世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

7月の終わり

2012-07-31 06:50:21 | 花や木

月末お花特集です。フェイスブックの方で、ぼちぼちとお花の写真は紹介してますけども、なんか、自閉の癖というか、一回習慣となってしまうと、どうしてもそれをやらなければいけないような気がして、続けてしまいます。まあ今日は、夏のお花や虫でも楽しんでください。

冒頭はもちろん露草。二つ並んでかわいいです。澄んだきれいな青です。物語にも露草の村というのが出て来ましたけれど。露草色の空というのは、美しいでしょうね。



これはシュッコンバーベナ。ご近所の空き地に生えていました。やさしい花なので、いつもきれいな顔で写真に映ってくれます。アゲハなどのチョウチョもよく寄ってくる。虫も花の心を知っているのでしょうか。愛を知っているのかなあ。花は愛だから美しいんだよ。本当はね、愛と美しいは、いっしょのことなんだよ。



イヌホオズキ。家のすぐそばの道の隅に生えています。目立たない花だけれど、好きです。ちっとも目立たないのに、とても大事なことをしてくれるんだ。一番苦しい時に、大切なことをしてくれる。わたしはそれを知ってるから、花の心を知ってるから、花も少し横向き気味だけど、よい顔をしてくれる。ほんとは人間が辛いから、隠れていたいんだよね。



ヒオウギ。なぜか、家の近くの道の隅に、さっきのイヌホオズキの近くに、生えています。このあたりでは珍しい花だなあ。どこかのお庭から、種が転がってきたのかしら。調べてみると、よく短歌に使われる枕詞「ぬばたまの」(「闇」とか「夜」にかかる。)の「ぬばたま」は、この花の種がカラスの羽のように黒いことから「烏羽玉」と呼ばれ、それがなまって、「ぬばたま」と呼ばれるようになったことからきてるそうです。



ムクゲ。白い色が清らかできれいですね。赤い花もありますし、この季節、どこのお庭にもほんとにたくさん咲いてるのだけど、きれいな顔で写ってくれるのは、この、近所のお家に立っている白いムクゲだけです。ムクゲもイヌホオズキのように、人間が苦しいから、いつも厳しいことを言う。だからたいていのムクゲは気難しい顔をして写る。でもこの花だけはなんかちょっと心を見せてくれるんだ。同じムクゲでも、それぞれにちがうんだな。



キョウチクトウ。この花が咲き始めると、もう夏だなって思いますね。空気も燃え上がってくるように暑い。蝉も鳴いている。それにしてもきれいだなあ。美しいことをしたことがあるからですね。



ヘクソカズラ。また今年も会うことができました。この花も好きなんです。小さくて白くてかわいい花が。でも、なかなかきれいに撮れなくて。きれいだなあ。



スイレン。ご近所の菜園の隅に水連鉢があって、隠れるように咲いているのを見つけました。まだ出会ったばかりだけど、わたしのこと、きらいじゃないみたいだ。お友達になれるかな。



最後はお花じゃないけど、カマキリ。今年初めて出会ったカマキリの子どもです。うちの隣の家の小さな花壇の中にいました。毎年毎年、同じような写真ばっかり撮るけれど、君は絶対、去年のカマキリじゃないよね。誰かの子どもなんだ。季節は巡る。同じことを繰り返しているようで、毎年毎年、何かが確実に違う。
今年の7月の、お花でした。

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男性

2012-07-30 07:15:44 | アートの小箱

今回は男性をテーマにした絵を並べてみました。最初は、かなりすてきな男性の絵を集めようとしたんですが、なかなかに気に入った絵が見つからず、少し視点を変えて、おもしろいことをしてみようと考えました。解説はあまりいたしません。絵を見て、考えてみてください。

先ず冒頭の絵は、「ルイ14世の肖像」
     イアサント・リゴー、17-18世紀、フランス、バロック

豪奢で立派な衣装ですね。



「サン・ベルナール峠を越えるボナパルト」
     ジャック・ルイ・ダヴィッド、18-19世紀、フランス、新古典主義

すごくかっこいいですね。



「バベルの塔」
     ピーテル・ブリューゲル、16世紀、フランドル、北方ルネサンス

小さいけど、一応画面の隅あたりに男性の集団が描かれています。



「霧の海をながめるさすらい人」
     カスパル・ダーヴィト・フリードリヒ、18-19世紀、ドイツ、ロマン派

この人は、何を見ているんでしょう?なんでこんなとこにいるんでしょう?



「放蕩息子」
     ヒエロニムス・ボス、15-16世紀、ネーデルラント、ゴシック

これは聖書の「ルカの福音書」にある「放蕩息子の帰還」というたとえ話が元になっています。説明するのは面倒なので、興味のある人は検索して調べてみてください。

いかがでしたか? 何か感じるところはあったでしょうか。





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第2幕・終了

2012-07-29 06:52:58 | 月の世の物語・余編

月の世の物語・余編第2幕、一応昨日で終了です。ここで改めて、「歌」から「什」までの13編を「第1幕」、「飢」から「蟹」までの14編を「第2幕」と決めたいと思います。

本当は「一」で物語は完全に終了、「蟹」は「エピローグ」とするつもりだったのですが、この物語、なかなかには、終わらせてもらえないようなのです。物語の方が、わたしに書けと言っているようなのだ。なのでまた、ピリオドを打つことはやめておくことにします。いつかまた、何かの折りに、お話のイメージがわいてくるのかもしれません。第3幕を書くときがいつくるかはまだわかりませんが、もし書くときがきたら、また大いに楽しみたいと思います。

冒頭の絵は「古道の魔法使い・本性」。彼女は、黒い肌に金色の目、銀の髪をしているので、切り絵では表現が難しく、鉛筆と色鉛筆、パステルなどで描いてみました。ちょっと少女っぽくなってしまったかな。本当はもっと怖くて迫力があるイメージなんですが。またいずれ機会があれば、描きなおしてみたいです。



それでこれは、古道の魔法使い・黒髪の美女バージョン。切り絵で描いてみました。何やら知的というか、きれいだけど、一癖ありそうなという感じの美女になりました。
つややかな黒髪、白い肌、澄んだ緑の瞳。豊かな胸元。天使のような微笑み。この顔で、恐ろしいことをやるんですよ、この人は。いや、ほんとの姿は別なんですけど。美人には、気をつけましょうね。男の方。

ちなみに、腐乱地獄というのは、20階ほどありまして、一番浅いところが1階、一番深いところが、20階となっております。お降りの際は階を間違えないように、お気をつけ下さい。



双子だったのが、ひとりになってしまった、白蛇の精霊です。胸飾りがカラータイマーみたいだな。切り絵だと、目の表現が難しいな、瞳孔が細い目、ちゃんとわかりますか?

とにかく、ここでしばらく、物語はお休みです。




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2012-07-28 07:28:01 | 月の世の物語・余編

気がつくと、周りは真っ暗でした。一瞬だけ、月の明るい森の風景を見たような気がしましたが、いきなり強い風が吹いて、何かでんぐり返りをするように、ぐるんと自分の体が回ったような気がしたかと思うと、いつの間にか、彼は真っ暗なところにひとり座っていました。周りを見回しても暗闇ばかりで何も見えません。地面はあるらしく、お尻の下に冷たい土の感触を感じました。自分はどこにいるんだろう?と彼は考えました。確か、少し前まで、両親と妹だけの、さみしい自分の葬式を眺めていたはずだが。

「はあい」と後ろから女の声がすると同時に、暗闇の上の方に不思議なランプがともりました。男が振り向くと、そこに、抜けるような白い肌をした、長い黒髪の美しい女が、ランプの光に照らされて立っていました。男は目を見開き、うっと、言葉を喉に詰まらせました。女は微笑みながら歩いて男の前に回ってくると、言いました。

「おひさしぶり。待ってたのよ、ずいぶん」
女は意味ありげに微笑んで、男を横目で見ました。この目つき、どこかで見たことがある、と男がそう思ったその途端、彼の中で、電気が弾けるように記憶が符合しました。彼は驚きのあまり、あっ、あっと声を詰まらせつつ、女を指差しました。混乱した頭の中で、彼はここから逃げようと思いました。しかし、足が地面に接着剤でひっつけられているかのように動かず、立ち上がることもできません。男は目を皿のようにして女を見つつ、叫びました。

「…あ、赤毛の!赤毛の!あの女ぁ!…あ、あんただったのかあ!!」
「ああら、うれしい。覚えていてくれたのね」

男は足を動かそうと必死にもがきました。しかし強い魔法がかかっているらしく、足が地面にひっついてどうしても立ち上がることができません。女は焦っている男の方にゆっくりと近づいてきて、彼の前に座り、その美しい微笑みを彼の顔に近づけつつ、甘い声でささやきました。
「いい勉強になったわ。痛いのね、鉄砲の玉って。ほかにもいろいろやってくれたけど」
「…いや、いやあの、す、すまなかった。あ、その、待ってくださいよ。まさか、まさかあれがあなただったとは、思わなかったんですう!」
女が一瞬形相を変えたので、男は許しを請うように、目の前で手を合わせながらしきりに頭を下げました。女は目を金色に光らせ、舌舐めずりをするように、言いました。
「ふうん、そうなの…」女は立ち上がると、男のいるところから数歩後ろに下がり、右手をさっと横に振って、杖を手の中に出しました。

すると男はまるで蛙のように青ざめて、震えあがりました。まずい、まずい、まずい、と心の中で繰り返しながら、周りをきょろきょろと見回し、彼は叫ぶように言いました。
「い、いつものやつ、どこだ!?おれを担当してるやつ。あの間抜けそうな栗毛のバカ、どこにいるんだよう!たすけてくれ、たあすけてくれえ!」男は泣きそうになりながら、動かない下半身を揺らして、何とか立ち上がろうとしました。でも、どうしても、足を黒い地面から離すことができません。女は妖しげに微笑みながら、男を見つめ、甘い声で言いました。

「…ねえ、あなた。あたしが、あんなことやられて、おとなしく黙ってる女だと、思った?」
男は、震えながら女の顔を見ました。天使のような白い顔が、それはやさしそうに美しく微笑んでいます。金の目はもう澄んだ緑の目に戻っていました。しかし男にはそれが鬼の形相に見えました。

「ご、ごめんなさい。すみません! し、知らなかったんです。も、もう殺したりしませんから、ゆ、許してください…!」
男は何とか逃げようとしながら泣きわめくように言いました。女はあごに指をあてて小首をかしげ、目を細めて微笑みながら、少し肩をすくめて「うふん」と言いました。男は目を見開いたまま、凍りつきました。

天使の微笑みをした女は、そこで瞬時に表情を悪魔に変え、空気を切るような呪文を唱えたあと、持っていた杖を振りまわし、こん、と高い音をたてて地面を叩きました。すると男の下の地面が割れ、ぎゃひっという悲鳴を聞いた思うと、もうそこに彼の姿はありませんでした。

そのときふと、かすかな風が女の頭の上を動きました。「…ああ!遅かったか!」という声が背後から聞こえました。女は振り向きながら魔法を解き、ランプと周囲の暗闇を消しました。すると月明かりの中に、栗色の髪をした青年が息を切らせながら立っていました。月光の差し込む明るい森の中で、栗色の髪の青年と女は向かい合ってしばし話をしました。
「ひとの担当する罪びとを、勝手に横からさらわないで下さいよ。それにこういう復讐は、道理に反することですよ」青年は困った顔をして女に言いました。すると女はしらじらと月を見あげて言いました。
「あら、そうだったかしら。でも彼がわたしにしたことに比べると、二十倍はやさしいと思うけど?」
「どこまで落としたんですか?透き見しても見えない」
「腐乱地獄の十七階くらいにいるわよ。今頃は蟹にでも食われてるんじゃない?」
「うわあ!!」青年はびっくりして、急いで手元に書類を呼び出し、お役所に救助願いを出しました。

「さてと」と女は言うと、そこから飛び立とうとしました。青年はあわてて彼女を呼びとめました。「どこにいくんです?罪の浄化願いは出して下さいよ!」
「必要ないわよ。もうわかってるから。山に行って黄水晶七千個作ってくるわ。…まあたねえ!」
そう言うと、古道の魔法使いは、ふわりと風に乗り、空の向こうに飛んで行ってしまいました。

腐乱地獄に落ちた男は、三日後になってようやく助けられましたが、体中を人食い蟹に噛まれて、それはひどい状態になっていました。青年は罪びとに癒しの術を施しながらも、言いました。
「いいですか?何度も言ってるけど、女の人をいじめたり殺したりしてはいけませんよ。あなたはいつも、女性を憎んで手の込んだ意地悪ばかりするけれど、女性を甘く見てはいけません。時には、とんでもない女性に意地悪をして、死んでからひどい目にあうことがあるってことくらい、あなただって知ってるでしょう」
「は、はい…」男は、腐乱地獄がそれは恐ろしかったらしく、素直に言いました。

「も、もう二度と、やりません…」



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2012-07-27 07:49:20 | 月の世の物語・余編

白い雪花石膏のような月が、森の梢の上を転がっていました。月明かりのため、星はいくらも見えず、ただ天頂から少し西寄りに傾いたあたりに、二つの一等星がかすかに光って見えます。

二匹の白蛇は、細い声で愛の歌を歌いながら、夜の森をさらさらと歩いていました。木々がそれを喜んで涼やかな風を呼び、自分たちの歌を歌いました。森の隅に隠れているほんの小さな花も、見えない星のためいきのような、かすかな歌を歌っていました。

二匹が森のシステム管理を始めてから、どれくらい経ったのかわかりませんが、今のところ、特に変わったことはなく、森は静かに生きて、この地上でやるべきことをやり、歌うべき歌を歌っていました。森が守っている小さな鼠も、増えもせず、減りもせず、安定した数を保って生きていました。鼠は時々、きゅう、と小鳥のような声をたて、それが白蛇には、小さな宝石のような光を吐いているように見えました。それはまるで、大きな鍋に煮た星光のスープに、ほんの少し混ぜるシナモンの香りのようでした。その鼠が鳴くと、星光のスープはそれはよい香りを放って、森全体に、心地よく甘い心が染みわたり、神の微笑みが森全体に切なくも強くふりかかるのです。

二匹の白蛇は、自分たちが管理を始めてから、森の天然システムが、特に変調もきたさず、順調にリズムを刻んで行われていくことに、静かな喜びを感じていました。

「いい夜だねえ、兄さん」前を行く弟が言うと、後ろを行く兄も答えました。「ああ、いい夜だ。歌が透きとおっている。美しい愛が流れている」双子の白蛇は、うれしそうに森を見渡しました。

そうしてしばらく、静かな喜びに二匹が浸っていると、ふと、どこからか変わった風の音が聞こえてきました。「おや?なんだろう」兄が言うと、弟も言いました。「おや?なんだろう」

風はまたたく間に森の方にかけてきて、森の梢に触れ、まるで女神の髪をかき乱すような音をたてて過ぎ去っていきました。それと同時に、月のある空に一瞬赤い絹をひるがえすようなオーロラが揺れ、かすかな鈴のような音を地上に落としたかと思うと、すぐに消えてしまいました。

二匹はしばし、茫然と空を見ていました。「一体なんだろうね」「本当に、なんだろうね」二匹が空を見ながら言うと、ふと、弟が何かの気配に気づいて、後ろを振り向きました。すると、そこにいるはずの兄の姿がないのです。弟は驚いて言いました。「兄さん!どこに行ったんだい?」すると、声はすぐに返ってきました。「何を言うんだ、わたしはここにいるよ。いや、それよりおまえこそ、どこにいったんだい?」「え?」

弟は、びっくりしました。今度は前の方を見てみましたが、そこにも兄の姿はありません。「兄さん、どこに行ったんだい?」「だからここにいると言ってるじゃないか。おまえこそ、どこに行ったんだ?」
そこに至って、二匹はようやく気付きました。兄も、弟も、同じ一つの口でしゃべっているのです。

ふと、周囲の樹霊たちがずいぶんと驚いて自分たちを見ていることに、二匹は気付きました。樹霊たちは彼らに、いつの間にか、二匹が一匹になっているということを、教えました。
「ええ?」と兄は言いました。「おやあ?」と弟は言いました。そう言えば、どちらも、同じ口でしゃべっています。「兄さん、兄さんはわたしみたいだね」「おまえ、おまえは、わたしみたいだね」一匹になった白蛇はきょとんとした眼で宙を見つめました。「「どういうことなんだろう」」と二匹は同時に言いました。そして彼ら、いえ彼は、呪文を唱えて、元の姿に戻ってみました。髪も肌も服も真っ白な美しい若者がひとり、そこに立っていました。ただ、胸飾りは、瑠璃でも、柘榴石でもなく、不思議な白い筋の入った紫色の石に変わっていました。それを見て彼は弟のように言いました。「何だろう?紫水晶だろうか。透きとおっているよ」すると彼は、今度は兄のように言いました。「ちがうよ、菫青石だろう。少し紫が濃いけれど」

「「なんでなんだ?」」ふたりはいっぺんに言いました。そして少し悲しくなりました。「弟よ、おまえはいなくなってしまったのかい?」「そんなことはないよ。わたしはここにいるよ。兄さん、兄さんこそ、いなくなってしまったのかい?あんなに、わたしたちは、いつもいっしょだったのに」「ああおまえ、わたしはいるよ。ちゃんとここにいるよ。いつもいっしょにいるよ」

二人は会話を交わしていましたが、樹霊たちからみると、それは一人の人間が二役の芝居をしているように見えました。兄の言ったことも、弟の言ったことも、胸に菫青石の飾りをつけた、一人の精霊が言っているのです。

しばらくの間、一人の白い精霊は、黙って森の中に立っていました。互いに互いを失ってしまったような寂しさが胸を浸して、目からほとほとと涙が流れました。精霊は、ああ、と重い息をついて、頭の重さのままにうつむきました。風がまた森の上をなでて行きます。誰かに呼ばれたような気がして、二人、いえ一人の精霊は静かに顔をあげて上を見ました。するとそこには、それは大きな白い蛇神が、森の梢の上に軽々と寝そべり、細やかな綿毛のような白い光を放ちながら、静かにこちらを見下ろしていたのです。

神を見て驚いた精霊は、慌ててひざまずいて拝礼しました。すると蛇神は、星の香りを放つ息をふうと吐いて、精霊を清め、言うのです。

「清くも白き精霊よ。汝は一人であったが、ある目的のためにあるときから二人となっていた。片方の名を、『いるもの』と言い、片方を、『いないもの』と言った」
精霊は驚いて、顔をあげました。蛇神は静かに続けました。「または、片方を『愛』と呼び、片方を『虚無』と呼んだ。二つのうち一つは本来ないものであったが、仮にあるとしていなければならなかったため、神は汝を二人に分けた。ゆえにこれまで汝は二人であったが、鍵の方向が変わったため、元の姿に戻った」
「そ、それはどういうことですか?」思わず、精霊は言いました。それはもはや二人ではなく、一人の声でした。

すると蛇神は蛇の顔でかすかに微笑み、言ったのです。「汝は、この世界を助けて行くに必要な一つの生きる紋章の一つであった。神は心清き汝を選び、一人を二人に分け、あり得ない双子として存在させ、苦しき世界を創造しつつ営んでゆく神の御計画のための、ひとつの灯として働いていたのだ。汝は神のため、そしてこの世界のために、いかにも大切な仕事をしていた。そしてその役目が、今日、終わった。よって汝は元の姿に戻った。白くも清き精霊よ。新しき名が、汝に授けられる」

すると蛇神は、精霊にしか聞こえぬ声で、精霊に新しい真の名を教えました。精霊は驚きました。そして言いました。「ああ、世界は、世界はそういうことになっていくのですか?」
すると蛇神はまるで月に溶けるようにやさしく微笑み、静かに「そうだ」と言いました。

精霊の心の中を、歓喜が踊りました。「ああ、そうなれば、なんとうれしいことでしょう。なんという美しい希望でしょう。神よ、御身のためにこの身がお役にたてたことをうれしく思います。ありがとうございます」そういうと精霊は、深く神に頭を下げました。そして精霊が再び顔を上げた時、蛇神の姿はもうそこにありませんでした。ただ、清らかな星の香りだけが、見えない薄絹をふわりとかぶせるように、森に漂っていました。

「ああ、兄さん」と精霊は弟のように言いました。「なんだい、おまえ」と精霊は兄のように言いました。「おかしいねえ、一人なのに、二人分しゃべってしまうよ」「そりゃあ何せ、本当に長い間、わたしたちは二人だったからねえ」「でも、一人だったんだね」「ああ、昔から、何となく感じていたよ、わたしたちは本当は一人なんだと…」「わたしもだよ…」

精霊は白蛇の姿になり、また森の中をさらさらと歩きながら、歌を歌いました。小さな鼠が、その前にまろび出てきて、キュウ、と鳴きました。この鼠の吐く小さな魔法の香りで、白蛇は小さくくしゃみをしました。それはたった一人のくしゃみでした。

「ああ、わたしは今、一つの愛なのだ」

一匹の白蛇は自分の中で、二人であった自分の心が、望遠鏡の焦点が合ってくるように、だんだんはっきりと一人に見えてくるのを感じていました。胸に暖かに燃える金の光が、喉を通り美しい愛の歌となって森を流れました。樹霊たちがそれを喜び、全てを賛美する歌を歌い始めました。

小さな鼠が、キュウと鳴き、かすかな星のため息を、吐きました。風が起こり、生きている天然システムが、歓喜に揺れて清らかな斉唱を、世界に流し始めました。それはこう歌っているのでした。

「世界にどれだけ多くのものがいようとも、存在するものはただひとつ、愛のみなのだ」。



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自画像

2012-07-26 05:49:47 | 画集・ウェヌスたちよ

自画像です。少々若く描きすぎたかな。でも今までの自画像の中では一番似てると思います。

鏡を見て描いたので、目にかかってる前髪や、髪の分け目など、実際と反対になってます。

着てるのは何年か前に買った男物のTシャツ。
あの頃はなんか変な服が流行してて、着れるものがなかなかなかったんですよ。

流行にはあまり興味ないのですが、というより服自体にあまり興味ないのですが、今の流行も、なんか変だと思うな。髪形とか。よくわからないけど。

まあ、みんながそれがいいと思っているんだから、いいか。と、思ってます。

わたしは古Tシャツとジーパンで構わんのです。






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聖者3

2012-07-25 06:09:35 | 画集・ウェヌスたちよ
青髪青眼。

色がないとまるでわかりませんが。上部によくいる青髪青眼です。
「鏡」編に出てくる、少々人間に苦い思いを抱いている上部人の聖者姿。
彼は老人の姿にしようと思ったのですが、老人の聖者を描くのは難しくて、若くしました。もちろん聖者として下るときには、髪の色は変えます。

彼には親友がひとりいるようだ。

まあ上部人はみなが友人みたいなものですが。彼の性質を特に愛してくれる友人がいるんでしょう。



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聖者2

2012-07-24 13:50:33 | 画集・ウェヌスたちよ
金髪青眼。

金髪碧眼というのが本来正しい言葉なのでしょうけど、この物語では、青眼というほうがさわやかな感じがすると思って、そう呼んでいます。

詩人を守護している聖者です。天を指さしながら紋章を描き、何かの魔法を行おうとしているところです。

姿は少年のように若く見えますが、聖者はみな相当に年寄です。存在というものは、年をとればとるほど、若くなってくるらしい。神はすばらしく若々しく、みずみずしく、美しくいらっしゃる。その御心は赤ん坊よりも純真だ。

ところで最近わたしが描く人物は、みな目が鋭いですね。男性も女性も。




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聖者1

2012-07-23 07:33:35 | 画集・ウェヌスたちよ
白髪金眼。

前に描くのは最後だと言いながら、また描いてしまいました。高いマーメイド紙もこれが最後の一枚だ。またいつか買うけど、しばらくは紺の色画用紙を使おう。

この色の紙で切ると、とてもきれいに見えるのですよね。

「α」の編で、彼は多分、見えない観客の中にいたと思います。それは大勢の聖者があそこにいたようです。
鍵を左に回せと言うのは、何となくわかるでしょう。

簡単に言えば、もう、悪いことはできなくなる、という意味です。

それにしても、この人はきれいな人だなあ



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ドラゴン・スナイダー

2012-07-22 07:10:32 | 画集・ウェヌスたちよ

「竜」の編にでてきた、ドラゴン・スナイダーです。色がないからわかりませんが、髪は黒く眼は青い。なかなかの好青年というか、よい少年です。年齢は十七~八歳というところでしょうか。

日本では「竜」なんて名前、よくあるでしょうが、欧米世界では、ドラゴンなんて名前、珍しいというか、絶対いないような気がしますね。まあ、現実に、タイガーという人もヴィーナスという名の人もいるので、多分こんな名前もあっていいだろうと、名づけました。そしたらすごくかっこいい少年になりました。カラテの有段者らしいです。名前負けしてませんね。

欧米世界では、ピーターとかジョンとか、聖書に由来するヘブライ語源の名前が多いように思いますけど、ギリシア神話系の名前をつける人もたくさんいるのかな。そういえばダイアナはローマ神話の月の女神でしたっけ。あ、エルキュール・ポアロのエルキュールはヘラクレスのことだ。ジェニファーという名は、アーサー王の妃グィネヴィアがもとらしい。

ドラゴンは、ゲルマン神話や黙示録などに出て来るドラゴンじゃないですね。多分東洋系のドラゴンだ。お父さんは外国の人といろいろ話をする機会も多かったので、そこらへんの教養もあったと思われます。

彼の正体が誰なのかは、皆さんわかると思います。さて、彼は地球上でこれから何をやっていくんでしょうか。アーヴィン・ハットンの存在も気になりますが…

でもそろそろ、本当に物語も終わりに近い。後は皆さんでいろいろ考えてください。




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