2021年3月16日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
人口が13億を超えるインド。
働く人の半数近くが農業に関わっている「農業大国」である。
しかしその所得は他の職業の3分の1ほどにとどまっていて
多くの農家が厳しい生活を余儀なくされている。
そうしたなか
栽培方法を工夫したり販路を広げたりすることで収入を上げ
地元の農業を盛り上げようとする農家がある。
インド北部のウッタラカンド州。
山あいの村で代々農家をしているラモーラさん。
化学肥料や農薬を使用する農家が多いなか
安全な野菜を作ろうと
20年以上前から無農薬での栽培を続けてきた。
しかしいい野菜を作っても生計を立てるのは難しかったという。
原因は農作物の販路にあった。
ラモーラさんのような農家の場合
売り先は通常 マンディ(地域の公設市場)に限られている。
どんなに質の高い野菜を持ち込んでも
市場の仲買人に安い値段で買いたたかれてしまうのである。
(農家 ラモーラさん)
「地元の市場に売るしか方法がありませんでした。
そのため家族を養うのに精いっぱいだったのです。」
収入を上げるため新たな販路を拡大できないか。
ラモーラさんが頼ったのが
インドで野菜の仕入れと販売を手掛ける土屋さんである。
土屋さんは各地の農家を訪ねてまわり
ニューデリー近郊に住む日本人向けに安全な野菜を栽培してくれる農家を探していた。
そして7年前に出会ったのがラモーラさんである。
初めて訪れた時
その野菜のおいしさに驚いたという。
「いい空気と水がきれいで人が優しくて土が柔らかくて
そのなかでできたキャベツ。」
土屋さんはラモーラさんの野菜を地元の市場価格より高く購入。
日本人の間でたちまち大人気となった。
ラモーラさんは大都市に販路を開拓できたことで
収入が以前の3倍以上に増えた。
(農家 ラモーラさん)
「都会に届けられるようになり
自分の野菜に自信が尽きました。」
いまラモーラさんが取り組んでいるのが村の若い農業従事者の指導である。
豊かな土地を生かした無農薬野菜の生産によって
自分と同じように収入を上げ
地元の農業を盛り上げていきたいという。
(農家 ラモーラさん)
「今は5~6人ですが
将来は50人くらいのグループで“オーガニックの村”にしたいと思っています。」
インドでは農家のうち85%はラモーラさんのような比較的小規模農家で
規模が小さいために農業機械の導入が出来ず
生産性を上げることも難しい。
また「マンディ」と呼ばれる市場にしか販路がないことが多く
中間業者に搾取されてしまい
低所得の厳しい状況に置かれている。
そうした状況を変えようと政府は5年前
農家の収入を2022年までに倍増させるため
農業の生産性を高めるインフラの整備・肥料・電力に対する補助金を増やす対策を打ち出した。
さらに農家が中間業者を介さずに全国の市場との取引をできるよう
国営の農産物卸売ポータルサイトを開設している。
しかし実際にはインフラの整備は遅れ
インターネットを介した取引ができる農家もまだまだ少ないのが現状で
状況が改善しているとは言えない。
一方でインドでは
農作物の取引の自由化など
政府が成立させた農業改革の法律に反対する農家らのデモが続いている。
政府側との話し合いが断続的に行なわれているが
解決のめどはたっていない。
インド国内ではここ数年
健康意識の高まりを背景に
オーガニック市場が盛り上がっている。
昨年から続く新型コロナの感染拡大で食の安全を求める人が増えていて
その流れを後押ししている。
インド国内でも有機野菜を専門に取り扱うスタートアップも次々と出てきている。
首都ニューデリーで毎週開かれているオーガニックマーケットも人気が高まっている。
ラモーラさんも
以前は無農薬の野菜の価値を知らない人が多かったが
近年その需要の高まりを実感しているという。