新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

帰宅難民に思う

2021-10-09 08:42:48 | コラム
帰宅困難な状態の対策は立てられていなかった:

*会社に対する忠誠心の悪用では:
何も7日夜に東京都内を襲った地震の時のことだけではないが、一般論として何かの事故で公共交通機関が機能不全に陥った際の対策は官・民を問わず、3.11の辛い経験がありながら全く何も為されていなかったことが、悲しいほど明らかになった。何故このようなことになるのだろうかと、私は私独自の視点から考えてみた。

先ず思い浮かんだことは「我が国の会社員というか何らかの組織に勤務しておられる方々の世界にも希な、企業というか雇用主に対する本当に忠実で真面目な忠誠心がある」という点だ。これは「我が国民の生真面目であり倫理的且つ道徳的に会社という組織乃至は雇用主の為に働こう、そこに定められた規定または規則を遵守すべきであるとの美徳というか精神の発露である」と長い年月外側から我が国の企業社会を観察してきて、アメリカの企業とそこに働いている者たちとを比較して痛感したことである。

アメリカの初来日した中小企業の社長さんを、朝の通勤ラッシュの駅に案内したことがあった。そこで乗り換えの駅を目指して疾走する人たちを見学して「何故皆であのように走るのか」と不思議がられた。そこで「我が国には遅刻制度があり、出勤時刻である9時の遅れると罰則まで設けてある会社もある。故に遅れまいと皆が懸命に疾走するのだ」と説明した。だが、会社に対する忠誠心と規則遵守の精神という点は省略した。社長さんは大いに感動して「それは良い制度だ。早速我が社にも取り入れを検討しよう」と語った。アメリカには遅刻という制度はないのだ。

敢えて解説しておくと「アメリカでは最近言われるような『Job型の雇用』があるので、即戦力として雇われた中途採用の精鋭は仕事の進捗状況次第で出勤し、外出し、出張し、在宅勤務(としておく)をするので、会社には一応拘束時間が設定されていても、それに従おうとは考えていないのである。W社では朝6時に出てくる者たちの為にカフェテリア(社員食堂)はその時刻から朝食を用意していた。その日の予定が終われば、午後2時でも3時でも帰ってしまう者もいた。年俸制の世界にはそもそも残業手当など発生しないのだった。

私は何もアメリカの「ジャブ型」を真似ろとまで言う気はないが、何時まで経っても「遅刻制度」や「残業手当」などに執着している必要があるのだろうかと思っている。朝の9時に全員が集まって一斉に業務を開始することに、どれほどの効率があるのかではなく、社員を「遅刻」などと言う規則で拘束する時代ではないのかなと思っている。彼らは「チャンと9時までに来い」と束縛しなくても、アメリカ人とは違うのだから、間違いなく決められた時間帯に合わせて出退勤すると思うよ。

帰宅困難対策:
会社側というか雇用主が「遅刻」で縛るのならば「大・中・小の災害が発生して公共交通機関が動かなくなることを想定して(3.11時の経験を踏まえて)社屋さえ無事であれば「社内に一泊でも止まれるような設備を設けたらどうか」と言いたいのだ。社内がそんなに広くないし、寝る場所も取れないと言いそうだ。それでも無事だった社屋内に止まっていられれば、タクシーを追って彷徨い歩くか、何とか喫茶に入るよりも勝手知ったる社内の方が安全だろう。何なら、人数分の寝袋でも用意しておけば良いじゃないか、何としても翌朝全員を揃えたいのならば。

但し、帰宅途中の者たちを呼び戻す手段も考えておかねばなるまい。また、3.11の経験では地震が終わって表通りに出たときには、既に携帯電話は通じない地帯が出ていた。あれから10年も経ったスマートフォンの時代に会社側は全員の携帯電話の番号を確保してあるのだろうか、連絡網は整備されているのだろうか。マスコミ如きに「脆弱だ」と批判されないように「社員の福祉というか安全を保障する態勢を整えておくべき」ではないのだろうか。社員の忠誠心にタダ乗りするような雇用主には退場して貰いたい時代ではないのか。