新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

America Inside

2023-07-06 08:07:27 | コラム
内側に入って見る事ができたアメリカ:

「マスメデイアは取り上げず、報じようとしなかったアメリカ」としても良かったかも知れない。彼らと共に仕事をして、彼らと寝食を共にしていたからこそ知り得た、アメリカのインサイドを取り上げてみようと思った。「何だ、そんな程度の話か」か「へー、そんな事とは考えていなかった」の何れかで受け止めて頂ければ幸いだと思う。

日本が恐ろしかっただけの事:
1980年代に入っていたと思う。世界最大級の印刷会社T社にある技術的な問題での説明を依頼されて、その分野を専門にしている工場の研究員にプリゼンテーションをして貰うことにした。そこで、彼にとっては初めての海外であり大仕事となる大任を背負って東京にやってきた。本部のマネージャーが指導者兼介添え役で付き添ってきた。

当日の午前中にあらためて最終的なリハーサルを帝国ホテルの会議室を借りて、私も立ち会って開始した。ところが、肝心の研究員はどうしたことがオドオドしていたし舌が回らないので、何を言っているか解らない状態。マネージャーに「彼はどうかしたのか」と、その場を離れて尋ねてみた。説明が余りにも意外で驚かされた。

「彼は極限まで緊張している。それは生まれて初めての海外出張であり、成長著しい経済大国に発展した日本に来て、しかも世界最大級の印刷会社の技術者にプリゼンテーションをするとあっては、大袈裟に言えば人事不省に近い状態。これは何も彼に限ったことではなく、多くのアメリカの会社員たちは滅多なことでは海外出張の機会がないので、その点だけを捉えても上がってしまうのだ。要するに、大多数のアメリカ人は外国に慣れていないという事」だった。

その場に居合わせた全員で何とか彼を緊張から解きほぐそうと勇気づけ、励まし、落ち着かせて、何とか午後からの晴れの舞台ではトチる事もなく、無事に立派に説明会を乗り切って大いに感謝された。要点は「アメリカには国際人はごく希にしか存在していない」ということであり「多くの人たちは生涯自分が生まれ育った州から出る機会がないと思っていて誤りではない」ということ。事実、この研究員には最初で最後の海外出張だった。

アメリカ人の家庭での食事:
日本で想像しているかも知れないような、豪華な物を食べている訳ではないのだ。長年の親友であるS社の役付役員だったK氏はアメリカ駐在が長かった。彼が一時帰国したときに語り合った話題が、このアメリカ人の家庭での質素な食事だった。彼の部下に奥方が旅行に出かけたときに「子供さんたちを含めて夕食はどうしているか」と心配して尋ねたそうだ。

答えは「簡単なこと。ハンバーガーかhot dog(「ホットドッグ」ではなくて「ハトダグ」に近く聞こえる)のどれかを選んで食べさせれば良いだけのこと」であって、寧ろ呆気にとられたそうだった。実は、私もこれを実体験していた。それは、本部一の富豪のマネージャー宅で実際に見た。彼はCoca Colaの創業者の一族で夫婦共にMBA、息子さんはハーバードのMBA、娘さんはUCバークレー校のPh.D.という超インテリ一家。

この夫婦と夕食会となって、自宅に当時は中学生だった2人を残して外出した。その時にキッチンを通過して出かけたのだった。そこでは、2人がテーブルでハンバーガーを食べているところだった。「なるほど。この家族でも子供たちには、この程度の食事をあてがって外食に出かけるのか」と、K氏の言う通りだったと解った次第。

長年のアメリカの会社勤めの間に多くの家庭に夕食に呼ばれたが、店屋物を取ることなどなく、何時も彼らが普通に食べている、どちらかと言えば「質素な」食事が殆どだった。大体からして、彼らの台所には我が国のような大きな俎板はなく、多くの種類の包丁など用意されていない。客を呼んでも「チン」しただけの料理が出てくることも珍しくない。

貴方から代金は貰えません:
1990年代に入ってからのことだった。本部に交渉に来られた大手の得意先の担当部長を、シアトル市内での買い物のお世話したときのことだった。部長さんはアメリカ製を買う方が縫製もしっかりしているという事で、B社の奥方用のかの有名なるトレンチコートを買う予定だった。無事にコートを買われた後で、気に入ったご本人用のスーツを発見されて、サイズもピッタリだったので両方併せて合わせて大きな買い物になったが、それでも日本で買うよりも、為替レートも手伝った遙かに経済的だった。

その買い物の案内役と通訳も務める形となった私も、気に入ったネクタイを見つけたので「これを買うよ」と馴染みの店長に告げてカードを出したところ「貴方からは代金など貰えない」と言ってそのまま箱に入れて渡そうとされた。「そんな訳には行くまい」と何度か申し入れたが、店長の主張は変わらず貰うことになってしまった。

実は、こうなることは承知していたが、それが私に適用されるとまでは考えていなかった。ご存じの方はおられるかと思うが、(多分)旅行業界に適用されることで、団体客を案内してきたガイド(か添乗員)には売り上げの中から手数料を渡す取り決めがあるようなのだ。上記の例では私はガイドでないと店長は承知していたにも拘わらず、ガイドと同じ事をしてくれたという事になる。

尤も、アメリカの小売店では販売員たちは殆どか個人事業主であり、自分の売上高の中から販売促進費を捻出して景品等をこれと思う固定客(言葉の誤用では「リピーター」だが)になりそうな人に提供しているのだ。であるから、我が家にはシアトルのデパートで貰ったAramis(男性化粧品を買ったので)の傘が1度も雨に濡れたことも無く数本飾ってある。

未だ未だ、他にも取り上げて見たい話題があるが、別の機会にしよう。