12月8日 NHK海外ネットワーク
アフリカ東部のエチオピア。
アフリカでも貧しい国のひとつで干ばつによる食糧不足にたびたび襲われている。
この国で豊かな森がよみがえった地域がある。
南部にあるフンボ郡である。
2,700ヘクタール。
東京ドーム580個分に相当する森。
この森は80年代の大干ばつ以降急速に荒廃していった。
貧しい住民が生活の糧を得ようと無秩序に木を伐採していったためである。
森は自然のダム。
伐採の結果 洪水の被害が相次ぐようになり野生の動物も姿を消した。
住民たちは6年前から途上国を支援する国際的なNGOと協力し
森の再生に乗り出した。
(NGOの現地担当者)
「長期にわたって持続可能な仕組みが必要です。
そのためにはコストがかかる。」
再生にかかる資金を呼び込むために頼ったのが
京都議定書で定められた排出量取引制度。
この制度は今後 削減できる二酸化炭素の量
つまり将来の可能性に注目している。
フンボ郡では順調に森林が回復すれば
10年間で33万8,000トンの二酸化炭素を削減できると予測している。
期待されるこの削減量が排出枠というかたちで先進国側に売却できるのである。
最終的な先進国側の投資は1億円超の見通しである。
集まった資金を使って住民たちは植林を始めた。
陽の光が入るように枝打ちも繰り返し行った。
木々の間からヒヒの姿も確認。
姿を消した野生動物が戻ってきた。
木を伐採して収入を得ていた住民には
養蜂やミシンの使い方などの職業訓練も行われた。
森に花が増えてハチミツの生産量も伸びている。
(住民)
「花が増えてミツバチも喜んでいるでしょうし私たちも恩恵にあずかっている。」
集落の周りに気が育つことで畑の土壌も良くなる循環が生まれ
トウモロコシの収穫量も増えた。
余ったトウモロコシを貯蔵する倉庫も建てた。
さらにトウモロコシを粉にするためにでは初めてとなる製粉所も作った。
1日がかりで遠くの町まで行って製粉する必要がなくなった。
豊かとはいえないまでも暮らしは良くなっている。
(住民)
「森が保護されて安定し
雨の恵みの得られるようになった。
排出量取引で利益が生まれ生活が改善されている。」
しかしフンボ郡での成功は幸運なケースである。
NGOは植林事業をほかの地域にも広げようとしているが思わぬ壁にぶつかっている。
排出枠の価格は取引が盛んなヨーロッパの市場に大きく左右される。
信用不安による景気の低迷などで需要が落ち込み
排出枠の価格はリーマンショック以前の20分の1にまで落ち込んでいる。
首都から北に200キロ アボテの集落。
ここでも無秩序な伐採で荒地が広がっている。
住民たちの願いは“森の再生”。
NGOの協力を得て2年前から森林再生に取り組んでいるが思うように進んでいない。
植林にも至っていないのである。
なぜ進まないのか。
200人の農家が集まった。
会場から上がったのは不満の声。
(住民)
「この計画を進めれば集落に金が入り荒地も変わると聞いていた。
それなのに期待した通りにはなっていない。」
アボテの事業は成功したフンボ郡に比べると4年遅れのスタートだった。
その4年の間に世界の経済状態が大きく変わったのである。
説明会に参加していたジャルメン・バカレさんの
畑のすぐ隣の斜面にあった森がなくなったことで
雨のたびに石やがれきが押し流されてくるようになった。
畑の表土も押し流され穀物の収穫も年々減っている。
(ジャルメン・バカレさん)
「このままではここで暮らせなくなる。
できるかぎりのことをしないと。」
(NGOの現地担当者)
「排出枠の価格が今の状況だと長期のプロジェクトを進めることは難しくなる。」
各国のの利害が絡んで温暖化対策は進んでいない。
その間にも地球の環境は悪化の一方である。