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バクチの八害

2011-11-28 13:07:47 | 編集手帳



  11月24日付 読売新聞編集手帳


  安藤鶴夫の小説『三木助歳時記』(河出文庫)にバクチ必勝の心得に触れたくだりがある。
  ―― 一こころ、
  二物(にぶつ)、
  三上(さんじょう)、
  四(し)根(こん)、
  五力(ごりき)、
  六論(ろくろん)、
  七盗(しちとう)、
  八害(はちがい)。

  順に、
  負けてもいいさ、という心の余裕(一)、  
  豊富な軍資金(二)、
  上手であること(三)、
  集中力を切らせぬ根気(四)と、
  このあたりまではいいとして、
  次第に物騒になっていく。

  腕力(五)、
  口論で相手を苛立(いらだ)たせる(六)、
  周囲の目を盗んでのイカサマ(七)、
  最後は〈相手を切り殺して取るよりほかのことなし〉(八)と、
  むちゃを言う。
  必勝の教えとは表向きで、
  「こんな怖い世界に足を踏み入れなさんな」という戒めかも知れない。

  八害は八害でも、
  会社の信用を著しく害してしまったその人も、
  “怖い世界”を骨身に徹して知ったはずである。
  子会社の約106億円をカジノの負け金に充てた
  大王製紙の前会長(47)が特別背任の疑いで逮捕された。
  まじめに働く社員たちの生活が、
  自分の肩にかかっている。  
  イロハのイである経営者の「こころ」を、
  どこに置き忘れたか

  一こころ、
  二こころ、
  三こころ…経営の心得はバクチほど複雑ではない。
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働いた後 飯を食う喜び 

2011-11-28 10:52:31 | 編集手帳



  11月23日付 読売新聞編集手帳


  季節にちなんで、
  食欲を刺激してくれそうな詩を引く。
  といっても、
  うたわれているのは珍味佳肴(かこう)ではない。
  ご飯、
  それも冷や飯である。
  〈君は知つてゐるか
   全力で働いて頭の疲れたあとで飯を食ふ喜びを〉

  千家元麿の『飯』は、
  以下のようにつづく。
  〈赤ん坊が乳を呑(の)む時、涙ぐむやうに
   冷たい飯を頬張ると、
   余りのうまさに自(おのずか)ら笑ひが頬を崩し
   目に涙が浮かぶのを知つてゐるか…〉

  空腹と並んで、
  こころよい労働は最高の調味料といわれる。
  調味料の欠乏するなかで迎えた今年の「勤労感謝の日」である。

  来春に卒業を予定している大学生の就職内定率(10月1日現在)は59・9%と、
  過去2番目に低い数字という。
  働き盛りで職に就けないことも一因となって、
  生活保護の受給者数は過去最多を更新している。
  「復興」とともに「雇用」の二文字を、
  野田さんには忘れてほしくない。

  詩は結ばれている。
  〈全身で働いたあとで飯を食ふ喜び
   自分は心から感謝する〉。
  ごく当たり前の、
  もっとも身近にあるべき感謝の心をうたった詩句がこれほどまぶしく、
  うらやましく、
  映る世の中ではいけない。
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