


ゼフィルス(Zephyrus)とは、ギリシャ神話の西風の神ゼピュロスにちなんだもの。6月から7月に出現する樹上性のシジミチョウの一群のことで、日本には25種います。卵で越冬する一年生の蝶です。メタリックなはねの色が美しい蝶が多いので小さいけれど目を引きます。以前からその出現の時期になったら出かけてみたいと思っていた山へと脚を伸ばしました。
ちなみにゼピュロスは笛の名手で、その神がシルクロードを伝って日本にたどりついて奈良薬師寺五重塔の飛天になったともいわれています。ゼピュロスは、英語でゼファー。西風、そよ風のことです。スペイン語では、セフィーロ。ゼファーガンダムも、それにちなむ命名とか。
今年一番の暑さになろうかという日でしたが、出かけた山は爽涼な微風が絶えず吹いていて湿度も低く爽やかでした。月の輪熊の出没地帯ですが、今回は熊鈴はなし。シジミチョウが音に敏感ということはないのですが、むしろ写真撮影の邪魔になるので外しました。こんな暑くなる日だと熊も昼寝を決め込むでしょう。林道やら獣道やらを歩いてやっと現場へ。
草むらを歩くとゼフィルスやタテハチョウ、ヒカゲチョウ、シロチョウ、シャクガの仲間が次々と舞い上がります。驚かさないように慎重にゆっくりと歩きます。森の縁を歩くときは、地中にあるジバチやオオスズメバチの巣にも気を配らなければなりません。うっかり踏みつけたら地雷を踏んだと同じ事…。
シジミチョウの仲間は、高い木に留まることも多く、留まってもすぐ飛び立ったりとカメラマン泣かせです。マクロ撮影といえば、場合によっては3センチまで寄らなければなりません。忍耐力とひたすら気配を消して樹や草になる心構えが必要です。撮影の初めは早く撮りたいという邪念が多かったせいか、次々と逃げられてしまいました。直接被写体を見るのも、蝶が視線を感じるため御法度です。ハエを見ながら叩くと逃げられてしまうのと一緒です。視線には力があるのです。
そんな苦労をしてやっと撮影できたゼフィルスが、写真の4頭です。上から、ウラゴマダラシジミ、ミドリシジミ、アカシジミ、ウラナミアカシジミです。他にはミズイロオナガシジミなど2種類ほどいたような気がします。やっと撮影できると寄ると、にじにじと回転を始め向こうを向いてしまったりと、なかなか言うことを聞いてくれないモデルさんです。
途中では、朝の餌を探しているキツネかタヌキの後ろ姿も見ました。でも、今回一番驚いたのは、足元からまだ巣立ち前かと思われるヤマドリの子供が這いずりだしたことです。子供といっても鶏ぐらいはあります。突然のことに向こうも私もびっくり。ショェーショェーと奇妙なパニックの鳴き声を出しながらあちこち這いずり回り、最後はやっと1メートルぐらい飛び上がって滑空し、森の中へと這って消えていきました。小熊でなくてよかった。
★ここに登場した昆虫や花、樹木は、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。信州の花3、樹木8、昆虫3、蝶・蛾・蜻蛉2で、ご覧いただけます。拡大写真もあります。