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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

圧巻の葛飾北斎。北斎館で「旅する浮世絵」を堪能(妻女山里山通信)

2021-06-12 | 展覧会・イベント・コンサート
 旅の最終日は、北竜湖、小菅神社を参拝して中野を散策。昼食後に小布施へ。北斎館で開催中の「旅する浮世絵」を観に行きました。インバウンドの観光客がほとんどいないので、信じられないほど静かな小布施でした。最近は、撮影可能な美術館や博物館が多いのでこんな風にブログでアップできます。但し、フラッシュと動画撮影、三脚の使用は禁止です。あまりに点数が多いので厳選してアップします。

「旅する浮世絵」の看板。浮世絵、北斎漫画、肉筆画。期待が膨らみます。

 鳥瞰図「東海道名所一覧」。後世の吉田初三郎にも影響を与えたと思われる鳥瞰図。なかなか公開されたことがないので、初めて観たという人も多いのではないでしょうか。私も初めて観ました。江戸から京都までが描かれています。北斎の波は、高速度撮影した波の一瞬と言われていますが、これはドローンで遙か上空から撮影した様。北斎の視点と想像力に圧倒されます。

 鳥瞰図「木曽路名所一覧」。これも江戸から京都ですが、中山道、木曽路、北国街道、善光寺街道などが描かれています。ディフォルメの仕方が北斎独特です。諏訪湖の向こうに松本があり、そのすぐ向こうが京都です。

 右上の部分を拡大してみました。右の善光寺から左の松本へ。下に諏訪湖。左下に甲州。右下は浅間山。丹波島、篠ノ井、矢代(屋代)、戸倉など信州には馴染みの地名が見られます。

 鳥瞰図「百橋一覧」。当時実際にあったのでしょう。興味深い構造の橋がいくつか見られます。

(左)諸国瀧廻り「木曽路ノ奥阿弥陀ケ滝」。滝上の流れと滝の水の表現が凄い。滝を愛でながら宴をする人々。(中)相州大山ろうべんの滝」丹沢山系大山の滝で滝行をする人々。大山講は江戸時代から盛んでした。(右)木曾海道小野ノ瀑布。長野県上松町のある御岳信仰の水行の滝。

 信州諏訪湖の氷渡り。御神渡り。旅人の笑顔がいいですね。

 富嶽三十六景 武州 玉川(多摩川)。渡し船と馬子の配置が北斎らしく絶妙。

 富嶽三十六景 相州 江ノ島。まだ橋はなく、干潮の時に砂州を渡った様子が分かります。当時は江島神社に三重塔がありましたが、明治維新の廃仏毀釈で失われました。1182年(寿永元年)鎌倉幕府を開きつつあった源頼朝の藤原秀衡調伏のために文覚が弁財天を勧請し、これが実質的な弁財天信仰としての江ノ島の創建といわれます。江戸時代は多くの参拝者で賑わいました。

 版本 絵本「隅田川両岸一覧」。桜咲く隅田川沿いに繰り出す花見客。団子売り。舟遊びに興じる人々。

 版本 絵本「隅田川両岸一覧」。舟釣りを楽しむ人々。面白い釣り針ですね。何を釣っているのでしょうか。ハゼかな。スズキ、タイ、ウナギ、ボラ、アナゴ、コイなどが連れた様ですが。女性二人は、その出で立ちから町娘ではなく遊女かと。右の男は太鼓持ち、左の男はボディガードかと思われます。

 版本 絵本「隅田川両岸一覧」。新吉原。吉原遊廓は、江戸幕府によって公認された遊廓です。新吉原というのは、明暦の大火後、浅草寺裏の日本堤に移転したもの。映画「HOKUSAI」では、歌麿が逗留したといわれる吉原の様子が生き生きと描かれていました。吉原遊廓の真実というのは、歴史学者が克明に研究をしています。
吉原遊廓

 葛飾応為「吉原格子先之図」(浮世絵 太田記念美術館):これは現在の展示品ではありません。北斎の三女お栄(応為)が描いた吉原遊廓です。以前、宮崎あおい主演で応為のドラマもありました。当館でも応為の研究ビデオを流していたことがあります。女北斎と呼ばれた彼女のミステリアスな人生は、非常に興味深いものです。遊廓の女性を、歌麿や北斎とは全く異なる女性の目線で描いています。
葛飾応為
 wiki
 「二美人図」。立像と坐像の二人の遊女。神奈川沖浪裏や富嶽三十六景があまりにも有名なので、北斎と美人画?と思う方もいるかも知れませんが、数多くの肉筆画を描いています。また春画も数多く描いています。重要文化財の肉筆画。

「東海道旅行」前北斎一筆/絹本着色一幅(部分図)。渡し船に乗る人、茶店「ゑどや」でくつろぐ人。当時の旅人たちの楽しそうな様子が、生き生きと伝わってきます。江戸時代を貶めたのは、欧米金融機関の傀儡となってクーデターを起こした薩長の田舎侍達。その支配が現在まで続いています。本当の自由は実は江戸時代にあった。士農工商という身分制度は無かったと、現在の教科書では教えられていません。江戸は、世界一環境に配慮した美しい都市だったのです。但し、奔放な姓故に梅毒が蔓延していました。

 常設展の東町の祭屋台。天保15年(1844)北斎85歳の時に半年を掛けて描いた天井絵の鳳凰と龍。鳳凰は、岩松院の天井絵の元になったと思われます。北斎逝去前年の作である岩松院の天井絵は、多くの専門家により北斎の直筆ではないといわれています。

 弘化2年(1845)に高井鴻山が私財を投じて制作した祭屋台。上町の飾り舞台には、高井村の彫師・亀原和田四郎作の『水滸伝』の武将・皇孫勝と、江戸の人形師・松五郎作の龍が置かれています。唐破風の妻飾りや欄間も見応えがあります。当時の小布施の繁栄も感じます。

 天井絵。怒涛図の「男浪(おなみ)」。海どころか宇宙を感じさせる名画。映画「HOKUSAI」のラストシーンの重要な画。

 天井絵。怒涛図の「女浪(めなみ)」。怒涛図の周りの絵は、北斎の下絵に鴻山が彩色したと伝わっています。

(左)北斎館エントランス。(右)話題の映画「HOKUSAI」の主人公二人のサイン。もちろんフィクションですが、最高に楽しめました。超オススメです。

 左から「北斎 肉筆画集成」。美人画26点と肉筆春画24点。次は「葛飾北斎・春画の世界」。春画はアップできませんが、江戸時代の性がいかにおおらかであったかが分かると思います。上は北斎館のパンフレット。右は、映画「HOKUSAI」のパンフレット。とても良くできています。
 一泊二日の短い旅でしたが、皆、充分に満足してくれた様です。さて、梅雨入りの前に里山保全の作業もしないといけません。

世界で最も有名な日本人 葛飾北斎の「北斎vs北斎」を観に小布施へ。圧巻の展覧会でした(妻女山里山通信):2019.12.22の記事です。必見。世界的に有名な「神奈川沖浪裏」は、再現され買うこともできます。当時のものでも摺師によって色調が微妙に違うのです。彼の原画を忠実に再現した彫師、摺師の存在を忘れてはいけません。
葛飾北斎 wiki
北斎館 公式サイト

 『信州の里山トレッキング 東北信編』川辺書林(税込1728円)が好評発売中です。郷土史研究家でもあるので、その山の歴史も記しています。地形図掲載は本書だけ。立ち寄り温泉も。詳細は、『信州の里山トレッキング 東北信編』は、こんな楽しい本です(妻女山里山通信)をご覧ください。Amazonでも買えます。でも、できれば地元の書店さんを元気にして欲しいです。パノラマ写真、マクロ写真など668点の豊富な写真と自然、歴史、雑学がテンコ盛り。分かりやすいと評判のガイドマップも自作です。『真田丸』関連の山もたくさん収録。

本の概要は、こちらの記事を御覧ください

お問い合せや、仕事やインタビューなどのご依頼は、コメント欄ではなく、左のブックマークのお問い合わせか、メッセージからメールでお願い致します。コメント欄は頻繁にチェックしていないため、迅速な対応ができかねます。
 インタープリターやインストラクターのお申込みもお待ちしています。シニア大学や自治体などで好評だったスライドを使用した自然と歴史を語る里山講座や講演も承ります。大学や市民大学などのフィールドワークを含んだ複数回の講座も可能です。左上のメッセージを送るからお問い合わせください。
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宮彫りの名工・北村喜代松の木彫が見られる野沢温泉 薬王山健命寺(妻女山里山通信)

2021-06-12 | 歴史・地理・雑学
 旅館にチェックインして皆を案内したのは、麻釜のすぐ上にある薬王山健命寺。永禄11年(1568年)創建の曹洞宗の古刹です。越後市振村(現糸魚川市)出身の宮大工、名工・北村喜代松の見事な木彫が見られます。喜代松22歳の嘉永4年(1851)には、鬼無里の諏訪神社屋台を手掛けています。これは必見です。私は、北村喜代松の宮彫りを求めて、松代から野沢温泉、新潟県の上越市、糸魚川市、富山県の朝日町へと撮影の旅をしてきました。右上のブログ内検索で「北村喜代松」で検索してください。当該記事がご覧いただけます。
宮彫りの名工・北村喜代松の木彫を求めて行脚の旅=その3 野沢温泉健命寺と湯沢神社(妻女山里山通信)2020.8.11

 健命寺において彼の宮彫りは、薬師堂で見られます。薬師堂は、北村喜代松と息子の北村四海の作。祀られている薬師瑠璃光如来は上杉謙信の陣中守り本尊と伝わっています。薬師堂正面1間唐破風向拝の北村喜代松作の龍の木彫。木目を極限まで活かしているのが分かります。口、鼻、耳の中に丹塗(ベンガラ)の赤が見えます。これを一本の欅から彫り出しているのですから。

 薬師堂は2層宝形造。とにかく造形に一ミリのスキもありません。構成とそのバランスが素晴らしい緊張感を醸し出しています。頭貫には波と亀、さて何匹いるでしょう。9匹までは数えたのですが。

 鳳凰。木目が縦に通っているところはいいのですが、横になっているところは弱いわけで、ギリギリの太さにしているのでしょう。造形にも工夫が見られます。

 左の木鼻の貘(ばく)と唐獅子。貘は、悪夢を食べてくれるという、中国の想像上の動物。鼻は象、目は犀、尾は牛、足は虎で、体形は熊に似るという幻獣です。

 右の木鼻の貘と唐獅子。よく見ると左右で厳密に同じ造形ではないことが分かります。

 左の手狭には雀を追う若鷹。喜代松のお得意の題材です。

 右の手狭にも雀を狙う若鷹。逃げる二羽の雀。これも一本の欅から彫り出しています。

(左)頭貫上の龍の腹部。木目が美しい。龍が爪で玉を掴んでいます。(右)波に遊ぶ亀。喜代松だけでなく、この時代の宮彫り師は、葛飾北斎の波の造形の影響を受けています。

 建築関係のメンバーが、初層(左)と、二層(右)の垂木の造形の違いを指摘してくれました。二層の放射状の方が遥かに難しい造作です。

 薬師堂全景。初層と二層の屋根のカーブも微妙に違います。昔は屋根も檜皮葺だったのではないでしょうか。

 唐破風の屋根のカーブが美しい。各所に散りばめられた宮彫りのバランスが絶妙です。

 薬王山健命寺の山門から。奥の仁王門は最近新築されたものです。一部に古い材が使われています。

 健命寺の本堂。本堂の向拝は、左甚五郎の後裔である五代目後藤茂右衛門正綱の弟子の間瀬大工、石塚甚助によるものです。こちらも見事です。木鼻は、象と唐獅子です。頭貫上には、古代中国の故事に由来する黒松の樹下で酒壺と酒盃を掲げる仙人の図。

 隣に鎮座する湯沢神社の木彫は、越後の岩崎嘉市良重則の作。

 木鼻の唐獅子。非常に独創的な造形で、迫力があります。

 湯澤神社の鳥居。同行のメンバーも大満足して宿に戻りました。最終日は、北斎館へ。企画展「旅する浮世絵」は圧巻でした。それは、次の記事で。
北斎館

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