「うまそうだな」
「うん。青菜がなくなってきたから、干したニドの芽を入れた。ちょっと苦くておいしいよ、あにや」
「おお、ありがとう」
礼を言って、アシメックはソミナの差しだす土器の碗を受け取った。うまそうな粥が湯気を立てている。木のさじですくって食うと、これがまた涙が出るほどうまかった。体の芯から温まってくるようだった。
「うまい」
とアシメックは心から感動して言った。米ほどうまいものはない。今まで何度も食っては来たが、こんなうまい米を食ったこともない。
ヤルスベが欲しがる気持ちがわかる。こんなうまいものを食ったら、食べないでいる暮らしなんて考えられまい。
食い終わって碗をソミナに返すと、アシメックは化粧を直し、外に出た。キルアンの肩掛けをつけているが、外の風は寒かった。ミコルのところに行って、風紋占いを聞き、今日はそれに従って、イタカの野に行った。タモロ沼を見に行くのだ。
冬になると、稲は枯れて見えなくなる。オロソ沼では、沼底に根が残っているので、また次の春には生えてくる。だがタモロ沼では、そうはいかないようだった。
アシメックは前に、タモロ沼の底の土を、ヤテクと一緒に確かめ、稲の根がタモロでは伸びていないことを突き止めていた。
水が浅いからだろう。ということは来年も稲植えをやらねばならない。毎年倍の米をとろうとしたら、それくらいの苦労はいるのだ。またやればいい。みんなやり方は覚えている。
アシメックはタモロ沼の岸に立ちながら、そう思った。風が吹いて、沼の水面に文様を描いた。胸の奥で、一瞬心臓が揺れた。目眩がする。だが倒れてはならない。アシメックは目を閉じ、しばらくの間じっとして、変調が終わるのを待った。
ケバルライ
誰かの声が聞こえた。わかる。これはアルカラからの声なのだ。誰かが自分を呼んでいるのだ。だが、まだ行くわけにはいかない。