中国文学を読む。
短編集『かつて描かれたことのない境地』
著者は残雪、日本語でそんまんまザンセツと呼ぶらしいが、
本の表紙にはCan xue (ツァンシュェ)とあった。
感覚の大海をゆったりと泳ぐような
そんな物語の数々だった。
私がこの人の作品に惹かれるのはただ一つの理由から。
殻の外へ解き放たれた人々の世界、
その無限には誰のものでもない哀しみと喜びが滲んでいた。
それは ”死” かもしれない。
人間は人間中心でなくなった瞬間にもっと大きなものと一体になれる。
でもそこに至るには恐れを突き抜けなければならない。
毒のような色で描かれた恐怖
でも、それが死であるならば、私たちは皆必ずくぐり抜けなくてはならないのだ。
その残酷さと優しさに耐えきれず
電車の中で涙ぐんだ。
(コトバンクでは、「…ひたすら怪奇なイメージを繰り返し陳列する,精神分裂症的世界を描いている。 」などとあるが
私はそんなふうには思いません。いや全く違う、そうじゃない。)
この本を紹介してくれたのは、
自由美術協会 の 石田貞雄先生。
残雪を翻訳していた故・近藤直子さんが知り合いだったらしい。
石田先生はいつも青色の素晴らしい抽象画を描く。
なのに、昨年は珍しくピンク色だった。
垂直に流れるような、近づくと薄塗りで柔らかく、少し生々しかった。
「いつもとちょっと違いますね」と言ったら
「自分が病気になった時、天井に向かって血を吹き上げるような
そんな気持ちになった。近藤さんも同じだったかもしれない。
これは追悼の絵なんです」
と答えてくれた。
あのピンクは先生の血だったんですね
*残雪
須田悦弘「ユリ」 東京都美術館「木々との対話」展より
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