飲み物を飲み、少し上機嫌になったゴリンゴが、最初に口を開いた。
「今年の米のでくかたはどうか」
できかた、というのを、でくかた、と言った。ヤルスベのなまりだ。彼らはカシワナ族に近づけてものを言っているが、どうしても自分たちの言葉が出る。だが失笑するものはいなかった。言い方がどうしても変な感じに聞こえるが、言葉などで相手を馬鹿にすると、交渉が壊れる恐れがある。アシメックは自分も、できるだけヤルスベ族に近づけた言い方で言った。
「とてもいい具合だ。去年より多くとれた。見るといい。その壺の中に、今年の米が入っている」
すると、横にいた役男のひとりが、真ん中においてある土器の蓋をとった。するとゴリンゴやアロンダたちが引き込まれるようにそれをのぞきこんだ。米を見ると、ゴリンゴの目が大きくなった。
ゴリンゴはアシメックの方を見、触ってもよいか?という目つきをした。アシメックはうなずいてそれに答えた。すると、ゴリンゴは少し震えるような手で、まるで愛しい子供に触るように、米に触った。
もうはるかに過ぎ去ってしまい、わからなくなってしまったが、カシワナ族が米を採集し始めて百年以上はたつという。ヤルスベにそれが伝えられたのも、百年くらい前だという。米というものは、一度食べて味を覚えてしまうと、それが忘れられなかった。それほどいいものなのだ。甘い。くるしいほどうまい。ぬくい飯をたべているだけで、なんでか染み入るように幸せが増える。なんでもいいことをしたくなる。米はカシワナカの恵みだった。
しかし、ヤルスベの村には、オロソ沼はない。米は、カシワナの領域にある、あの沼でしかとれないのだ。