アシメックはまたしばし黙った。彼の脳裏の中では、青い空が広がり、その中で一羽の鷲が舞っていた。彼の心はまさにその状態だった。何かに取りすがろうにも、何も見えない。
今まで、まずい、と思うことは何度かあった。そのときは、神の教えを思い出して、正しいと思う方を選んだ。そうすれば必ずうまくいった。ならば、どうすればいい。今このとき、どうすればいい。神は何を教えてくれた。
正しきものついには勝たむ。
正しいことは何だ。お詫びだと言ってまた何かを持っていけば、余計に悪いことになるだろう。どうすれば、ヤルスベとの関係を元に戻せるのか。
「ゴリンゴと話をする」
アシメックは言った。それしかない。とにかく今できることは、それだけだ。
寄り合いが終わると、アシメックは早速楽師たちのところに行き、川岸で歌を歌ってくれるように頼んだ。お互いに行き来するときは、川岸で歌を歌って事前にそれを向こうに知らせる習わしになっていた。だが、カシワナの楽師たちがその準備をしている最中に、ヤルスベ側から歌が聞こえてきた。
明日いく
明日いく
ゴリンゴがいく
準備して待て
知らせを受けたアシメックが慌ててケセン川の岸に行くと、向こう岸でヤルスベの楽師たちが丸太をたたきながら繰り返し歌を歌っていた。聞いたこともないような調子だ。ヤルスベの歌は、カシワナ族の歌とは少し違うが、リズムの軽い、聞いておもしろいものだった。それなのに今聞いている歌は、まるで歌とも思えないような歌だ。低いところで抑揚のない音階を繰り返している。まるで怒った時の獣のうめきのようだった。