里山の再生というのは、里山の利用目的の他に、気候、土質、森を構成する樹木の種類などでも変わってくるので一概にこれがベストの方法というものはないのです。また、その山がどういう風に使われて今に至るかということも重要な要素です。
現在整備しているわが家の森は、40年前までは桑畑と茅葺き屋根のための茅の山でした。養蚕は江戸時代から始まり、明治になって盛んになりましたが、生糸の暴落と共に衰退しました。屋根も茅葺きからトタンや瓦になり、茅も不要になりました。また、竈もガスになって薪もいらなくなりました。そのため桑畑には赤松や唐松が植林されました。しばらくは適宜整備されていたのですが、ここ十数年は放置されたままの状態になり、林冠が二重三重になり林下は薄暗い藪になってしまいました。
葛や山藤、ミツバアケビやアレチウリの繁茂によって立ち枯れる唐松が続出。掛かり木となって非常に危険な状態にもなっています。そこで、森の再生を図ることにしました。まずは、前記のつる植物の伐採と掛かり木の除去です。これらは非常に危険の伴う作業で大変でした。
次に、春から初夏にかけては、つる植物の芽吹きの阻止です。除草剤を使わないため、何度も刈り払いを行わなければならない根気仕事です。そして、森の除伐にかかりました。林冠の最下層に位置する低木や株立ちしている木の整理、樹種を選んでの伐採(択伐)などです。昔であれば伐採した木は乾燥させて燃料にしたのですが、現在は切り捨てになります。森の外に出すとゴミになってしまうからです。
切る木は、この山の特徴をよく表しています。土質の関係か、千曲川左岸とは大きく植生が違うのです。山桜が多いのが際立った特徴です。ダンコウバイ、カラコギカエデ、ガマズミ、ヤマウルシ、ノイバラ、クズ、ヤマフジ、ミツバアケビなどが除伐の対象になります。ケヤキ、オオムラサキの食樹、エノキなどは残しますが、切る場合もあります。タラノキ、ハリギリ、山椒は山菜ですし数も少ないので残します。少ない栗、コナラも残します。ミヤマウグイスカグラは、グミがなるので選んで残します。ウツギは、白い花がきれいでアゲハも集まるのですが、酷い藪になるので適宜刈り込みます。
写真は、伐採が一応済んだ森です。以前は森の向こうが見えない状態でした。もちろん風も通りません。今の時期の森は信州とはいえ湿度が高く、虫も多くて大変なのですが、伐採後に爽涼な風が吹き抜けるとなんともいえず爽快な心持ちになります。今まで林冠でしか聞こえなかった鳥のさえずりも、よく聞こえるようになり、姿も見えるようになりました。
今まで全く花が咲かなかった杏も開花したくさん実を付けました。栗の大木も葛やアレチウリで開花できず、ほとんど結実しませんでしたが、今年は満開でたくさん実がなりそうです。しかし、大変な重労働で腱鞘炎になりました。
そんな伐採の仕事中のことです。山桜を切ろうと鋸を入れ始めたところ、樹皮でなにかわずかに動きました。見ると10センチもある灰色の毛虫がいました。作業の手を止めて早速撮影。カレハガの幼虫でした。ヒゲダンスでも踊りそうな風貌ですが、名前の通り成虫は、枯葉そっくりです。撮影後、木は伐採しましたが、毛虫君はおそらく無事に成虫になってくれるでしょう。その時にぜひモデルになってくれとお願いしておきましたが…。
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