新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

青木功が言った

2013-10-03 07:16:30 | コラム
内部留保と設備過剰の関係と内需の関係:

私は以前から言っていることで、我が国には内需は十分にあると考えている。問題点は内需が振るわないのではなく「設備過剰」と「近代化の遅れ」にある。その点を詳細に論じる前に「私が経済や景気を論じる場合にはどうしても“紙パルプ・林産物産業”の視点に立つようになる傾向あり」とは申し上げておきたい。

この点について我が国最高のプロゴルファーの一人である青木功の週刊新潮10月3日号の興味あるコメントを引用したい。それは「今でもプレーできている一つの理由には、少なからず道具に助けられているところがある。もし、パーシモンウッドと糸巻きのバラタボールが使われていたら、この歳で試合に出ていたかは自信がない」なのである。

私は紙パルプ産業のみならず、およそあらゆる産業界では何も21世紀に入ってからではなく、近年の機械等の設備やそれによる製品等における進歩は目覚ましいものがあると言えると思っている。ハイブリッドの自動車があれほど普及してガソリン・スタンドが激減するなどと適確に予想した者がいただろうか。貴方はスマートフォンがあれほど普及して、それで外から風呂を沸かせる時代が来ると予測しておられただろうか。残念ながら、私は夢にも考える力がなかった。

私は1974年4月までしかゴルフをしていなかった。その頃に今のようなゴルフのクラブやボールが出てくるとは考えたこともなかった。300ヤードもドライバーで飛ばしてしまうのが当たり前の時代など予想したこともなかった。1950年代の超優良企業の東洋レーヨンが今日のTorayに変化するなど夢にも思わなかった。大きな飛行機が炭素繊維で作られる時代が来るとは知らなかった。

1997年2月にインドネシアの今や世界最大級の製紙会社にまでのし上がったAPPの工場を訪問した際に、「その近代化の極致」とでも形容したい製紙マシンに驚愕した。言うなれば青木功が言う道具の進歩が余りにも凄まじかったのだった。いや、新興勢力が1990年代に入ってから生産設備を導入すれば、仮令買いたくてもパーシモンのウッドクラブは入手できなくなっていたのだった。時代が変わっていた。

しかも、中国をはじめとする東南アジアやブラジル等の新興勢力は何も300ヤードを打たねばならないようなクラブを必要とする規模の内需がなくても、青木功の選手寿命を延ばしたような近代的な道具しか買えなかったのである。そこに生じた事態は(嘗て1950年代の我が国の製紙産業と同様かも知れないが)内需不足を補うべく全世界に向けて輸出に励まねばならないことだった。新興国の製品は質も高く、価格は経済的だった。

しかも、最新鋭というか近代化された設備では大量の人員は不用で、その諸国の低労働コストは余り助けにならなかったかだけではなく、大規模な雇用を促進しなかったのだった。その過剰というか300ヤードドライバーから放たれたボールは全世界に向かって飛び、それでなくてもインターネットにおされて減退する印刷用紙の需要に苛まれている先進国市場を揺さぶったのだった。

アメリカ等では新聞がインターネットの進化と成長に伴って年率にして二桁で衰退し、印刷用紙の需要も1999年から毎年3%も減少してしまった。妙な理屈かも知れないが、アメリカでも我が国でも市場には衰退した生産能力に見合った内需があったのだが、そこに最も近代的な品質で経済的な価格で生産できる新興勢力の格好の市場になってしまうほど、国産品が比較において高値だったのだ。

私はそういう状態が紙パ産業だけだったかどうかは、寡聞にして知らない。だが、業種によっては製造業界は苦しんでいたと思う。製造者は「もっと雨降りが酷くなった事態に備えて、懸命に内部留保をしてきた」かも知れない。だが、屡々指摘されるようにその留保を崩して設備に投資すれば、もしかして300ヤードどころか400ヤードも飛んでしまうようなアイアンが買えてしまうかも知れないのだ。私は「それほど飛ばした場合にその能力に見合う需要が追いついてくれるかは大いに疑問ではないか」と、恐れている。しかも近代的設備は人員も合理化してしまう。

「もし設備投資をして合理化された人員の救済策を考えるのは誰の仕事だろう」などと考えると、夜も寝られなくなる経営者が出てきはしないか。ここで敢えて指摘せねばならないことは「設備拡張」と「設備の合理化ないしは近代化」は別なことで、我が国もアメリカも特に近代化の遅れは顕著である点も問題にされるべきなのだ。その陰には、後難を恐れて言えば「経営者の質の劣化もある」との説もあるし、私もそうかと考えている。今後はこの事態の下で、内部留保を投資に回す経営者がどれだけ出てくるかを見守っていきたい。