11月9日付 読売新聞編集手帳
20年ほど前の新聞広告という。
〈落とし穴は、上にある〉。
オゾン層に出来た穴、
オゾンホールを指す。
日本実業出版社の『秀作ネーミング事典』によれば、
オゾン層を破壊するフロンの代替技術を開発したことを宣伝する広告で、
広告主はオリンパスである。
いまの目で読み返せば、
“上にある落とし穴”とは会社の上層部、
経営陣の良識が欠落してできた穴に思えなくもない。
オリンパスで、
10年以上にわたる巨額の損失隠しが明るみに出た。
歴代の取締役会は何をしていたのだろう。
監査法人は何をしていたのだろう。
消化器の内視鏡で世界一を誇る企業が、
自身の経営実態を映す内視鏡のスイッチをオフにして投資家をだましつづけた。
日本企業の信用はガタ落ちである。
社名はギリシャ神話の神々が住まう山オリンポスに由来する。
もとは高千穂光学工業と名乗っていたのを、
「日本の高千穂(高天が原)から世界のオリンポスへ」
の願いをこめて改名したとか。
財政が火の車の本国で手いっぱいのところへ、
愚かな経営陣に率いられて落とし穴にはまった会社が一つ――
主神ゼウスの憂い顔が目に浮かぶ。