2021年4月4日 読売新聞「編集手帳」
日本でウイスキーを初めて飲んだのは、
幕末の1853年、
黒船来航時の一行がもてなした幕府側の役人、
というのが有力な説であるらしい。
「ペリー提督日本遠征記」に、
顔を真っ赤にしながら楽しむ様子がある。
「紳士らしい泰然とした物腰を崩さなかった」とも。
北原白秋が、
「ウイスキーの強くかなしき口あたりそれにも優(ま)して春の暮れゆく」と詠んだのは1913年の歌集だ。
琥珀色の味と香りは、
かくも長く人を魅了してきた。
熟成を辛抱強く待たねばならないウイスキーづくりは、
日本人の気質と合っているのだろう。
初の国産品は1929年に遡る。
米英に比すれば新参だが、
今世紀に入ると世界で最高賞が相次ぎ、
海外の愛好家を虜にしている。
5大生産地といえば今やスコットランド、アイルランド、米国、カナダ、日本だ。
繊細で複雑な味わいは和魂洋才の神髄と言えよう。
4月から「国内で蒸留」といったジャパニーズウイスキーの定義が明確化された。
ラベルなどに順次、
反映される。
近年、
外国産原酒のみを使用し、
ブランドを毀損(きそん)する例があるためだ。
春宵には飲みたくなる。
本物を。