8月4日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
新型コロナウィルスの影響など厳しい状況が続いている韓国。
その一方で
ソウルを中心とする首都圏では
住宅が不足していることに加え投機的な売買も行われ
近年 不動産価格が急激に上がり
大きな社会問題となっている。
韓国の人口の半数 約2,500万人が暮らすソウル首都圏。
今その不動産の高騰が大きな問題となっている。
ソウルのマンションの平均価格は
5年前 日本円にして約4,500万円だったが
その後値上がりが続き
今年は8,500万円に。
去年と比べても1,000万円以上の値上がりとなっているのである。
住宅価格は一般の人の手の届かない異常な水準まで上がっていると
不動産業者は指摘する。
(ソウルの不動産会社)
「今の不動産価格の状況だと
一般的な会社員が一生働いても
家を買うことはソウル近郊でさえもほとんど不可能です。」
人口が集中し慢性的に住宅が不足している首都圏。
価格高騰に拍車をかけているのが過熱気味の不動産投資である。
低金利政策が続くなか
富裕層の中で不動産が投資先として人気となっている。
さらに「チョンセ」という韓国独特の仕組みも値上がりに影響を与えている。
所有する住宅を別の人に貸す際
毎月家賃をもらう代わりに
マンション価格の5~7割程度を一括で受け取るというものである。
これを資金にさらに別のマンションを購入し財産を増やしていく投機的な動きが出てきているというのである。
(ミョンジ大学 デジュン教授)
「多くの資金流入で投資が増える一方で
住宅不足なので
価格上昇が続くのです。」
不動産価格の高騰は韓国の社会問題にもつながっている。
今年大ヒットしてアカデミー賞映画「パラサイト 半地下の家族」。
貧しい一家が裕福な一家に入り込んでいく姿を通じて韓国の格差が描かれた。
その象徴となっていたのが
半地下の住宅と高台の豪邸という
住む場所の大きな違いだった。
貿易会社で働くチョンさん(33)。
社会人になって8年目になるが現在もソウル郊外で両親と住んでいる。
不動産の高騰で首都圏に家を買うどころか借りることもできないという。
(貿易会社に勤務 チョンさん)
「30代半ばなので
もう独立することを考える必要がありますが
不動産が高いので
いまだに両親と同居しなければなりません。」
生活の基盤を作ることもままならず
将来の見通しが立たないというチョンさん。
不動産の高騰は若い世代に重くのしかかり
希望まで奪いつつある。
(貿易会社に勤務 チョンさん)
「人生設計で不動産問題は影響が大きく
家を諦めている人もいます。
住宅の値段が下がって
平凡な30代の会社員の私が
マイホームを買えるようになればいいのですが。」
こうした状況にムン・ジェイン大統領は危機感を強めている。
7月 国会で行なった演説でも
不動産対策に力を入れると強調した。
(韓国 ムン・ジェイン大統領)
「今の最重要課題は不動産対策だ。
政府は投資の抑制や価格の安定のためあらゆる手段を講じる。」
ムン政権は住宅を購入後速やかに入居することを義務付けるなどして
“投資のための売買を抑制する”と発表。
さらに
不動産に関わる税金を引き上げることで住宅の投機熱を冷まそうとしている。
しかしこれに住宅の所有者や投資家らが反発。
今では毎週末のように抗議集会が開かれ
“借りる側も貸す側も国民だ”などと声をあげ
ムン大統領を厳しく批判している。
(住宅所有者)
「維持費も財産税もかかるのにさらに税金が増えたら
私たち年寄りはどうしたらいいの。」
「我々に対してあまりにも不当で腹が立ったので
大統領を批判しに来ました。」
深刻化する不動産価格の高騰。
しかし不動産の専門家は
今の状況を改善するのは容易ではないと指摘している。
(ミョンジ大学 デジュン教授)
「住宅を持たない人は価格の上昇に
所有者は負担が増えることに不満です。
価格が上昇し流動資金も多いので
政策による市場の安定化は難しいでしょう。」
ムン・ジェイン政権にとって最大の課題と言っても過言ではない状況である。
ムン大統領の支持率は
新型コロナウィルスへの対応が評価され
今年5月初めには70%を超えていた。
しかし7月31日に発表された世論調査では
支持する人が44%
支持しない人が45%と
支持しない人が上回っている。
支持しない理由としては不動産政策が30%と最も多くなっている。
不動産価格の上昇は文政権で始まったわけではない。
ただ文大統領は庶民派をアピールし支持層である若い世代を意識して
不動産問題に取り組む姿勢を強調してきた。
実際ムン政権はこれまでに20以上の対策を講じてきたが
不動産価格は約50%上がり
パク・クネ政権の時よりも上昇しているのである。
庶民にとっては住宅に手がますます届きにくくなる一方で
大統領府や政府の関係者の中には複数のマンションを所有し
不動産価格の上昇によって利益を得ていたとの指摘も出ていて
批判が強まる要因となっている。
8月にムン政権が新たな不動産対策を打ち出すとメディアは伝えている。
今回は建築制限を緩和して大きなマンションを建てられるようにするなどして
住宅の供給量を増やすことを狙うものとみられている。
また国会や大統領府など首都の一部を別の場所に移すといった議論まで出ている。
今年4月の総選挙でムン大統領支える与党が大勝したことから
国会とも協力し必要な法整備を推し進めるなどして
不動産問題に力を入れていくものとみられる。
新型コロナウィルスの影響で韓国でも景気の先行きへの不透明感が高まっている。
残す任期が2年を切った文大統領にとって
国民の生活に直結する住宅政策でいかに成果を上げることができるのか。
“庶民派”をうたう政権への真価が問われることになりそうである。