新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

今さらながら「アメリカの会社論」を

2023-07-24 07:47:35 | コラム
紙パルプ産業界だけに限られた議論か:

今日までに何度も何度も「アメリカの企業社会」と「我が国との比較」を論じて、我が国との相違点も紹介してきた。もう10年ほど前のことだったか、このアメリカの会社論を纏めて、ある経済誌の出版社に提出したことがあった。だが、デスクにアッサリと却下された。理由は「これは紙パルプ産業界のみの事情ではないのか」と「この書き手は無名である」だったとか。

当方が無名かどうかは別にして「紙パ産業界のこと」と決めつけるのは、アメリカをご存じではないと言っているのと同じだと思った。ご存じであるかないとも言えるが、得意とする文化比較論から言えば、雇用の流動性が我が国とは異なっていて非常に高いという(中途採用の世界だという)認識が不足ではないかと思った。

私は19年間ウエアーハウザーから動かないでいたが、その前には同じ紙パルプ産業界のMeadに2年半在籍していた。ウエアーハウザーのその19年間に上下左右を見回して何人がより良い条件の先に移り、自己都合か馘首で去って行き、何人が他業種から新規に採用されていたかということ。言うまでもないが、四大の新卒者の採用はない。

副社長は別組織である地方の工場の現地採用の経理係からの転職者、今でも親しい本部のマネージャーだった人は、東海岸の食品関連の会社から、技術サービスマネージャーは原子力関連の会社から移ってきていた。カストマーサービスのマネージャーの女性は派遣会社か来ていて転職したのだし、副社長秘書は一旦女優業に転出した後で復帰したという具合で、悪く言えば異業種からの転入者の混合体だった。

そういう構成になっているから「君はここに来るまで何処の会社にいて、何の仕事をしていたか」と尋ねるのは失礼でも何でもない世界だった。これだけのことではなく、ビジネススクールの受験資格を考えてみればより解りやすいと思う。今では「実務の経験を4年かそれ以上積んでくること」となっている。長年の知り合いのIntelの精鋭は四大を卒業してから、銀行、証券会社、調査会社を経験していたが、これは彼らの世界ではごく普通のこと。

要するに、経営の幹部か管理職に選ばれる者たちにはMBAが多いこともあるが、色々な業種を経験しているのだ。このような異業種を経験した者たちが集まってその事業部を運営しているのであり、経営を担当する副社長級に上がっていくのだ。であるから「それは紙パルプ産業界に限られた現象である」というのは正確な批判ではないと断言できる。

極端な例と言えるかもしれないことを挙げれば「ウエアーハウザーの9代目にしてファミリー以外からの最初のCEOだったクレイトン氏は、最も小さい部門だった不動産会社の長から紙パルプ林産物会社のCEOに抜擢された後で、United AirlinesのCEOに転出していた」のだ。これだけも三つの異業種を経営していたことになるではないか。私は偶々紙パルプ産業界の中で2回転職していたに過ぎない。

このような仕組みになっているアメリカの会社組織を、我が国の会社と同じだとは考えない方が良いだろうと思う。そう思っているから、我が国に「job型雇用」などを深い慮り無しに導入するのは、如何なものかというのだ。