2021年3月19日 NHK「おはよう日本」
震災で亡くなった方の身元の特定。
東日本大震災の際
所持品や体の特徴などで身元が特定できない場合に有効な手掛かりとなったのが
歯の治療記録。
しかし震災では多くの歯科医院が被災し
特定に必要なカルテが失われるという
データの保存をめぐる課題が浮かび上がった。
災害時に遺体の状況を確認する東北6県の警察による訓練。
身元の特定に備え
警察は発見場所や体の特徴・所持品の記録を作成。
そして歯科医師らが遺体の歯の状況を記録していく。
訓練に参加している法歯学者の熊谷さん。
東日本大震災の際は遺体安置所で歯の記録を残す作業に従事した。
(岩手歯科大学 熊谷准教授)
「どんなに死後変化が進んでも
歯の形態は変わることがありませんので
身元が分からない状態で見つかったご遺体の身元確認をするたは非常に有効。」
震災当時 岩手県内では9か月でのべ2,700人近い遺体の歯の状態を記録。
医療機関の診療記録と照合され
少なくとも131人の身元が特定された。
歯の記録が決め手となって家族を弔うことが出来たという花巻市の田中さん。
姉が震災で行方不明になった。
田中さんは震災の2日後からがれきが重なる町を歩いて姉を懸命に探した。
遺体安置所もくまなく探したものの姉を見つけることはできなかった。
(田中さん)
「とにかく探しましたね。
涙ばっかり出てくるんですよね。」
しかし震災から1年余後
身元不明の遺体から取られた歯の記録が
姉が通っていた医療機関のカルテの内容が一致。
身元が特定されたのである。
(田中さん)
「見つかる前はもうたぶん見つからないだろうと
たぶんもう海に行っていると思って。
よかった。
見つかってよかった。」
身元確認の最終手段となる歯による確認。
しかし震災では課題も浮き彫りになった。
岩手県の沿岸部では多くの歯科医院が被災。
身元の特定に必要なカルテの80%近くが失われたと推定されている。
さらに記録の方法にも問題があった。
「図も描かなければいけないのですが
この図も何も記載がない。」
当時は遺体に取り扱いに関する知識のない歯科医もやむを得ず作業を行ない
不正確な記録が身元の確認を難しくしたという。
(岩手医科大学 熊谷准教授)
「同じことをまた繰り返すようではいけませんので
ご遺体が速やかに遺族のもとに帰れるシステムは
構築する方向に行った方がいいのではないかと思う。」
震災の教訓を踏まえて
生前の歯のデータベース化に取り組んでいる地域がある。
神奈川歯科大学では
震災の翌年から
神奈川県内の24の歯科診療所と連携し
歯を治療した際のX線画像の提供を受けている。
(神奈川歯科大学 山田教授)
「ひと目で口の中全体が分かりますので
歯の位置
あごの骨の形
非常に情報量が多い。」
これまでに画像を登録した人は約1,400人。
遺体の歯型のX線画像と照合することで身元を特定する。
手描きのカルテのような曖昧さを含まず
作業時間も短縮でき
確実な特定方法だという。
(神奈川歯科大学 山田教授)
「生前のデータベースをしっかり構築しておけば
遺体からとったデータとすぐに比較できる。
そうなると迅速な身元特定が可能になります。」
日本歯科医師会は
南海トラフの巨大地震などの大規模災害に備え
カルテなどの診療情報のデータベースの導入を国に求めている。
個人情報の保護に関わる新たな法整備やコスト上の課題から
実現の見通しはたっていないが
神奈川のように地域ごとにデータ保存の仕組みづくりを模索する動きが始まっている。