11月19日
昨日は大変だった。
と言っても、何か大事件が起こった、とかいうことではない。例の「身から出た錆」シリーズの一つ。3時からの歯の治療が、想像をはるかに超えて大変だった、ということ。
3時から始まって、涙を拭きながら治療室を後にしたのは4時を10分余り過ぎた頃。
痛くて泣いたのではない。それに号泣したわけでもない。当たり前、か。
何しろ、いつもの逆さ磔状態。治療時の水が気管に何度か入り、呼吸ができなくなる。
そのままでは死んでしまうから、「命を守りたい(どこかで聞いたことのある文句だな)」、と噎(む)せる。噎せてもお構いなしで治療は続く。
申し訳ないから噎せるのを辛抱しようと必死で頑張るんだけど、そうすると息ができない。
そして、虫歯は深いところまで進んでいるので、神経に触りそうな時は急に大きな痛みが襲ってくる。
つまり、あれだ、「水責め」と「神経責め」と「口を閉じさせない」、のトリプルS攻撃、だ。
一週間待った左上顎の虫歯の被せ物ができて、それを装着するだけでも、結構力づくで。でも、それはいつものこと。頭が揺さぶられたって大丈夫(勿論そんな乱暴なことはされていない)。とにかくこれで何十年も安心して物を食べることができる。
今日はそれがヤマ場で、後は左側の下顎の虫歯のチェックだけ、だからもう終わったも同然。・・・・と思っていた。
ところが、ここも詰め物をした隙間から中に向けて虫歯がひどくなっているのが分かる。
で、その場で
「何度も麻酔をするとクセになるから一遍にやります」。
患者の気弱な希望など全く聞く気はない、といった勢いで、三本の虫歯処置のため、三ヶ所ほど有無を言わさず、あっという間に麻酔注射。
例によってじわじわと麻酔が効き始め、注射をされた周辺が腫れあがったような錯覚にとらわれる。勿論、腫れているわけではなく単に痺れているだけなのだが、気分はその辺りがソフトボールくらいに腫れた感じ。
「神経の近くまで虫歯になってるから、これまでにも痛かったりしみたりしていたはずですよ」
と言われたが、治療しながらそういうことを言われても、こちらは拷問器具で開口させられているわけだから、うんともすんとも言えない。言おうとすればその瞬間に水責めが始まる。
それで、噎せる。すると、「辛抱してくださいね」とか「舌を出して置かなければいけないので、どうしても気管に水が入ります」と状況説明をされたりする。説明をされたって「ははあ、なるほど」、なんて気楽に合槌が打てるような状態ではない。
何だかすれ違いの喜劇の役者になったみたいだ。本人は大真面目なんだけどとてもそうは見えない。本人からすれば喜劇どころか大悲劇、だ。
三本のうちの一番ひどい一本は、切り株が長年月ですっかり腐って、中が洞になってしまい、辛うじて形だけが残っている状態。そこへ取り敢えず、の詰め物をして、来週まで過ごすことになった。
それでもその晩、酒は飲むんだから、ホントにどうかしている。