2021年3月25日 読売新聞「編集手帳」
花粉が飛んでいなければ春風は心地よい。
天気のいい朝に、
新美南吉の詩「窓」を浮かべることがある。
<窓をあければ
風がくる、
風がくる
光った風がふいてくる…>
窓は生活の内側から、
使うものだろう。
外側から使われては、
ちょっと困ったことになる。
知らない人が外に立って、
日々の暮らしをのぞかれていたなら…。
ぞっとする。
無料通信アプリLINE(ライン)を利用する人の情報が、
業務委託先の中国企業で閲覧可能になっていた。
国境をはるか越えた遠い場所に、
生活の窓がひそかに存在したことに驚く。
しかも、
政府が企業に情報提供を強制できる国にポカッと開いていた。
問題があっても日本の法がおよばず、
情報を守りにくい。
欧州連合(EU)は個人情報の管理が十分でない国へのデータ移転に目を光らすという。
多くの人が、
安心して通信できる環境の遅れを痛感する昨今だろう。
第一生命「サラリーマン川柳」につぎの一句がある。
<父だけが
LINEのグループ 外されて>。
見知らぬ誰かにこっそりのぞかれるぐらいなら、
口うるさいお父さんのほうがかなりましなのでは。