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人通り

2020-08-03 07:00:00 | 編集手帳

7月10日 読売新聞「編集手帳」


きのう用事があって、
東京郊外のターミナル駅の地下を歩いた。
ふと、
ギターのメロディーに乗った若い女性の歌声が響いてきた。

そばに寄るのは高齢の女性が一人だけ。
だが歌唱力と澄んだ声に引きつけられるのか、
足を止めて遠巻きに聴き入る人たちも何人かいた。
コロナ禍がなければ、
歌いがいがあるほどに観衆を集められたことだろう。

ライブなどの開催がままならず音楽家には苦しい時世だが、
プロの手前にいる人たちもはかない思いをしているらしい。
かつての“密”な人通りは意外なほど、
人生のチャンスや活力を社会に与えていたのかもしれない。

観光名所の商店街が一見(いちげん)の客に頼っていたのもしかりだろう。
遊びに来た人がふと足を止め、
混雑を気にせず店に入ってきたり…と。
やはり人通りが“健康体”にならなければ、
以前の元気や平穏は取りもどせそうにない。
古い川柳にのんきな一句があったのを思い出す。
<さまざまな人が通つて日が暮れる>(武玉川)

東京の日ごとの感染者が過去最多の224人にのぼった。
検査の網を広げたためらしいが、
動揺を抑えつつ、
戻りたい街の景色を思う。

 

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