7月28日 読売新聞「編集手帳」
歌舞伎から着想したフェースペイントに、
連獅子の赤い頭からヒントを得たオレンジ色の髪…
1970年代、
ロック界の異端児と呼ばれたデビッド・ボウイの衣装は今に至っても前衛の輝きを放つ。
日本の婆娑羅(ばさら)的な美を織り込んだマントには「出火吐暴威」の文字があった。
デザインしたのはファッション界の異端、
山本寛斎さんである。
4年前にボウイが亡くなった時、
寛斎さんは不思議そうに当時を振り返った。
「彼と何語で話していたか思い出せないんだ」。
同志に言葉はいらなかったのだろうが、
これも明るく人なつっこい寛斎さんのなせるわざかもしれない。
「ファッションは世界を幸せにする」との信念を熱く語ってきた寛斎さんが76歳で亡くなった。
数年前、
たまたま通りかかった美術館で開催していた服飾イベントの看板を思い出す。
「元気とLOVEを浴びてくれ!!」
実父の放蕩(ほうとう)で苦労した経験から家族を大切にし、
他者への思いやりも忘れない人だった。
コロナ禍に心を痛め、
白血病に苦しみながらもオンラインの「元気」イベントに参加意欲を見せていたという。
温かな人柄がしのばれる。