2021年3月19日 NHKBS1「国際報道2021」
IATA(国際航空運送協会)によると
航空業界の2020年の最終的損益は約9兆円の赤字になる見通しである。
ただ赤字になることなく黒字を維持している航空会社もある。
アフリカのエチオピア航空である。
アフリカ東部 エチオピアの首都にあるアディスアベバ空港。
エチオピア航空はここを拠点に
アフリカ62都市を含め
世界で約120都市に就航している。
ビジネスから観光まで幅広く利用されるアフリカ最大の航空会社である。
2019年には約1,200万人が利用したエチオピア航空。
ところが新型コロナの影響を受けた去年
旅客数は85%以上減り
会社設立以来の危機を迎えたという。
(エチオピア航空 貨物部門責任者 アバディ氏)
「去年3月に新型コロナが広がり旅客便はほぼゼロになりました。」
どのように経営を立て直したのか。
当時アフリカでは感染が広がるなかでマスクや防護服が大幅に不足していた。
それまでアフリカへの医薬品や医療機器の運搬は欧米の航空会社が担っていたということだが
各社は軒並み欠航。
国連や先進国から支援物資を輸送する手段が課題となっていた。
そこで名乗りを上げたのがエチオピア航空である。
WHOがパンデミック宣言をした3月。
世界の航空会社の中でも
いち早く軸足を貨物に切り替え
新型コロナ関連の医療物資に特化した輸送を担おうとしたのである。
(エチオピア航空 貨物部門責任者 アバディ氏)
「経営陣の判断は迅速で
私たちは貨物事業にすぐ取りかかれました。」
旅客事業の回復のめどが立たないなか
保有する旅客機110機のうち22機を改造。
座席を取り外し
貨物用に転用した。
12機あった貨物機はこれで34機に。
新たに貨物機を購入するより圧倒的に早く
しかも安く
輸送できる量を倍以上に増やした。
旅客の需要が回復したらすぐに座席が戻せる両構えの戦略である。
さらに路線の組まれ方も素早く対応することに有利に働いた。
エチオピア航空は貨物便のほとんどが拠点のアディスアベバ空港を経由。
国連や先進国からのマスクや防護服・手袋など
それぞれの物資がここに集約される。
各国の多様なニーズに合わせて
1か所で仕分け・発送することで
効率よく届けることができるのである。
大量の荷物をさばくため
空港内に国連などの支援物資専用のスペースを設けた。
「ここは届いた物資を整理する場所です。」
「ここはWFP(世界食糧計画)専用の部屋で
他国に運ぶために分けています。」
貨物への素早い転換ができた背景にはもうひとつ大きな要因がある。
マスクなどを各国に配る
いわゆる“マスク外交”を展開していた中国である。
中国は物流ルートの構築のため
エチオピアで鉄道などのインフラに投資してきた。
この関係性を利用して
各国が旅客数の減少で中国便を減らすなか
大幅な増便を中国側に持ちかけたのである。
これまで中国本土4都市に週約45便ほどだった便数を
7都市・週約100便余と倍以上に増便できた。
去年3月~6月
中国からアフリカに輸送することができた支援物資は約5万トンにのぼった。
(エチオピア航空 貨物部門責任者 アバディ氏)
「多くの航空会社は中国から撤退しましたが
私たちは続けました。
中国政府も柔軟に許可してくれました。」
こうして
各国の航空会社が業績を落とすなか
エチオピア航空は2020年上半期に約50億円の利益を上げることに成功した。
(エチオピア航空 貨物部門責任者 アバディ氏)
「すべてのリソースを貨物に注ぎました。
マスクや防護服などを運ぶ要望にも応えられ
業績も良くなりました。」
いまエチオピア航空はワクチンの輸送にも力を入れている。
ワクチンを低温で保つため数億円かけて設備を整えたとしている。
冷凍庫を超低温になるよう改修。
「ここはマイナス25℃を保つための部屋です。
ワクチンを入れる準備はできています。」
さらに飛行機まで低音を保ったまま運搬する電気コンテナも買い足した。
エチオピア航空はこれだけコストをかけるのには
“将来にわたって医薬品の運搬を本格的に担える航空会社としての地位を確立しよう“という
狙いがあるという。
(エチオピア航空 貨物部門 責任者 アバディ氏)
「未来のワクチンを運ぶための投資でもあり
いまがそのチャンスです。」
ワクチンの公平な分担を目指すCOVAXのアフリカ諸国への輸送も担うことになった。
(エチオピア航空 貨物部門責任者 アバディ氏)
「この苦境の時代に築いた経験は
コロナが終息したときに
私たちを成功に導き
いっそう強い航空会社にしてくれるでしょう。」