア川に面した自宅から川まで遮るものなき、彼らの理想とする家に住んでいる。敷地は僅かに1,200坪であるとか。

W社のオウナーW家の住まいは勿論広大だが、その庭内にはヘリポートがある。またシアトル空港の敷地内にはW社の格納庫があって常時社用の大・中・小の飛行機とヘリコプターが準備されている。即ち、CEOのジョージは自宅から自社の格納庫にヘリコプターで飛び、会社のジェット機で出張に出かける仕組みである。

私は上司にこの狙いが何かと尋ねたことがあった。すると、「これは贅沢ではなく、広いアメリカを効率的に速やかに移動するためでもあるが、時間給にすれば当時の為替で3万円にもなる彼を空港でチェックイン等の手続きに要する経費を節約する目的もある」と教えられた。

効率化という意味では1985年10月に朝8時にシアトルに到着され入国手続きを終えた大得意先の常務と課長をそのまま自社のヘリコプターで200キロ南の工場にご案内し、工場視察、昼食会を兼ねた会議を進行させて、5時にシアトル空港にお返ししてシアトル支店での会議に間に合わせたことがあった。私は飛行機を取り揃えるという初期投資はあるが、土地が広いアメリカでの移動の効率化は図れると思っている。

私が未だに親しくその一家と交流しているNY州の名家のW氏(W社とは違う、念のため)では一時期、男女二人の子供がIvy Leagueの大学に行っていた。30年も前になるだろうか。アメリカの私立大学の学費は多額である。我が生涯の最高の上司は「W氏は約2年間1,000万円にもなる学費を何と言うこともなく支払っているほどで、彼はアッパー・ミドルと言うよりもアッパーだろう」と感心していた。

その最高の上司も二人の子供をIvy Leagueに入れていた。彼は1993年に残念ながら一身上の都合で退職し、副社長は3年間は同業他社ないしは関連業種に転職しないという規定に従って浪人し、ペンションも貰えなかった。だが、その間に水際にある新たな家を買い直して移転していた。そして3年後に無事に某社に高給で迎えられて60歳まで大活躍していた。

ここまでに挙げてきた例が1%を独占していると言われる範疇に入る人たちがどうか知らないが、このような高給を取っている人たちは全給与所得者の5%にも満たないという説を聞かされたことはある。それに加えて、土地が広く値段が安いことを忘れてはなるまい。