7月16日 読売新聞「編集手帳」
歌に思い出が寄り添い、
思い出に歌は語りかけ…
NHKアナウンサーとしてラジオ歌番組の名調子で知られた中西龍さんは高校野球の実況でも伝説を残している。
「お母さん、
あなたの息子さんがバッターボックスに立ってますよ」。
鹿児島放送局の駆け出し時代、
マイクに向かって呼びかけたという。
お母さんほどの近親者ではなくとも、
選手を身近に感じられるのが地方大会の良さだろう。
豪雨の被災地・大分で県大会が開幕した。
「最後の一球まであきらめず全力でプレーします」。
選手宣誓したのは、
日田林工の左藤優弥主将である。
そう、
あきらめない全力プレーほど、
災害の爪痕に苦しむ日田市の人たちを勇気づけるものはないだろう。
最も甚大な被害を受けた熊本の大会は、
降り続く雨に延期を繰り返している。
きょう開幕予定だが天候は落ち着いてくれるだろうか。
毎夏、
近所の高校や母校の試合を心待ちにしてきた方は少なくないに違いない。
コロナ禍で一度はなくなった地方大会がすこしでも被災地を明るくするなら、
開催復活の意義はより大きくなる。
空に響く球音が再起の合図となることを。