梅雨の雨上がりの午後にわずかな時間ですが、茶臼山へ寄ってみました。雨後の森の誘惑に負けたのです。たっぷりと雨露を含んだ杉林の森は、艶々と輝いて緑の匂いのするひんやりとした風が通りすぎていきます。四十雀の鳴き声を聞きながら木漏れ日の落ちる小さな切り通しを抜けて、濡れ落ち葉の滑る山道を慎重に数分下ると、陽光眩しい棚田の最上部に出ます。薄暗い自然林に開いた山道の窓から、もう夏の匂いのする太陽に照らされた輝く稲穂が見えました。
ウラゴマダラシジミやコアオハナムグリが吸蜜に訪れていたイボタノキの白い小さな小花は、ほとんどが散っていました。蝶の姿も見えません。虫たちの羽音も聞こえません。あまりの変わり様にしばし呆然と佇んでいると、どこかで蛙が鳴き出しました。
神話の山、虫倉山の頂上は白い雲に覆われています。蕾だった野薊(ノアザミ)は、半球形に開いています。靫草(ウツボグサ)の残花が時折微風に揺れています。忍冬(スイカズラ)は黄色の花が増えました。雨露のたくさんついた蜘蛛の巣には、捕らわれてしまった小さな虫たちがたくさんいましたが、肝心の主の姿がどこにも見あたりません。雫が光るばかりです。
今日は、虫の撮影は無理かなと諦めかけて水田の水面を見ると、なにか小さな虫が泳いでいます。あまりに小さくてなにか分かりません。前回は水馬(アメンボ)がいましたが、それよりも小さな虫です。しゃがみ込んで水面に顔を近づけると、なにやら小さな水生昆虫が泳いでいます。しかも、腹を見せて背泳ぎをしています。
大きさは1センチほどです。赤い目がちょっと不気味ですが、背泳ぎする様はなかなか愛嬌があります。亀虫の仲間の松藻虫(マツモムシ)でした。落ちてくる小動物や水中の小動物を捕まえて針のような口吻で体液を吸う水生昆虫です。小動物とは、小魚や小さなオタマジャクシや昆虫です。不用意に手で捕まえると口吻で刺されることもあります。棚田のような止水域の目の赤い吸血鬼なのです。
背泳ぎが得意なので、英語ではBackswimmerといいます。そのまんまですね。とてもいいムービーがあったのでリンクしておきます。癒しになるでしょうか。
しばらく観察してから戻ろうと歩き出すと塩辛蜻蛉(シオカラトンボ)が飛来しました。見とれていると大雀蜂・大胡蜂(オオスズメバチ)に威嚇されました。すごすごと退散です。世界最大のスズメバチ、日本最強の殺し屋とあっては退却もやむを得ません。とはいっても、昆虫食の中でもオオスズメバチの蛹になる直前のウジ虫は、前蛹といってフグの白子と並び称されるほどの珍味とか。地蜂の子の佃煮は、冷蔵庫に入っているのですが、オオスズメバチはまだ未経験です。成虫の焼酎漬けも体にはいいようです。
あまり長居もできないので森の小径を歩いていくと、緑の葉の下からオレンジ色の雨露に光るものが見えました。紅葉苺です。前見た時よりも大きく熟しています。早速満足できるまで食べました。雨露に濡れて適度に冷えた紅葉苺は、大層美味でした。
★ここに登場した昆虫や花、樹木は、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。信州の花3、樹木8、昆虫3、蝶・蛾・蜻蛉2で、ご覧いただけます。拡大写真もあります。
★茶臼山トレッキングは、フォトドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】をご覧ください。