2021年3月22日 読売新聞「編集手帳」
米電気自動車大手テスラの経営者イーロン・マスク氏は読書家として知られる。
幼い頃は1日10時間かじりつき、
図書館の本を読み尽くしたほど。
特にSFに夢中になった。
影響を受けたのは英国の脚本家が書いた「銀河ヒッチハイク・ガイド」という小説で、
知り合いの宇宙人と星々の間を放浪するドタバタコメディーである。
そんな珍道中がお好みのマスク氏率いるスペースX社は、
民間人だけによる宇宙旅行を今年秋にも行う準備を進めている。
昨年、
有人宇宙船の打ち上げを成功させたものの、
宇宙飛行士がいない旅はどうなることやら。
ワクワクに不安も交じり、
想像すると胸がいっぱいになる。
型破りな経営者は「テクノキング」という新しい肩書にした。
SFに出てくる怪獣のような奇妙な響きだが、
実際、
米証券当局に資料を提出している。
3年前のエープリルフールに「テスラは完全に破綻した」とつぶやき、
株価の急落を招いたりもした。
そうこうしているうちに技術を高め、
今や販売台数で世界最大の電気自動車会社である。
世の中には成功とお騒がせを一緒にやってのける人がいるんだなあ。