2021年3月11日 NHKBS1「国際報道2021」
東日本大震災の発生から10年。
震災からの復興の教訓はいまインドネシアで生かされている。
インドネシアのスラウェシ島では
2018年に起きた地震と津波で大きな被害を受け
4,000人以上が犠牲になった。
復興が進みつつあるなかで尊重されているのは住民たちの声だった。
インドネシアの中部スラウェシ州の州都パル。
一昨年から高台などに地震で被災した人たち向けの住宅が建設され復興が進みつつある。
(被災者)
「1月に移ってきました。
住み心地は良いです。」
2018年9月
スラウェシ島を襲ったマグニチュード7.5の地震。
津波に加え広範囲で起きた液状化によって建物などが土砂に埋まり
4,000人以上が犠牲になるなど
甚大な被害が出た。
復興にあたりインドネシア政府が国際社会で唯一支援を要請したのが日本だった。
日本が現地で力を入れてきたのが
東日本大震災の被災地と同じ手法を使ったインフラの復興である。
その1つが堤防の機能を兼ねた かさ上げ道路の建設である。
パルでも沿岸の道路を今後2~3mかさ上げする予定で
インドネシアでは初めての試みだと言われている。
当初から復興に携わってきた JICAインドネシア事務所の高樋さん。
復興計画の中で重要視してきたのが住民の安全な場所への移転だった。
移転の対象地域となる津波や液状化のリスクの高いエリアをどこまで設定するか。
日本の専門家や技術者が調査団を組み
地形データなどを基に細かく調べた。
当初インドネシアからは沿岸部の広範囲を居住禁止区域とする案が示された。
これに対し日本側は
調査結果を基に禁止区域をもっと狭められると提言した。
日本が支援する復興計画のもとになっているのが
より良い復興(Build Back Better)という考え方である。
住民たちの意向を最大限に尊重しながら
災害に強い街や社会を目指す。
(JICAインドネシア事務さん)
「ビルド・バック・ベターとは
災害発生の際に前の状況に直しただけでは同じような災害を防ぐことができない。
最も注意した点は復興計画が地元住民に受け入れられるものであること。
その点に留意して協力した。」
移転をめぐり課題となっているのが住民の意向である。
居住禁止区域からの移転を拒む住民に意義を理解してもらえないのである。
パルでは移転の対象となっているのは約6,600人だが
漁業者を中心に“海から離れたくない”という人が少なくない。
(居住禁止区域に住む男性)
「家族が漁師で
この辺で仕事をしているので移転したくない。
海から遠すぎる。」
パルの市役所で復興事業を担当するムンジールさん。
移転を拒む人の対応に頭を悩ませている。
(パル市 復興担当職員 ムンジールさん)
「安全な場所に移ろうとする人が少ないことが課題だ。
移転を拒めば再び悲劇に見舞われてしまうかもしれないのに。」
こうしたなか
パルに支援の手を差し伸べたのが岩手県釜石市だった。
2年ほど前からJICAを通じパルの復興計画への助言を求められてきた。
釜石市で復興事業を担う金野さん。
釜石では住民の意見を尊重しながら高台移転を進めてきた。
市が開いた説明会はこれまで実に178回。
地域を声を1つ1つ丁寧に拾い上げ議論を積み重ねてきた。
(釜石市 復興推進本部 金野副主幹)
「意見や質問を頂戴してそれを計画に反映させる。
それを繰り返し行ってきた結果
今のまちづくりにつながっている。」
その経験を参考にしてもらおうと
金野さんは2019年インドネシアを訪問しノウハウを伝えた。
住民説明会の回数を伝えると
関係者からは驚きの声が上がったという。
その後 今度はムンジールさんが釜石市を訪れた。
そのときムンジールさんは
粘り強く話し合いを重ねることの大切さを学んだという。
(パル市 復興担当職員 ムンジールさん)
「合意形成は1回や2回の会合では構築できず繰り返しやらなければならない。
日本ではそれを実行していた。」
今年1月
ムンシールさんはオンラインセミナーで
金野さんに住民たちとの対話が思うようにできていない現状を打ち明けた。
(ムンジールさん)
「住民との対話を何回やっても関心がない。
住民に意欲を持ってもらうためにどうしたらいいのか。」
これに対し金野さんは
住民たちが参加しやすい説明会の進め方をアドバイスした。
(釜石市職員 金野さん)
「説明は長くしない。
必ず1時間以内で
その後は1時間程度 住民の意見を聞く場を。
遠い先を見据え
ゆっくりでもいいから歩みを止めないことが重要。」
この日 ムンジールさんは移転を拒否する住民を訪ねた。
(ムンジールさん)
「ここは危ないところなのになぜ住み続けたいの?」
(住民)
「次に災害が起きるのは何百年も先だよ。」
「今の家と土地を手放したくない。
移転先に行くのが不安。」
この夫婦は津波への警戒感の低さと自宅を没収されるのではないかという不安から
移転を拒んでいた。
(ムンジールさん)
「パルは100年で3回も津波が来ている。
危険な地域に住んでいるなら安全な地域に移った方がいい。
新しい家に移ったからといってこの自宅が没収されるわけではない。」
ムンジールさんは
釜石市のようにこれからも粘り強く説明を続けたいと考えている。
大きな災害に襲われてきた日本とインドネシア。
経験を共有しながら
“より良い復興”という共通の目標に向かって連携を深めている。
(パル市 復興担当職員 ムンジール)
「元に戻す=Build Back ステージから
より良くする=Better に移りつつある。
私たちは build Back Better を成し遂げなければならない。
災害はいつ起きてもおかしくない。
犠牲者や財産への被害を最小限に食い止めるのは人間の責任だ。」