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木枯らしは思い出のあれこれを鳴らす

2011-01-07 22:39:55 | 編集手帳
  12月30日 読売新聞編集手帳


  電信柱の電線は眺めて美しい景観ではないが、この季節はそう目くじらを立てない。
  風が弦を弾くように鳴らす木枯らしの音を耳にすると、
  子供の昔にかえったようで、足をとめて聴き入ることがある。

  『赤い靴』や『七つの子』で知られる作曲家、本居長世(もとおりながよ)は語ったという。
  「道を歩いていると、電線が五線紙に見える」と。
  冬に限れば、音楽の門外漢である身にもその気持ちは分かる。

  年末年始、テレビには歌番組が多い。
  〈こりゃ誰だこの歌なんだ大みそか〉(サラリーマン川柳)
  とボヤくのも、正月休みならではだろう。

  ある忘年会の席で思い出の曲が話題になった。
  中学生のころに聴いたうろ覚えの歌を挙げたところ、
  いまは廃盤らしいその曲を収めたテープを友人が届けてくれた。
  北原早苗さんの歌う『少年』(詞・万里村ゆき子、曲・加藤和彦、1970年)という。
  ともだちの生きかた おんなのひとのにおい だれかのうわさや ふしぎな胸さわぎ…
  思春期の扉に立つ少年の、心の波立ちが静かに歌われている。

  胸のなかにも電線があるのか、懐かしい風に思い出のあれこれが鳴りやまずにいる。
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