今年の2月末、カリフォルニアワイン協会(California Wine Institute、略称CWI)の主催で試飲会「カリフォルニアワインAliveテイスティング2023」とセミナーが開催され、参加してきました。
ここ3年のコロナ禍においては、試飲会は時間制限と人数制限があり、海外のワイン生産者も来日できず、セミナーもオンラインで、という形式でしたが、カリフォルニアワインAliveテイスティング2023では人数&時間制限がなくなり、生産者も多数来日し、セミナーも生産者を迎えての対面式。
試飲会場も賑わい、コロナ以前に戻ったような様相でした。
場合によってマスク着用を求められる状況はあるかもしれませんが、この春以降のワイン試飲会は、ほぼほぼ以前のように戻りそうです。
「カリフォルニアワインAliveテイスティング2023」に話を戻しましょう。
CWIでは、2020年からその年のテーマ産地にフォーカスしてセミナーやキャンペーンを行なってきました。
4回目となる2023年のテーマ産地は、「AVAウエスト・ソノマ・コースト」
今回の「カリフォルニアワインAliveテイスティング2023」では、ブドウ栽培家&ワイナリーで構成される団体「ウエスト・ソノマ・コースト・ヴィントナーズ」に所属する9ワイナリーから生産者が来日し、東京と大阪でセミナーを開催し、試飲会では特別コーナーが作られ、紹介されました。
ウエスト・ソノマ・コースト West Sonoma Coast AVAはソノマ・カウンティの最西部に位置するAVA(アメリカ政府公認葡萄栽培地域)で、アメリカで最も新しいAVA(2022年5月に承認)のひとつです。
似たようなAVA名があるので、なかなか覚えにくいですが、上のマップの右下の「Sonoma Coast AVA」をまず目印にして、その西側に位置するから、西のソノマ・コースト=ウエスト・ソノマ・コースト、と覚えるのがわかりやすいでしょうか。
元々のAVAソノマ・コーストはソノマ・カンウティの中で最も広いAVAで、サンパブロ湾に面したところから内陸に入り、太平洋に出てからは海岸線に沿って北に広がっています。
内陸部から太平洋沿岸と変化に富む地域で、内陸部と太平洋沿岸エリアでは地形も気候もかなり違うことが明白です。
ということから、
「沿岸エリアを本当のソノマ・コーストと呼びたい」と声を挙げた生産者が出てきました。
それが、ウエスト・ソノマ・コースト・ヴィントナーズ代表のテッド・レモンさん(Littorai Wines)たちです。
活動は1990年から始まり、2015年にAVA申請、2022年5月にAVAウエスト・ソノマ・コーストが承認されました(栽培面積は480ha)。
セミナーでは、まずテッド・レモンさんがAVAウエスト・ソノマ・コーストの概要を説明しました。
テッド・レモンさん(Littorai Wines)
ウエスト・ソノマ・コーストは、太平洋に面した海洋性気候です。
太平洋の海水温は年間通して11℃と低く、海面から300mくらいの高さまで冷気の層が存在します。
海からは霧が発生し、午後からの風で沿岸部に冷たく湿った空気が流れ込み、夜は霧のせいで湿度が高くなり、1日のうち8時間は湿度100%!
霧には冷却効果があります。
AVAウエスト・ソノマ・コーストは冷涼な海洋性気候
降雨については、11月から4月の5カ月に集中して降り(東京の降雨量の約1.2倍)、ブドウの成長期にはほぼ降りません。
冬は乾燥します。
海洋性気候といっても、日中の気温が上がり海水温が高くなる産地が多いですが(地中海地域など)、ウエスト・ソノマ・コーストは年間を通して海水温が低く、夏の昼間においても冷却効果があるため、「冷涼な海洋性気候」となります。
日中に気温が高くなりすぎないことで、糖の蓄積と呼吸代謝がゆっくりになり、ハングタイム(ブドウの房が枝に付いている期間の長さ)が長くなります。
ハングタイムが長くなると、フェノール類が発達して風味や着色が濃くなり、タンニンの質が細かくなります。
冷涼気候で育ったブドウはバランスの取れた成熟をするので、アルコールが高すぎず、明るい酸を持つピュアでエレガントなワインができ、それがまさにウエスト・ソノマ・コーストのワインの特徴となります。
AVAウエスト・ソノマ・コーストを特徴づける要因のひとつに「レッドウッドの森」がある、と紹介してくれたのは、キャロル・ケンプさん(Alma Fria Winery)。
キャロル・ケンプさん(Alma Fria Winery)
ウエスト・ソノマ・コーストは、コースタル・レッドウッドと呼ばれる木が現存する世界でも数少ない場所のひとつだそうで、海岸沿いにレッドウッドが⽣き残るための特殊な条件が揃っているといいます。
根が密集していて、押し合って呼吸できないので、霧から吸収していきます。
夜の霧はレッドウッドの森に入り込み、木々の葉を濡らします。
木々のしずくは土壌へと染み込み、ほのかなフレーバー(タンジェリンオイルのようなニュアンス)となって現れる、というのです。
これらレッドウッドの森に囲まれているのが、AVAウエスト・ソノマ・コーストです。
興味深いのが、「アンドレアス断層」の存在です。
元々3つのプレートが重なっていた場所で、プレート同士が衝突しました。衝突は海の中で、太平洋プレートをこそげるようにゆっくり起こり、北米プレートの下に2つのプレートが入り込み、北米プレートが隆起して海岸山脈を形成し、3000万年前に「サンアンドレアス断層」が誕⽣しました。
サンアンドレアス断層は海岸と平⾏に⾛り、太平洋とブドウ畑の間に位置しています。
急峻で険しい海岸沿いの山々
沿岸北部と南部、西部と東部それぞれ地形が違い、土壌も異なります。
写真のような海岸沿いの急峻な崖、山々もあれば、谷もあり、東には火山があるようです。
土壌は見るからにさまざまで、母岩も、上に乗っかっている表土の種類も厚さもさまざま。
北部はゴロゴロした岩が砕けて堆積したミックス土壌、
南部は南層が動いてスリップし、粉々に砕けた砂地土壌、
東部は火山から飛んできた土壌が砂地の上に乗っかった火成岩土壌、などなど。
キャロルさんいわく、
「ワインの風味は土壌から直接来るのではない。
土壌によって、水はけの良し悪し、ミネラル分の存在、微生物の存在などが違う。
これら水と一緒に吸い上げられる要素が光合成によって風味となって現れる」
この地域の歴史について語ってくれたのは、クリストファー・L・ストリーターさん(Senses Wines)。
クリストファー・L・ストリーターさん(Senses Wines)
6000から1万年前には先住民(カシャ・ヤ・ポモ族)がいて、その後、開拓者が昔からやってきた土地なので、この地の人々はリスクを背負ってここに住む開拓者魂を引き継いでいる、といいます。
19世紀には、ラッコやアザラシの毛皮を求めてロシア人がアラスカ経由でやってきました。
1850年代のゴールドラッシュがあり。大陸横断鉄道ができ、酪農、果樹園が広がり、牧場経営…と、産業が広がっていきます。
ブドウ畑に変わっていく時代の始まりが、1970年代です。
1990年代には、理想的なワインづくりを求め、ソノマ・コーストの内陸部から西(現在のウエスト・ソノマ・コースト)に移動し、人里離れた丘陵、険しい土地にブドウ畑を作っていきました。
リスクある中、場所を見つけてブドウ畑を作ってきた、開拓者魂が引き継がれている、とクリストファーさんは言います。
こうしたことから、この場所こそが本当のソノマ・コーストだと声を上げ、AVAの申請をしたのが2015年、AVAウエスト・ソノマ・コーストとして承認されたのが2022年5月23日。
セミナー後半にはウエスト・ソノマ・コーストのワイン試飲があり、試飲会では来日した9のワイナリーが特設コーナーでそれぞれのワインを紹介しました。
長くなりましたので、ワインについては改めて【後編】で紹介したいと思います。
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