天の岩戸は 開けども
月の岩戸は 開かぬぞ
たはぶれに噛む 人の世の
牙にくづるる たわやめの
十重の朝鳥 歌へども
玉の鏡を 磨けども
よろづつはもの 集へども
月の岩戸は 開かぬぞ
かしこき長の 心さへ
氷と落つる 長き夜に
千代の歌楽を 編まふとも
月の岩戸は 開かぬぞ
かなしき夜半の かたすみに
白き盥を うちふせて
ももちのをとめ 踊れども
月の岩戸は 開かぬぞ
闇より深き 新月の
石より硬き 金剛の
とはのねぶりに 散る夜の
かなたに去ねる 面影の
御簾のをかげの 小机に
ひじをたてつつ 思ひては
後の語りを 書かむとぞ
筆を持つ手も こごり落つ
二章目はなき 物語
よもつひらさか 巌ふたぎ
もだしたまへる 神の目の
月の岩戸は 開かぬぞ