近づいて来るカシワナの岸を見つめていると、その上に、見も知らぬ暗雲が漂ってきている気がした。
そして、冬になる前に、アシメックはようやく、オラブを探すための山狩りを実行した。男たちを集め、山の中をオラブの名を呼びながら探させた。境界の岩を超えることはできないが、呼んでいるうちに答えがあるかもしれない。
ほとんど葉を落とした木々が、山を歩き回る人間たちを冷たく見降ろしていた。夏鳥は去っていた。もう少しすると雪が降るだろう。あまり深入りすることはできない。アシメックは境界の岩のそばに立ち、山の奥を見た。山の木々が作る闇も、梢がすいて幾分明るく見えた。だが、わけのわからない闇がそこに巣くっているような気がする。
みんなで何度も声を枯らして呼んでみたが、結局オラブは見つからなかった。
捜索が無駄なことだとわかってくると、アシメックはみなを帰らせた。男たちは悔しそうに帰っていく。アシメックだけは、未練があるように、しばし山に残った。日が暮れる前に帰らねばならないが、まだ何かできることはないかと思うと足が動かなかった。
何もできないのか、おれは。このまま放っておくことはできないというのに。アシメックは足元の土をにらみながら思った。
「オラブはもうすぐ死ぬわ」
ふと、後ろから声がした。アシメックは驚いて振り向いた。すると、少し山を登ったところに女がいる。